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    すごろくアンソロジー寄稿二作目のサンプルになります。

    ヨルムンガンドと踊れ 幼い頃は時計の針の進みを遅く感じていたが、歳を重ねるごとに時の流れは早くなっていき気付けば二十八に手が届くそんな年齢になっていた。
     青臭い夢を追っていた日々に終止符が打たれて十年と少しばかり。人も街も変わるには充分な年月で、特に日本の中心部である東京は目まぐるしく変化し新しい建造物も増えた。組織にも同じことが言える。法改正に伴い時代に取り残され先細りする企業がある中で、波に飲まれるどころか先を見越して乗りこなした東京卍會は日本の裏社会を牛耳る成長を遂げた。表社会でも仕事の手を広め始めて規模が大きくなるのに、年々警察の監視が厳しくなっていた。それでも、暴対法や暴排条例の規制対象外にある半グレを取り締まるのは難しく、弱体化を図ろうにも手段は殺人や恐喝、詐欺に覚せい剤所持などによる個別の事件で刑法や特別法を適用しての摘発になる。
     それにしたって叩けるほどの大きなネタがなく、末端の構成員を暴行傷害や威力業務妨害で引っ張る程度。良くても精々が風営法で店の業務停止命令を一週間かそこら出すくらいで、表と裏の両方で東卍が隆盛し続ける現状に組織犯罪対策課も焦燥を募らせていた。暴力団と異なり看板を掲げているわけではない愚連隊の実態は謎に包まれている部分も多い。名前と経歴は洗い出せても犯罪に加担した証拠がなければ逮捕には至らない。
     この辺は稀咲の頭脳と手腕だけの話でなく、警察組織が一枚岩でないのも関係している。黒川イザナと警察の繋がりもあって捜査が打ち切りになるケースからキャリア組とノンキャリア組の軋轢が存在した。
     しかし、便宜を図られてばかりだと不審点から人事一課が動く面倒が生じるため、適度に情報を流しストレスコントロールをしてやらなければならなかった。稀咲鉄太の偽装死の件もあってか、今回は大掛かりなものとなった。内部告発を装った情報提供、疑いもせずに喰いつき一斉検挙を狙って大々的なガサが入った。主な資金源を担っている九井一所有の会社を重点的に他の幹部のフロント企業、企業舎弟にあたる子会社まで全てだ。幼馴染のグループ傘下にある自社にもその手は及んだが、抜き打ちを知っていたため事前に重要な書類は保管場所を移動してあり、予め用意しておいた書類不備による少額の申告漏れを見つけさせ追徴課税を支払う流れに持って行けたおかげで、手酷い損失を被ることはなかった。
     空振りに終わって、はいそこまでと納得する犬どもじゃない。国税局や検察と連携しての捜査に踏み切って成果が得られなかったでは司法制度の信用に関わる。本音を言えば肩書と面子に泥を塗られて堪るかといったところだろう。大打撃とまではいかずとも、前進しているのを示すだけの根拠を手に入れようと躍起になり、幹部個々人への張り付きが始まった。窮地に立たされれば形振り構っていられない。警察の名誉や威信に賭けて起死回生を狙う。
     だが、向こうの手口を嫌というほど知っている身としては脅威と感じなかった。マークすることで重圧を掛けられても、張られていると分かっていれば対処のしようはいくらでもある。嗅ぎ回られたら面倒な客との接触は避けるし、盗聴されてまずい内容の話は電子機器を通して行わない。それに、捜査員を幹部周りに集中させれば結果として構成員への注意が削がれるため抜け道には困らなかった。

     会社と自宅を往復する毎日を過ごし、のらりくらり躱していると、尾行が始まって十日目の夕方に、自分の担当に割り振られていた刑事が、変化が見られないことに痺れを切らして行動に出た。重箱の隅をつつくように擦れ違いざまに肩をぶつけて公務執行妨害を取る、反社の連中に使うお決まりのパターンだ。自分を拘束する手は汗でぬるつき、手錠を取り出す手際の悪さから自身の判断ではなく指示されたのが伺えた。
     手首に嵌められる金属の冷たさにも別段慌てはしなかった。手錠を掛けた方が切羽詰まった心理状態だと知っているし、何より不起訴処分に終わる。無謀な手段と理解しながら取り調べに持って行くのは七十二時間の勾留が可能なこと、その時間を使い九井一に最も近い位置にある自分を落とす賭けに打って出たからだ。
    「少し誤解があったみたいだ、留守の間の業務は任せる」
     弁護士に連絡すればすぐに釈放される。殺気立つ部下に所定の手続きを踏むよう言いつけることで不要な揉め事を起こすなと目配せする。無駄な火種を抱えれば更に監視が厳しくなり二十四時間体制で張り込まれれば仕事に支障が出る。わざわざ幼馴染と別行動の時を狙って逮捕したことから尻に火が点いているのが伝わる。考えるまでもなく、どちらを選ぶか答えは決まっていた。
     取り調べは想像を超えたきついものになるかもしれないが、タイムリミットは存在する。七十二時間後には弁護士が到着して手続きを済ませる、相手の執念の勢いを削ぐにも適度にガス抜きをさせて、無駄な徒労に終わったと教えてやる。それで少しの間は、こちらに手出しする気も失せるだろう。
    「九井社長には心配ないと伝えてくれ」
     そう言い終えるなり腕を掴まれ停めてある覆面車両へと連行されるのに大人しく付き従った。後部座席に乗り込むと、留置場での三日間のバカンスを過ごすのに少しでも体力を温存するべく、くたびれたシートに背を預けて瞼を閉じた。

     東京卍會が裏社会の頂点に到達する道のりは常に危険と隣り合わせだったが、大きな抗争も起きなくなり表の世界と行ったり来たりする生活を送る環境では、日常を脅かされることが頭から抜け落ち狩られる側の気持ちを忘れる。簡潔に言えば平和ボケというやつだ。留置場の鉄格子を見て自覚するんだから、相当だ。
     三日の猶予でどういう手段を興じるかは未知数だが、形振り構っていられない状況でこっちが有利になる材料を得られたら良い。何時もとは反対に詰められる立場でも命は取られない、そこで無意識に気が緩んでいることに嘆息を漏らすと、頬を叩いて喝を入れ革靴の音が響くのを待った。

     組織の実態を洗い出すのは組対だが暴対法の枠外にあるオレ達を個別の案件で逮捕するため捜査一課と連携し合同捜査を行う。自分を引っ張ってきた刑事の顔に見覚えはなく、新人という以外に分かるのは潜入捜査などの観点から顔が割れるのを避ける組対ではなく一課の人間ということだ。今回の件で出張って来るのも考えてはいた。その予想は的中して取調室に入ると調書を作成する書記は良く知る人物なのに思わず眉間に皺が寄った。さっさと切れて欲しい数年来の腐れ縁、警察の秩序に囚われない中年の男は用意した餌を無視して自力で獲物を捕まえる。一度食らいついたら離さない執念深さを宿す。オレとココの間で『蝮』と呼ばれるヤリ手の刑事だった。
    「今日はお勉強ですか?」
     部屋の隅の机に向かいボールペンを握る男を慇懃無礼な音で煽ったが、人様にも分かる言葉で話せよ犬ころと歯牙にもかけなかった。反応が薄いことに鼻を鳴らし席に着くと新人が咳払いし聴取を始めた。どういう腹積もりか読めなくても、小手先の作戦は失敗に終わるんだ。早いところ交代してイジメ抜けと心中で悪態を吐くも一時間もしない内に頭痛に襲われる羽目になった。
     それというのも同じ質問を延々と繰り返すからだ。この遣り取りをあとどれくらいするのか考えれば苛立ちを煽られた。昨今は自白の強要のみならず、休憩を挟まない長時間の拘束は人権侵害と見做され禁止されている。取り調べの不透明さが問題視される時代になりつつあるものの、あくまでそれは一般人に対しての措置で反社会側の人間には適用されない。合法の範疇で仕事をしようと表の肩書を持とうと自分達の扱いは極道者のそれと近く、この場では人権なんてあってないようなものだ。
     古株の刑事なら口を割らせるのに恫喝する勢いでくるが、経験も浅く年若い男は馬鹿の一つ覚えみたく同じ話題を巡回する。幼馴染の子会社で資金洗浄ないし脱税を手伝っていたんじゃないか、書類の不備は故意だったんじゃないか、二人の関係について。
    「その件なら税理士の方と話してくださいよ」
     暖簾に腕押しの状態で、何度聞かれようと同じ返事しか返さないのに対面に座る男は頷きながら、それで九井社長との付き合いはと質問しなくても分かっている既知の情報を初めて聞くかの態度で尋ねてくるのに嫌気が差す。
    「オウムと話がしたいならペットショップにどうぞ。九井の言葉を借りると時は金なりだ、刑事さん」
     胸中の苛立ちが言葉の乱れで現れるのに、蝮は声を出さない特徴的な笑いを漏らし上機嫌なのを示した。
     互いに知っている情報の質疑応答は茶番でしかなく、言ってしまえば根気勝負だ。後進の育成という名目の新米刑事の抜擢は、右も左も分からないような人材が故に決められた手順を忠実に熟し、効果が見込めると踏んだから。馬鹿と鋏は使いようとはよく言ったもんだ。狡猾な男の目論見通り初日の取り調べは掌で転がされて終わった。

     最低限の睡眠は摂れても、何時呼ばれるか分からない状況に気を張ってしまい精神がすり減らされる。始まる前から呑まれてどうするんだと深呼吸して心に飼った緊張を散らす。午前十時になると留置場の格子戸が開かれ二日目の幕が開けた。
     昨日と変わらず蝮は部屋の隅に居て聴取は新人が務めた。また同じ手口で責めてくるというなら好都合だ。初見では、やり込められる形になったが経験の浅さが不利となる部分を此方から突いてやる。案の定、寸分の狂いもない質問の内容に問いを織り交ぜた答えを返す。納税の申告漏れを詫びつつ税金で給料が賄われる刑事を目指した理由を聞き、代り映えしない聴取に応じながら仕事に慣れたかと煽り、独り身だと生活が雑になると言い訳のような世間話に乗じて家族が居るかを問う。こんなあからさまな常套手段でも一課に配属されてそう時が経ってない年下の男は無視できず、聞かれたことに答えるよう声を尖らせるも構わずに続けた。結局、会話の主導権を取り返せずに翻弄された。一進一退、花は持たせてやるが接待というのを忘れるなと態度に滲ませたこの日の軍配はオレに上がって終了した。
     あと、一日の辛抱だ。疲労を訴える体を薄い布団の上に転がして朝が来るのを待った。

     小さな格子窓から光が射しこむと同時に布団から抜け出す。皺の寄るシャツに袖を通し、くたびれたスラックスを履きベルトを締めれば正座して迎えを待つ。程なくして担当官が解錠し扉を開いた。
     目を瞑っていても歩き慣れた廊下を進み取調室に入ると、ようやく舞台袖から上がってきた蝮が中央の椅子に腰を落としていた。自分もまた定位置に着き、先手とばかりに舌を鳴らす。
    「税務署の真似事がしたいなら転職したらどうです。それとも働き口、紹介しましょうか」
     長年、愛人なんかやってると自分が偉くなった気になる馬鹿が居る。飼い犬と主人を混同してんのか知らねぇが、頭悪いくせに九井みたいな話し方してんじゃねぇぞ。純度の高い悪感情を鼓膜に流し込まれるのに気分が良くなる。ここからが本番だ。楽しませてやるが、無駄骨に終わった現実の苦さも教えてやるよ。
     息を深く吸って吐き出す。巧妙なやり口で精神と肉体を甚振るのは身に染みている、骨は折れるが少しでも違法性を訴える材料を手に入れればあとは弁護士に任せて不起訴処分からの釈放。黒が白に塗り替わる。土台、公務執行妨害とは名ばかりの難癖では檻にぶち込めもしないが。
    「じゃあ、無駄は省くとしましょうか」
     最初の一時間は所定の遣り取りをした。休む間もなく話を続ける点だけが異なったが気にせずに応じた。そこから更に三十分過ぎると喉が渇きを訴えた。軽く咳き込めば茶が欲しいか問われるのに、どうせ飲ませる気はないだろうと心で吐き捨てれば、調書を作成している新人に茶を二つと端的に述べるのに少なからず驚きはあった。飴と鞭でもやる気か疑いの眼差しを向ける。そう身構えるなよ、脱税なんてバカやっても税金を納めたんなら茶くらい出すと痛烈な皮肉を刺した。
    「故意と認められなかったからシャバに居る。まぁ、手違いでこんなところに連れて来られたけど」
     これまでやってきたことを考えれば死刑台に立つべきだろうが、皮肉の応酬を遮るように茶の入った紙コップを二つ持った刑事が戻ってくると言葉を止めて目の前にその内のひとつが置かれた。手を付けるか迷ったが自白剤は混入していないだろう。一口含んで喉奥に流す、水分で潤う感触に息が漏れた。
     人心地ついたところで聴取が再開され、どれくらい経ってからか。部屋の異変に気付いた。梅雨特有の重たくじっとりした空気の淀みに息苦しさを覚えシャツが汗で張り付くのに、空調が切られたのを肌で知る。
     茶を取りに行かせたのは席を立つのに疑いを持たせないための理由付けで本当の目的はオレに知られず空調を切ることにあったんだろう。弁護士に違法性を訴える対応を取ろうにも、空調を切って来いとは蝮は言ってない。ボイスレコーダーを聞き返しても明確な指示と取れる部分がなければ、故障という言い訳が効く。数時間に及ぶ詰問で精神を削り、疲労による判断力の低下と空調を止めることで室温を上げ狭い部屋の空気を薄くすることでまともに思考する力を奪う。自白を引き出す使い古された手、状況変化に適応させない工夫が凝らされている、つくづく嫌な男だ。
    「奥さんは……離婚してもう居ないか。なるほど、娘さんと上手くいってないわけだ」
     家族に触れることで蝮のぎょろりとした小さな瞳に獰猛な光が宿る。敢えて逆鱗に触れてやればボイスレコーダーに手が伸びて録音を止める、どうやらお愉しみの時間らしい。机に音を立てて肘を着き、下から見上げるように睨みつけられた。
     このままダンマリ決めてムショにぶち込まれたらどうなるか分かるか、飢えた野郎どもの便器にされるか報復で刺されるかだ。そんな脅しが通用しないのは口にしている当人も理解している。
    「そいつは怖い。不当逮捕に冤罪で大事な経歴に傷がつく。出世がまた遠くなる」
     昇進と無縁な身を論い火に油を注いでやれば、蝮は立ち上がりオレの座る椅子を強く蹴飛ばした。重心が傾いて受け身も取れずに床に倒れる、打ちつけた右半身に走る痛みに呻きを漏らせば上から温くなった茶をぶっかけられる。小便じゃないだけマシだと油断していたら靴裏で腹を蹴られ仰向けにされ、股間を踏みつけられた。脳に突き抜ける衝撃と痛みに手足を暴れさせると、蹴りつけられて床を転がり悶絶した。だらだらと冷や汗を垂れ流すオレを見下ろす窪んだ瞳、汗と脂で肌を光らせヤニで黄色くなった歯の隙間から短い舌を覗かせる。守ってくれる九井は居ないぞ、犬ころと蝮は嗤った。
     終りの報せを待ち、跡や傷が残りにくい場所への的確で執拗な責め苦によって与えられる屈辱に只管耐えた。意識が朦朧とすると茶を浴びせられ起こされ、蒸し暑い密室に感覚が狂いだしそう、いやもう狂っていたのかもしれない。口内に溜る唾に鉄の味が混ざっているのもよく分からなかったが、自分が何故こうまでして耐えるのかだけ忘れず息をする肉に成り果てているのに、引き攣った笑いを落とせば、まずいですよ、黙ってろこいつはそんなヤワじゃねぇ、でも、とぼやけた音が耳に入ってきたがどうでも良かった。どうだスッキリしたか、口角を釣ると平手が飛んできて白い星が見えた。それでも笑うのをやめないでいれば胸倉を掴まれたところで重たい音が聞こえる。慌ただしく蝮の傍に寄り耳打ちすれば盛大に舌打ちした。その態度に弁護士の到着を察して、掠れた声を絞り出した。
    「どう、やら、時間切れみたいだ」
     東京卍會という怪物に立ち向かうのは結構だが今もこれからも望む未来は得られない。既に袋小路を迷っているのではなく行き止まりに在るんだ。言外に諦めというのを匂わせても、蝮はまたすぐ会うことになる、楽しみにしとけとねっとりとした嫌な笑いを浮かべて一言突き刺した。

     拘留される前に預けていた所持品を受け取り、携帯を調べれば取引先からのメールに混ざって幼馴染からも一件連絡が入っていた。聞かれて困るようなことは書いてない。終わったら顔を見せてくれ、たったそれだけで会いたい気持ちにさせるんだから色男だ。
    一行の文章に心を奪われていると手続きを済ませた弁護士が、今後の対応については改めて明日話しましょうと意見するのに携帯を閉じて頷けば九井社長が待ってますと幼馴染が迎えに来ているのを告げられて微かな眩暈を覚える。逸る気持ちを抑えて駐車場に停めてある一台の車に近付いた。自分の姿を見つけた部下が後部座席のドアを開く、疲労した身を押し込むなり香ばしい匂いだと笑い声が耳を撫でるのに、臭くて鼻が曲がるだろと返す。
    「よう、お姫様。囚われの身はどうだった?」
    「あと少し遅かったら、自力で逃げ出してたとこだ」
    「蝮の異名は伊達じゃないな。何を言われたんだ、ん?」
     犬猫を相手にするかに頬に宛がわれた手が顎に滑り、くすぐる動きをする。甘やかす時の癖、普段と変わらない取り調べなら思う存分付き合うが今回は拘留されていた間について語る気はなかった。内容を耳にすればココの苛立ちに火を点けるのが明らかだったからだ。それでも執拗で粘着質な尋問に神経を削られ、疲労に喘ぐ脳は意図せず本音を口から漏らす。
    「ご無沙汰なのか、求愛が激しくてインポになりそうだ」
    「へぇ、それはまた。大変な目に遭ったな」
    「年頃の娘を持つ父親ってのは気難しい」
    「もう成人してたか、アイツのところのガキって」
    「よく覚えてないけど、多分な。それがどうかしたのか?」
     上手く働かない頭では俄かには思い出せず曖昧な答えに留まる。
    「いや、親父に似てんのかと思って」
    「ふ、アレそっくりだったら嫁の貰い手がつかねえだろ」
    「分からないぜ、世の中には物好きな連中も多い」
     陰険な男と瓜二つの顔の娘。化粧をしてスカートを履いた蝮を想像する。あまりに滑稽で笑えた。神経が高ぶっていて中々、笑いを収められずにいるとココは呆れを含んだ笑いを浮かべた。
    「今夜はじっくり可愛がってやりたかったけど、どうやらお預けみたいだ」
    「迎えに来てくれるだけで、ありがたいよ」
    「おかえり、待ってたぜイヌピー」
     軽い調子で音を紡ぎ腕に抱かれるのに背にそっと腕を回した。
    真に受けない言葉を選んだつもりだった、抱擁を交わす男の夜より深い黒の瞳にどんな色が浮かんでいるか、疲弊しきった頭は上手く機能せず見逃してしまった。
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