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    【巽零】同室if|英零を含む

    ##巽零

    汝、不徳の隣人を愛せよ2:roommate



    「いつも自分で言っているじゃないか。ところで瞑想は終わったのかい、朔間くん。ちょうどよかった、僕が三人分のお茶を淹れている間に、風早くんにこの部屋を案内してあげてくれないかな。そうしたら、僕に扉を開けさせたことを大目に見てあげよう」
     零さんは、もともと顰めていた顔をいっそう曇らせて、これ見よがしな溜息をつきました。まだご挨拶も済ませていないうちに面倒をおかけすることはとても得策とは思えず、俺はケトルを一旦英智さんに任せて、零さんのおそばへ向かいました。
     以前ステージの上でお姿を拝見したことはありますが、こうして互いに平服のまま、差し向かいでお話をする機会はこれまでなかったものですから、些か緊張してしまいました。それに、彼の弟である凛月さんと、旧館ではじめてお会いした時にも感じた、あの摩訶不思議な禍々しい気配が近寄るほどに強まっていくので、俺はつい口癖のように祈りの文言を口走ってしまいそうになり、慌ててそれを堪えたのでした。近くで見る零さんは、舞台上でお見かけした時よりもずっと温徳なご表情をなさっていて、『魔王』と称されるにふさわしい、あの燃えるような真っ赤な瞳も、多少の疑念を孕んではいたものの、親しみさえ覚えるくらいには温かく煌めいていました。
    「天祥院くんの言うことは気にせんでおくれ。あやつ、己の方が扉の近くにいたくせに、一向に腰をあげる気配がないから我輩がせっついてやったんじゃ。まったく、えらくなったものじゃわい」
     さっそく人聞きの悪いことを吹聴しないでほしいな。のんびりと、しかし即座に英智さんの声が返りました。「確かに扉のそばにはいたけど、作業に没頭していて気がつかなかったんだよ。風早くん、出迎えが遅くなってしまって悪かったね」
     それが、ノックのあとの奇妙な数十秒の間の理由だったようです。俺が一人納得していると、零さんが、への字に曲げていた口許に、今度は優美な微笑を浮かべました。
    「改めて。我輩は朔間零じゃ、今日から同居人としてよろしく頼むぞい」
    「俺は風早巽と申します。零さん、とお呼びして差し支えないでしょうか。こちらこそ、どうぞよろしくおねがいします」
     零さんは、怜悧な相貌に人懐こい笑顔を綻ばせて、何度か肯きました。「前の部屋ではわんこ……晃牙が世話になったようじゃのう。おぬしと我輩には直接の接点こそないが、あの子から時折おぬしの話を聞いておったんじゃよ。とても優しく、博識で、気の利く男じゃと」
     称賛のお言葉をいただくのは大変ありがたいことなのですが、あの晃牙さんが俺のことをそんなふうに零さんにお話ししていたとは夢にも思わず、どうにも面食らってしまって、俺は言葉を失くしてしまいました。晃牙さんも、朔間零という人は敬愛してやまない先輩なのだと、本物のスーパースターなのだと、多少の逡巡を含みつつもまっすぐな憧憬の念を常に表明していらっしゃいましたから、そういうお話ができればよかったのですが、俺は戸惑いの果てにただ一言「晃牙さんが、そんなことを?」と返すのがようやくでした。零さんは慈悲深く眦を下げて、鷹揚に首肯しました。その仕草が、慣れぬ環境に我知らず緊張を募らせ、強張っていた俺の心をひどく優しくほぐしてくれたことを、今でも鮮明に思い出します。
    「うむ。……さて、与太話もそこそこに、おぬしにこの部屋を案内してやらねばな。好い加減、天祥院くんにも尻を叩かれてしまいそうじゃし。さあ、ついておいで。風早くんや」



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