今日は麻人くんをこっちで預かることになって、今はリビングでくつろいでいた。
「はぁ~」
「麻里ちゃんどうしたの?溜め息なんか吐いて」
「あ、絵梨佳ちゃん、ちょっと麻人くんのことでお兄ちゃんとKKさんから話を聞いたら想像以上にヤバい子で・・・」
「あー」
絵梨佳ちゃんが麻人くんを見て納得したように呟いた。今はクレヨンで画用紙に何か描いている。
「確かにね」
「え? 何が?」
「だって凛子のことおばさん呼ばわりしてたし、エドに容赦なく金的してたから」
麻人くんに金的されたエドさんを想像して思わず笑ってしまう。その場合、デイルさんも食らったような気がする。
「私まだそんな年じゃないのに子供からみればもうおばさんなのかなぁ」
凛子さんが暗い雰囲気を醸し出しながら落ち込む。
「私が聞いた話だと虫いじめたりしてそれ注意したら純度100の純粋な目で「なんで?」って聞いてきたらしいよ。虫関連だとKKさんにトラウマ植え付けるようなことしたし、あとお兄ちゃんから送って貰ったやつで」
KKさんがGに驚いて裏声を上げている動画を絵梨佳ちゃんに見せる。
「これはトラウマになるよ、しかも素手でつかんでいる時点でヤバいよ」
「しかも好きな本のジャンルが戦争とか犯罪系、おまけに内容まで理解している」
「私も思った、完全にヤバい子、もうサイコパスじゃん」
「まぁ、お兄ちゃんもその辺はよくわかっているから大丈夫だよ。将来が末恐ろしいけど」
「ほんとそれ」
「でもちゃんと他のジャンルの本も読むらしいんだけどね、暇なときとかお兄ちゃんが大学受験の対策に使っていた参考書を読んでたみたいだし」
「まさかとは思うけど、麻人は『本を読んで得られる知識に興味がある』んじゃないかなって」
落ち込んでいた凛子さんが顔を上げて言う。
「その可能性はあるかも、お兄ちゃんもそんなこと言ってましたし」
「でも一番は道徳教育に専念した方がいいよね、命のあり方とか」
「彼はまだ善悪の区別もつかない子供、私達大人がしっかりと教えてあげないとダメだね」
「そうだね、それが親としての責任だと思う」
「ところで凛子はいつ結婚するの? そろそろ良い年齢なんだし、いつまでも独り身じゃ寂しいと思うし」
「なに言ってるの?私の相手は絵梨佳に決まってる」
「凛子・・・」
凛子さんが絵梨佳ちゃんにアゴクイして・・・
「ちょっ! 麻里ちゃん見てるから!」
絵梨佳ちゃんが慌てて凛子さんの手を払い除けた。
「あ、ごめんなさい」
「もう・・・」
頬を赤らめて照れる絵梨佳ちゃん。ちょっと待った、なに見せられてるんだ私は!?百合か?百合を見せつけられているのか私は!?この二人は付き合ってないはずなのに、こんなにもイチャイチャされると目のやり場に困るんですけど。
「麻里ちゃん、今見たことは誰にも言っちゃだめだからね」
「う、うん、わかった」
口止めされてしまった。
「おねーちゃんみて!」
完成したのか麻人が呼んでくる。画用紙には二匹の蝶が羽ばたいている絵が描かれている。
「凄い上手だね」
「ありがとう」
満面の笑みを浮かべる麻人くん。本当に無邪気で可愛いなぁ。描いてるものが物騒なのを除いて。
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「ねえ、今日はなんの日かわかる?」
街中を二人で歩いていると暁人がいきなり聞いてきた。
「なんだ?」
今日は何の記念日でもないはずだし、さっぱり検討がつかない。
「答えは僕とKKが初めて出会った日」
「・・・」
二人で無人になった夜の渋谷を駆け回った日のことを思い出す。あのときは俺達があいつを倒すために戦って最後には別れた。まあ、今じゃ蘇ったのでプラマイゼロだ。
「その時僕はバイクに乗って事故って死にかけていたところをいきなり憑依されてさ」
「俺は身体を無理矢理奪おうとして」
「「首締めたな~/られたな~」」
二人で笑い合う。あの頃はまだお互いのことをよく知らなかったし、まさか再会できるなんて思ってもなかった。
「それにしても・・・ 暁人はすっかり変わっちまったな」
「え?何が」
「だって俺達が帰ってきたときに暁人は取り憑かれてるわ呪い撒いて危害加えるわ挙げ句の果てには出産だぞ!変わったどころか別人レベルに変わってんだろうが!」
もうツッコミどころしかない。
「まあ、確かにKKの言う通り僕は変わったけど中身は全然変わっていないよ」
「どういうことだ?」
「そのままの意味だよ」
「ふぅん、そうなのか」
「KKへの恋心とか」
「っ!?」
いきなりの不意打ちに咳き込む。
「あれれ?どうしたのKKもしかして照れてる?」
ニヤリとした表情でこちらを見てくる。
「ちげぇよ」
「本当ぉ?まああの日初めてKKとセ」
「おい!!」
これ以上言わせまいと大声を出す。
「はいはい」
「全く・・・」
俺関連になると歯止めが効かなくなるのをどうにかしてくれ。
「でもね、KKと出会えて本当に良かったって思うよ」
「なんだよ急に」
「最初はただ動いていたけど今は大切な仲間だし、それに」
少し間を置いて続ける。
「僕のことを大切に思ってくれている」
「それは当たり前だろう」
「それが嬉しく感じるんだ」
「・・・」
普段あまり言わないことを言うからこっちまで恥ずかしくなってきた。でも、たまにはこういうこと言うのも悪くないかもな。
「ままとパパおそい、どこかにしけこんでるかも」
「それどこで覚えたのよ」
「おもにおねーちゃん」
「麻里」
「麻里ちゃん・・・」
「冗談半分で言っただけ・・・」