忘却を羨む手のひらがあたたかい。
ぼろぼろになった藍湛が、俺の前に跪いて両の手を握っている。
懸命にこちらを見あげて、いつになく必死なその顔が、俺に何かを伝えようとしている。
唇がうごく。嗚呼、彼はなんと言っている?
「――――、――!」
何かを伝えようとしていることはわかるのに。それがきっと大切なことだとわかるのに。
ここは乱葬崗に近いのか。どうしてかいつもより鮮明に聴こえる亡者たちの声がうるさい。
「魏嬰、―――」
うるさい。うるさい。
「――、聞いて。私は――、」
黙れ。藍湛の声が聞こえないだろう。
「――失せろ!」
もう届かない。壊れていく彼の心を留める力が、私にはない。
―――遠くから聴こえた彼の義姉の声は届いたのに。
どうすればよかったのだろう。どうすれば、彼を繋ぎ止めていられた?
1587