あれから少し経ったが、二人の共同研究は穏やかに続いていた。それに伴ってカーヴェは無理にスケジュールを埋める事を辞め、ストレスによる過度な飲酒も控えるようになった。
アルハイゼンはそんなカーヴェの様子を見て、もっと早くから素直になっておけばよかったと多少後悔したが、再会してすぐの頃の自分達では届かない結果だったなと思い返せば短い様な長い年月を思い浮かべた。
締切もなく、永遠に紡ぐような二人の共同研究はもう既に分厚い帳面を数冊使い果たすほどに順調だった。
ただ、アルハイゼンには不満があった。順調な共同研究とは違い、全く変わらない二人の関係についてだった。
しかし、それはアルハイゼンの問題であって二人の問題では無い。それに気がついたのはカーヴェからの言葉でも、アルハイゼンの優秀な脳みそがたたき出したのでもなく、偶然にも酒場で一人グラスを傾けていたセノであった。
「不健全だな。」
セノは七星召喚と引替えに、いつもよりペースの早いアルハイゼンの話を聞きそう答えた。
「何か勘違いしてないか。
お前たちが、以前よりも友情を育み穏やかな時間を過ごしている事は祝福するが...アルハイゼン、お前が望んでいる関係性は今のままでは言葉足らずだと思う。」
真っ当な意見は珍しくアルハイゼンの心を容赦なく刺した。
それでもセノの言葉は止まらない。
「そして、お前は認めたくないだろうが...カーヴェは照れはしていても“あ〜なんだかアルハイゼンが大胆に甘えてくるな〜”ぐらいにしか思ってないような気がする。」
似ていないカーヴェの真似に腹が立ちながらもアルハイゼンは腕を組んだ。これ以上は得策ではないと理解しつつも、反論の準備を始める。
「その場にいなかった者はなんとでも言える。
それにセノ、君はカーヴェで考えているからそんなことが言えるんだ、君も耳の大きな友人で考えみたらどうだ?」
セノは手にしていたカードを卓に伏せて置き、同じ様に手を組みアルハイゼンの言う通り素直にその状況を考えてみたが、やはりおかしいと頭を軽く振った。
「確かに浮かれはするが、やはり素直に言葉にしていない時点でお前の落ち度としか言えない。
アルハイゼン、振り出しに戻って素直に口にしてみたらどうだ?」
誤魔化しきれなかったとアルハイゼンはグラスを煽った。
「はァ、」
素直に白旗を降り出した書記官にセノはふ、とわらった。
「お前も、人間らしいところがあるじゃないか。
今が幸福すぎて恐れをなす、なんてな...だが、考えてもみろ言わなければ伝わらない事もある。結果の保証は出来ないが、カーヴェはお前が知っての通り優しい奴だ。手酷く振ることはない、それにお前の感情に素直に向き合ってくれるだろう。」
セノは満足気にそう言うと「面白いな」と珍しく感情に振り回されるアルハイゼンを笑った。そして、何か都合の悪いことを思い出したのか険しい顔をし、声を抑えながら話を振る。
「ところで、どうしてお前はさっき“耳の長い友人”なんて口にしたんだ。」
その言葉に否定すらせず浮かべてしまった友人の顔を慌てて消す、今更慌てふためくセノに逆転の気配を感じたアルハイゼンはわざとらしく表情筋を動かし「どうだろうな」と酒を飲み干した。