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    【巽零】シャワールーム

    ##巽零

    猫足とモザイクタイル 首筋で緩慢と気まぐれに弧を描く濡羽色の髪、血肉の透けるほどに蒼白い肌、ほんのりと上気した靱やかな長身痩躯をここで見かけるのはこれで二度目だった。ちょうど設備を利用し終えたところだったらしく、湯に濡れそぼる身体のままぞんざいに開いた個室の扉から剥き出しの半身を覘かせている。分け目を見失い好き放題枝垂れる前髪の隙間から、平生よか幾らか丸みを増した紅玉がこちらを向いていた。ぶつかり合った視線を動かさぬまま目の前の簡素な椅子に置いてあるバスタオルを手探りで求める朔間零の、黒髪から絶え間なく滴る雫を映像か何かのように眺めながら脳裏に思い描いていたのは、一度めの邂逅の事だった。
     一日の終点と翌日の始点、夜と朝のあわい、日も昇らぬうちのシャワールーム。明け方に憂鬱を募らせ目を覚まして手持ち無沙汰に寝返りを繰り返し、結局二度寝を諦めて軽く荷物をまとめ、ふらりと外に出た。何とはなしに目指したのは活動拠点であるビルディング、その八階にある共有設備である。半ば夢うつつでロッカールームの間を縫い、脱衣スペースに足を踏み入れた瞬間、何だか妙に禍々しい気を個室の一つからひしひしと感じて、携帯しているロザリオを翳し退魔の文言を並べ立てながら勢いよく扉を開け放った先で茫然と立ち尽くしていた男。退化した翼に酷似した肩甲骨、精緻な珠を連ねた脊椎、湯煙を纏って紅潮する蒼褪めた皮膚。過激と背徳を背負う自称吸血鬼はその後否応なく夢から醒め非礼を平謝りする聖職者を寛容に宥免したのだった。
    「おや、これはこれは。ここでおぬしに会うのは二度めじゃのう、風早くん」
     奇遇じゃのうと老成した口調でのんびりと笑んで指先に摘んだ大判の布を手繰り寄せ、それをごく自然な所作で腰に巻きつける。こんな時間である、別なる利用者さえいなければ人目を憚る事も余計な気を遣う事もなかったのだと思うと少し心苦しかった。タオルと着替え、諸々の道具を抱えたまま立ち尽くしていると、布きれ一枚で半身を包んだ零が敷居を跨いで脱衣スペースへと滑り出た。驚嘆に見開かれていた瞳がいつしか悪戯に細められ、口許は淫靡な矩形を象る。
    「今夜も邪悪な気配を辿ってきたのかえ?」
    「……その節は、本当にすみませんでした。俺としたことが、寝惚けていたとはいえ断りもなく他人のシャワーブースに立ち入るなんて。思い出すだに恥ずかしくて死んでしまいそうです。今日は、純粋に湯浴みに来たんです、この季節は中途半端に寝苦しくって敵いませんからな」
     いつもより入りの早い仕事が控えていたため、朝食と朝礼拝に設ける時間を鑑みつつ先んじて寝汗を流しに来た次第である。バスタオルを腰に使用したせいで身体を拭くものを探しているらしい零に己の分のタオルを差し出し、少し離れた椅子の上に入浴道具を並べる。本来であればロッカールームにしまわなければならないものを他に利用者がいないのをいいことに好き放題散らかしている、その特権を早起きが齎す徳の三文のうちに数えるとするならば、残る二つのどちらかにはきっとこの再会をあてがうべきだった。
     とはいえ、献身の悦びからつい一枚しか用意していないバスタオルを提供してしまったものだから新しく確保をしなければならず、脱衣スペースから少し離れたところにあるクリーニングしたてのタオルの山に近寄ると、背後からすまんのうと気の毒そうな声がかかる。声色も相俟って余計に年寄りじみて聞こえ、不覚にも忍び笑いが溢れた。捧げられた品を忌憚なく受け取る事が出来るのは持って生まれた者の性に違いない。目当てのものを腕に提げ、タオルで水気を拭っている零の後ろを通り抜けると、名も知らぬ花の官能が香った。
    「……零さん。それ、その首のところ、虫にでも食われましたか」
     魔物の王の仄白い項に不可思議な朱の斑点を見つけたのは、暑さからか着替えを渋って簡易椅子の上で伸びていた零が重たげに頭を俯けた時だった。早々に乾かさなければ御髪が傷むだとか湯冷めして体調を崩すだとか、矢継ぎ早に浮かぶ忠言を一つひとつ、この天賦の象徴たる人物にわざわざ述べるべきか否かを服を脱ぎながら精査していただけで注視していたつもりはなかったのだが、気が付けば視線を吸い寄せられていたのだ。その所以なき引力こそまさしく魔性と喩えるに相応しく、初めてここで出会った時に感じたあの不吉な気配は単なる勘違いではなかったのではないかとさえ思われた。
    「何ぞあるかや、」
     紅い瞳を瞬かせた零が億劫そうに片腕を持ち上げて自身の肩の辺りをおざなりに弄る。「いいえ、そこではなくて、こっちです、首のところ。点々と、赤く……これは汗疹でしょうか」
     自分の後ろ首を指したところで正確な位置が伝えられるわけもない。そのうちに眉を顰めて背面で指先を彷徨わせ続ける姿を見かねて傍らへ屈み、か細くも存在を主張する紅点にそうっと爪の先で触れた。あえかな熱を放つ肌に浮いた発疹は一つではなく、五つ六つの赤点が帯状に連なっている。芯や膿の有無を確かめようとして別の突起に触れた際、零が鼻にかかった呻吟を洩らした。痛くしたかと問うと濡羽の頭髪はいじらしく左右に揺れる。「……恐らくそれはさっきまで着ていた衣装のせいじゃよ、本革のチョーカーが付いておったからのう。ううん、そう言われたらちょっと痒くなってきた気がする。困ったのう、」
     噂に聞き及ぶ限りではこの夜闇を統べる魔王様は正真正銘の夜型体質らしく、大抵は陽が暮れてから活動を始めるようなので、この日も皆が寝静まっている頃闇夜に紛れ仕事をこなしていたのだろう。初夏とはいえ朝晩は気温が下がるかというと然程でもなく、動けば汗は流れるし長時間厚布で覆えば蒸れに因る炎症は免れない。患部を引っ掻こうとして背後へ伸びた手首を捕まえ、安静を諭す。白魚は弓形に翻って、心なしか恨めしげに自身を捉える指先をつついた。
    「なるほど、それらしいですな。……俺、もしかしたらお役に立てるかもしれません。先日、製薬会社とのコラボPRでご一緒したモデルさんが、贔屓にしているブランドの新作ローションを融通してくださったんです。汗や皮脂などのこの時期特有の肌悩みに効果的で評判が良いんですよ。もし零さんにかかりつけの医師やクリニックの特別な指示がないようならば、試してみませんか」
     朔間零ほどの傑物であれば担当医や懇意にしている医院の存在がない方が不可解だろうと考え伺った事だったが、零は徐ろにこちらを振り返り、またしても首を横に振った。湿り気で曲線の角度を険しくした黒髪から滴った水滴が、頸椎の辺りで当て所を失くしていた手の甲を濡らす。温い雫の温度は体温と遜色なく、快も不快もなくそれはあっという間に表皮へと浸透した。
    「見難いでしょう、お手伝いさせてください」
     椅子の上に並べた入浴道具の中から乳白色の小瓶を手に取り、蓋を外す。途端にダマスクローズの気品と優雅が四方へと拡がり、手許を凝視める二つの紅玉が期待に耿々と瞬いた。零が自ずから左右へと退けた漆黒の毛足の、僅かに残された数本を摘んで払い、丁寧に患部を露出させる。しっとりと水気を孕んだ肌は少し冷えて、磁器のような硬質な艶めきを湛えていた。未使用品である事を念のために付け加えるとふ、と微笑が口唇を滑り落ちる。「なに、案じてはおらんよ」
     半固形の薄桃色を拭い取った指のはらで首筋に触れると、零は深く穏やかに繰り返していた呼吸をほんの一瞬止めて震える睫毛を伏せた。発疹に塗り込むというよりは汗を掻きやすい首筋全体に薄く馴染ませることを心掛け、皮膚を直接刺激しないよう一定の距離を保つ。肌に付着するや否や溶け出したジェルはたちまち皮下へと吸収され、後には余計に艶めいた肌が白々しく照明の下に曝け出された。白地に印された鮮やかな赤の斑点はさながら吸血鬼に牙を起てられた痕のようにも思われ、魔王の頸に潜むにはやや皮肉らしくて可笑しく、またしても溢れる笑みを堪えられなかった事は夢うつつの心地が齎す浮遊感の仕業にした。
    「ひんやりしていて、気分がいいのう」
     伏せた睫毛を恍惚に揺らし、零が囁く。腰を覆うバスタオルから伸びる蒼白い下肢の先端が機嫌良く、リズミカルに床で跳ねた。使用したばかりのシャワーブースから微かに洩れ聞こえる滴下音以外に静寂を侵すものはなく、夜を終え朝を迎えるほんのひととき、この瞬間はどうも何もかもが夢幻じみて嘘くさかった。首筋に纏わりつく黒髪を払い、淡く隆起する僧帽筋をなぞって残りのローションを馴染ませ、現実の感触を手繰る。
    「この製品はどうも夏限定のもののようですし、メントールが含まれているのかもしれませんな。……でも、もし痒くなったり痛みが出たりするようであればすぐに仰ってください。俺、責任を持って病院へご一緒しますから」
     善意で紹介した品が相手に害を為すというのはなんとも虚しい話ではあるが、万病に効く霊薬などこの世には存在しない。そも、本来ならば炎症は専門家に診せ然るべき薬を処方させるのが適当で、話題性や口伝で治癒を試みるものではないという事を後になって改めて真剣に考え、こうして多少なりとも傷を負った他者に付け入るかのごとき真似が真に良心に由来したものなのかと、暫し思い悩んだのだった。例えばこの浮世離れした蠱惑的な男の意識を、視線を幾らかでも己へ向けさせたいというような浅はかで醜悪な俗念が深層心理の領域で作用していないとはどうしても言いきれないのだった。どうも朔間零という男は、そういう貪婪を自然的に相手の裡に引き起こす質らしかった。当人はそれでも鷹揚に頷いて、寧ろ好意的に感心を表した。
    「我らのように神に見放され、闇夜を生きることを運命づけられた存在にも慈悲を与えようとは、風早くんの聖職者の肩書きは伊達ではないのじゃな」
    「肩書きなどと大層なものでもありませんよ、単なる事実です。神の前に等しく平等である俺たちが皆祈り、学び、信じさえすれば得られるものですから、零さんとて──ああ、すみません、つい。この手の話は退屈でしょうな。とにかく、少しでも異変がありましたら必ず俺に知らせてください」
     指先を吸い寄せる浄らかな肌を名残惜しくも手放すと、零はゆったりと椅子から立ち上がって正面から向き合った。随分と上背があるが骨格が華奢なために威圧感はなく、代わりに節々から不健康な色香が放たれて、巧緻にも危うい魅力のバランスを保っている。白光の下で鎖骨が描くシンメトリーの優美な稜線が一際眩しい。僅かに高い位置、朱に色付いた頬の上で濡れた紅玉が瞬いた。
    「朝から時間をとらせてしまってすまんかったのう、風早くん。ありがとう、おかげさまで痒みも気にならなくなった。よく眠れそうじゃ」
     そう言ってバスタオルの結び目を緩めながら足取り軽くロッカールームの方へ向かう後姿から慌てて目を背けて、ここへ来た目的をようやく思い出し、些か性急な手付きでシャツの袖を抜いた。急がなければならないというほどではなかったが、すっかり我と時間とを忘れて施術に没頭していたことが何とはなしに後ろめたく、気恥ずかしく思われた。
    「それは何よりです。……おやすみなさい、零さん。どうか善い夢を」
     ロッカーの方を振り返ると、肩越しにこちらを見遣る双眸に喜悦が滲んだ。「おやすみ、風早くん。いってらっしゃい」
     善い一日を。取り留めもない、ごくささやかなはずのまじないはその時やたらに尾を引いて、始まったばかりのその日を極彩色に彩ったのだった。
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    GoodHjk

    DONE【渉零】新衣装の話
    天性回遊 でも、つかまえて『夜のご殿』を出たとたん、青い鳥はみんな死んでしまいました。
     ──モーリス・メーテルリンク『青い鳥』




     ひと言で言い表すならば洗練された、瀟洒な、或いは気品溢れる、いずれの賛辞が相応かと択ぶに択ばれぬまま、密やかに伸ばした指先で、コートの広い襟をなぞる。緻密に織り込まれた濃青色の硬質な生地は、撮影小道具であるカウチの上に仰向けに横たわる男の、胸元のあたりで不審なほどに円やかな半円を描き、さながら内側に豊満なる果実でも隠し果せているかのように膨らんでいる。指先を外衣のあわせからなかへと滑り込ませると、ひと肌よりもいっそう温かい、小さな生命のかたまりへと触れた。
     かたまりが震え、幽かな、くぐもった声で抗議をする。どうやら貴重な休息の邪魔をしてしまったようだと小声で詫びを入れれば、返ってきたのは、今し自堕落なそぶりで寝こけていた男、日々樹渉の押し殺した朗笑だった。床にまで垂れた薄氷の長髪が殊更愉しげに顫えている。この寝姿が演技ならば、ここは紛れもなく彼の舞台の上であり、夕刻になって特段用もなく大道具部屋へ赴く気になったことも既に、シナリオの一部だったのだろう。
    1993

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    *原著世界观基础上的架空设定,早就把大纲写好了,为了不被剧情打脸,所以把计划提前了

    *破镜重圆pa,前期dk校园恋爱,后期追梦娱乐圈(bushi),一定程度上会和游戏剧情有关联,但是推荐还是把它当作架空世界观来看
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      “啦啦啦啦~”椎名丹希下班推门而入时看到的最令他一生难忘的一幕,莫过于天城燐音居然一边哼着歌,一边穿着那条滑稽的粉红色围裙站在锅旁炒菜做饭的开心模样,燐音的听觉一直很敏锐,因此就算是在嘈杂的厨房之中,他仍旧清楚的听到了他开关门走路的声音,“丹希亲回来啦,快去洗手准备吃饭~”

      “……”椎名丹希听着天城燐音说的话莫名感到一阵恶寒,他下意识的搓了搓手臂上莫须有的鸡皮疙瘩,在观察了天城燐音的背影好久之后,这才把手中去超市买来的打折特价菜放入冰箱里,然后准备去打探打探这个家伙目前到底是个什么情况。

      正所谓有句俗话说得好,无事献殷情非奸即盗,能让天城燐音这个无良混蛋献殷勤成这样,估计他又在外面给他捅出了一大堆的篓子,而且八成没有半分悔改,这样想着,椎名丹希在心里做足了心理准备,生怕从天城燐音的嘴中吐出什么语出惊人的话,谁知在对方把两人份的饭菜都摆好了后,他却什么都没说,反而反常的开始在饭桌上一边吃饭一边玩起手机来了。
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