ミッドナイト恵比寿 繁盛期を過ぎてスケジュール進行が緩やかになりつつあり、これまで接待以外で飲みに行くのを自粛していた幼馴染が職場に顔を出したのは、壁の時計が丁度午後六時半になった時だった。
「銀座に飲みに行こうぜ」
まだ事務作業をしている社員の前を通り過ぎ、自分のデスクに腰掛けるなり夜遊びの誘いをかけるのに溜息が漏れた。オレが営む清掃会社は九井一が営む金融会社の子会社にあたる、この場に居る全員がそれを知っているため男がどんな態度を取ろうとどんな言動をしようと肯定する以外の選択はない。しかし、今日ばかりはタイミングが悪い。先約があっても優先すべきは九井一だが、飲みに行くだけなら多少の言い分は通る。幼馴染が断るなら、オレはそうかと頷き丸く収まる。
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