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    kotobuki_enst

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    kotobuki_enst

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    正月気分が抜けないうちは正月だとおばあちゃんも言っていた。初日の出を見に行く茨あんです。秋のルームボイスの要素もちょっと拾いたかった。鉄は熱いうちに打てよ。このあんずさんは多分わかっててやってる。

    ##茨あん

    あなたと見る 「初日の出、見に行かない?」と彼女は言った。自分は「面倒なのでパスで」と返した。

    「ええ、一緒に行こうよ」
    「正月くらいちゃんと睡眠とりましょうよ。あなたも疲れてるでしょう」

     時刻は深夜三時前。ESのカウントダウンライブを終えて最低限の撤収も終えて、ライブの出演だったり運営だったりで互いにへろへろになりながらもどうにか家に辿り着いて、ようやく休めるという直前のことだった。自分としてはライブで溢れたアドレナリンもいい加減落ち着きもうさっさと眠ってしまいたかったのだが、彼女は未だに興奮冷めやらぬようだ。暗い部屋の中、彼女の瞳だけがライブの開演を待つ観客のようにきらきらと輝いている。

    「茨くん初日の出あんまり興味ない?」
    「正直あんまり興味ないですね。あなたとゆっくり朝寝坊する方が魅力的です」
    「ううん……そっかぁ……」

     それでもまだ納得いかないという顔で小さく唸る彼女の頭を抱き抱えて、この話はこれで終わりだと伝えるように布団を掛け直す。あたたかい。暖かい布団で愛する彼女を胸に抱いて眠ることに勝るイベントなんて他にない。

    「じゃあ私、Trickstarのみんなと行ってくるよ。冷蔵庫にお雑煮と簡単なおせち作ってあるから、起きたら先食べてて」
    「行きますよ行きゃあいいんでしょう」

     年の初めから彼女を他の男に取られてなるものか。





     寒いし眠い。それは彼女も同じようで、寝ぼけ眼を覚ますように何度も力強いまばたきを繰り返しており、マフラーの隙間から吐き出された息は白い。それでもどこか浮かれながら頬を染めて、自分の腕をぐいぐいと引っ張りながら人気のない住宅街を進んでいった。
     彼女が選んだ場所は土手だった。展望台とかで見なくていいのかと進言したものの、そういうところは人が多くて茨くんと見れないから、と返された。彼女と二人きりで外に出るのは久しぶりな気がする。いや、打ち合わせなどと称して二人でES近くの喫茶店などによく足を運んでいるけれど、そういうことではなく。あたりには同じように初日の出目当てらしい家族や老夫婦などがちらほら見受けられる。念の為、変装として身につけてきたマスクを正し、キャップも深く被り直す。

    「まだ眠い?」
    「そりゃそうです。満足したらさっさと帰って二度寝しますよ」
    「え〜〜〜」

     是とも否とも言わず、不満げに口を尖らせる彼女。ここが外でなかったらキスができたのに。だから外には出たくなかった。

    「あと三分くらいかな、もうちょっとだよ」
    「あんずさんは何がそんなに楽しみなんです?」

     あんずさんは笑っていた。小さな子供に笑いかけるみたいな顔。その顔はガキ扱いされているようで腹が立つけれど、その顔を他のアイドルに見せているところを見たことがなかったから嫌いでもなかった。

    「ふふ、そうだなぁ……。単純に日の出って綺麗だからっていうのもあるんだけど」

     彼女の視線は手元のスマートフォンに落とされる。画面には何度も確認したであろう日の出の時刻表が表示されていた。細い指で画面をなんとはなしになぞりながら言葉を紡ぐ。

    「茨くんと一緒に見たことはなかったから、一緒に見てみたかったんだよ。それだけ」

     こちらを振り向いて照れ臭そうに笑う彼女の頬をオレンジ色の光が照らす。彼女の髪に、瞳に反射して、彼女を眩いほどに輝かせた。

    「あ、茨くん、出てきたよ」

     視界の端に朝日が映る。太陽がはるか遠くのビル群のさらに奥から顔を出していた。オレンジ色に光るそれは、今まで経ってきたライブ会場のどんなスポットライトより眩しい。ゆっくりと空に昇り地上を照らし出す朝日の様子を、彼女は目を離すことなくずっと見つめ続けていた。

    「きれいだね」

     独り言かもしれなかった。小さな声で「そうですね」と返した。朝日に目を輝かせる彼女は綺麗だった。





    「茨くん、このまま初詣も行っちゃわない?」
    「さっさと帰りたいって言ったでしょうほら行きますよ」

     彼女の腕を引く。時に強情な彼女も、プライベートにおいては自分が強引に押し進めれば折れてくれることが多かった。しかし今日は例外なようで、彼女は足を動かそうとしない。

    「スバルくんたちから初詣来てるから合流しないかって連絡が」
    「行かせるわけねぇだろうが」

     彼女を半ば引きずるようにズンズンと歩き出す。少しくらい、余韻に浸らせてほしかった。
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    kotobuki_enst

    DONE人魚茨あんのBSS。映像だったらPG12くらいになってそうな程度の痛い描写があります。
    全然筆が進まなくてヒィヒィ言いながらどうにか捏ね回しました。耐えられなくなったら下げます。スランプかなと思ったけれどカニはスラスラ書けたから困難に対して成す術なく敗北する茨が解釈違いだっただけかもしれない。この茨は人生で物事が上手くいかなかったの初めてなのかもしれないね。
    不可逆 凪いだその様を好んでいた。口数は少なく、その顔が表情を形作ることは滅多にない。ただ静かに自分の後ろを追い、命じたことは従順にこなし、時たまに綻ぶ海底と同じ温度の瞳を愛しく思っていた。名実ともに自分のものであるはずだった。命尽きるまでこの女が傍らにいるのだと、信じて疑わなかった。





     机の上にぽつねんと置かれた、藻のこんもりと盛られた木製のボウルを見て思わず舌打ちが漏れる。
     研究に必要な草や藻の類を収集してくるのは彼女の役目だ。今日も朝早くに数種類を採取してくるように指示を出していたが、指示された作業だけをこなせば自分の仕事は終わりだろうとでも言いたげな態度はいただけない。それが終われば雑務やら何やら頼みたいことも教え込みたいことも尽きないのだから、自分の所へ戻って次は何をするべきかと伺って然るべきだろう。
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    kotobuki_enst

    DONE膝枕する英あん。眠れないとき、眠る気になれないときに眠りにつくのが少しだけ楽しく思えるようなおまじないの話です。まあ英智はそう簡単に眠ったりはしないんですが。ちょっとセンチメンタルなので合いそうな方だけどうぞ。


    「あんずの膝は俺の膝なんだけど」
    「凛月くんだけの膝ではないようだよ」
    「あんずの膝の一番の上客は俺だよ」
    「凛月くんのためを想って起きてあげたんだけどなあ」
    眠れないときのおまじない ほんの一瞬、持ってきた鞄から企画書を取り出そうと背を向けていた。振り返った時にはつい先ほどまでそこに立っていた人の姿はなく、けたたましい警告音が鳴り響いていた。

    「天祥院先輩」

     先輩は消えてなどはいなかった。専用の大きなデスクの向こう側で片膝をついてしゃがみ込んでいた。左手はシャツの胸元をきつく握りしめている。おそらくは発作だ。先輩のこの姿を目にするのは初めてではないけれど、長らく見ていなかった光景だった。
     鞄を放って慌てて駆け寄り目線を合わせる。呼吸が荒い。腕に巻いたスマートウォッチのような体調管理機に表示された数値がぐんぐんと下がっている。右手は床についた私の腕を握り締め、ギリギリと容赦のない力が込められた。
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