夏は来ぬ 夏の青空に浮かぶ真っ白な雲のように、白い日傘はまぶしかった。白いワンピースからのぞく、すんなりとした白い手足。長い黒髪をゆるく束ねる白いリボンが、黒髪とともに揺れた。
日傘がくるくると回る。
断崖になっている岬の端に立つ白い少女は、海からの突風に日傘を吹き飛ばされた。
「どうぞ。壊れていないよ」
魏無羨は風にあおられて足もとまで転がってきた日傘を、少女に手渡した。絹糸の黒髪が乱れ、白く長いリボンとからまっている。華奢な指がもつれた髪を押さえた。
「大丈夫? 手伝おうか?」
少女は顔を上げた。のばした魏無羨の手が止まった。
古びた硝子のような虹色を帯びた薄黄色の瞳に、つきりと魏無羨の胸が痛んだ。
「あの丘の上のお屋敷に静養に来ているんだってよ、もう何年も前から――」
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