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    きたまお

    @kitamao_aot
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    きたまお

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    106話付近、ニコロが料理人として定着したあたりで、ニコロのご飯を食べる皆さん。

    ##進撃

    初めのうちは海でとったものを食べるなんてどうかしていると思っていた。なにせ、人類は一年前に海に到達したばかりだった。ハンジ団長やアルミンは海にいる魚や虫みたいなもの、なにかわからない黒いぐねぐねしたものも夢中になって追いかけていたが、ジャンは気持ち悪くて触るのも嫌だった。
    「海の幸を食べないなんて、海に囲まれた島の人間としてあるまじきことだ。それだけでもおまえらは十分罪深いよ」
     大皿にどんどん料理を盛りながらニコロが言う。ニコロはマーレ人の捕虜だが、もとは料理人をしていたそうだ。自分の店を持つための資金作りとして、パラディ島調査船に志願し、あっけなくこの島で捕らえられた。口は悪いが腕はいい。
    「いやでも、これを食べるってどうかしてると思ったぜ」
     ジャンは大きな鍋から、真っ赤にゆであがった固い不気味な生きものを引き上げる。昆虫みたいに固い殻に包まれて、真ん中の胴体は四角形、足が左右に五本ずつ出ていた。一番上の足にはザリガニみたいなはさみがあって、気持ち悪いことに全身にびっしり短い毛のようなものが生えている。
    「でも、うまいだろ」
     言葉に詰まった。前回も最初は敬遠していたが、ニコロがこの「カニ」という名前の生きものの殻を割り、中身の白い身を使った料理を出してくれたら、予想外にうまかったのだ。サシャだけはニコロが殻をわる前からばきばきと剥いて食べていた。あいつの食欲はおかしい。
    「今日は、こないだ鹵獲された船からわけてもらった調味料があるから、また違った料理が出せるぞ」
     たいして広くもないキッチンで、ニコロはあっちこっちに行ったり来たりしている。今日は、104期だけでなくハンジ団長はリヴァイ兵長が来ると聞いていた。彼もそれなりに気が張っているのだろう。
    「まあ、サシャはまた腹を空かせてくるだろうから、いいもの出してくれよ」
    「あいつは、腹が減っていたら皿だって食いかねないじゃないか! 俺は、もっと自分の料理をちゃんと味わってくれる客がいいんだ!」
     耳まで真っ赤にしたニコロをジャンはにやにやと眺めた。
    「うっわー、ほんとに見たことのない料理が並ぶねえ。大したものだよ」
    「でしょう。どれもニコロが手間暇かけてわたしたちのために作ってくれたものなんですよ」
    「サシャ、なんできみがそんなにえらそうに言うの。それと、よだれたれている。拭きなよ」
     ハンジ団長とサシャの向かいでアルミンが冷静に突っ込んでいる。
    「いやさあ、うちの人類最強は昔から食が細くってさ、食欲が出る料理があったら彼に優先的に振る舞ってくれないかな。もう若くもないんだから、ちゃんと食に気を遣わないと、衰えていく一方だろ」
    「黙れ、クソメガネ」
     こちらも平常運転の兵長だ。いつ会っても兵長の眉間じわと目の下のクマは消えない。
    「じゃあ、こちらがお勧めですよ、兵長。わたしもさっき味見したんですけれど、いままでに体験したことのないおいしさでした。ニコロがわたしの新たな味覚の扉を開いたんです」
    「あれは味見っていう量じゃなかった!」
     ニコロの叫びをよそに、サシャが目の前にあった皿を兵長のほうに押し出す。少し深めの皿に、明るい茶色のスープみたいなものが入っている。すこしとろりとしているようだ。中には野菜のようなものと、なんか小さな吸盤みたいなものがついているなにかわからないものが入っていた。
    「おい、これは本当に食い物か」
     皿を覗きこんだ兵長の眉間じわがよりひどくなる。
    「あの、兵長、心配だったら無理に食べない方が」
     ジャンの心配りはサシャによって打ち砕かれる。
    「ほんっとうに美味しいんですって! 食べ物に関して、わたしが嘘いうと思っちょると? 確実に食欲増進しますから」
     兵長はテーブルの端で緊張した面持ちで立っているニコロを見た。たぶん、サシャよりもマーレ人のニコロを気にしたんだろう。スプーンを手にして皿から一口分すくい、口に入れた。
    「どうですか! これがニコロの新しい料理です!」
     兵長はスプーンを口に含んだまましばらく動かなかった。三秒、五秒。つぎに、その三白眼の瞳が落ち着きなく動いた。その後に、顔色が赤くなって、額から汗が垂れてきた。
    「兵長、大丈夫ですか!」
    「え、ニコロ、なに入れたんだよ。毒かよ!」
    「毒のわけないだろ。だいたい、その料理を皿二杯分食べた、サシャはピンピンしているぞ!」
     アルミンとジャン、ニコロの声が響く中、ミカサがすっと兵長の前にコップを出した。
    「水」
     兵長はコップの水を勢いよくあおって、そのまま椅子の背もたれにもたれかかるようにして上向きになった。
    「それ、辛い」
    「え、そうかな。おいしいよ」
     いつのまにかハンジ団長が皿を兵長の前から自分のほうに引き寄せて、スプーンでどんどん口に運んでいる。
    「ですよね、おいしいですよ。壁の中では考えられない芳醇な味です」
     二人の向かいでは兵長がずっと魂の抜けた姿で椅子から崩れそうになっている。
    「まったく人類最強なのに、辛いものが苦手だなんて、子供の味覚そのものだねえ」
     ジャンもあとで少しだけその料理を食べてみたが、兵長のように身動きがとれるほどは辛くはなかった。アルミンは匂いだけ嗅いで、僕はやめておくよ、と言っていた。
     総じて、女性陣のほうが辛い料理には強いみたいだ、というのが、ジャンとニコロの共通の見解だ。
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    きたまお

    TRAINING特殊清掃員のりばいさん2今日の現場も一人で死亡した老人の住まいだった。大きな庭のある戸建ての二階で老人は死んでいた。老人には内縁の妻がいたが、折り悪くその妻は姪と一緒に十日間の海外旅行に出かけていた。家の状況から見て、老人は内縁の妻が旅行にでかけた初日の夜に倒れたようだった。さらに悪いことに、寒がりの老人は自室の暖房を全開にしていた。
     年齢のわりに老人は身体が大きかったようだ。ベッドに残された痕跡でそれを知ることができた。おそらく老人はリヴァイよりも二十センチ以上は背が高い。二階の部屋は天井が傾斜していて、ベッドは天井が低い方の壁にぴたりとくっつけておかれていた。
     リヴァイが最初にやることは、遺体のあった場所に手をあわせることだ。神も仏も信じてはいないが、これだけは行う。手をあわせているあいだはなにも考えていない。一緒に仕事に入ったことのある同僚には経を唱えたり、安らかに、などいうものもいたが、リヴァイは頭をからっぽにしてただ手をあわせる。これはもう習慣だった。
     後輩と一緒に、まずマットレスを外す作業をした。いくらかはまだ生きている虫がいる可能性があるので、殺虫剤を全面に散布する。動くものがなくなったこ 1271

    きたまお

    TRAINING特殊清掃員のりばいさん「先輩はどうしてこの仕事についたんですか」
     行きの車の中で無邪気に後輩が聞いてきた。最近入ったこの後輩は、始めは短期アルバイトの大学生だったはずが、気がつけば正社員として登用されていた。なんか、これがオレの天職だって気がついちゃったんですよね、と大声で事務員に話しているのを聞いたことがある。
     リヴァイはウィンカーを一瞬出して隣の車線に割り込みながら、ぼんやりと答えた。
    「別にやりたくてやったわけじゃねえよ。たまたま、クソみたいな伯父が便利屋をやっていて、そのクソが仕事だけ受けて逃げ出した尻拭いであばらやの清掃に入ることになって、そこからまあたまたまだ」
     母の兄である伯父には、昔からいろいろ迷惑をかけられてきた。便利屋の仕事を借金とともに押しつけられたのが、最たるものだった。
     最初から特殊清掃だったわけではない。ゴミ屋敷の片付けなどを行っているうちに、割のいい仕事として特殊清掃ももちかけられた。六月にベッドで死亡して、一週間発見されなかった老人の部屋の清掃だった。遺体はすでに警察が持ち出していたがベッドには遺体のあとが文字通り染みついていた。床や壁にこびりついている虫を片付けると 674

    きたまお

    TRAININGエルリワンライの没軽くブラシをまわすと、面白いように泡が立った。その泡をブラシの先端にとり、リヴァイが無言であごをしゃくった。上を向けということだろう。
     もみあげから下、あごの先に向けてブラシが小さな円を描くように動いていく。なめらかな動きの中で、ブラシと肌の間に泡が立っていくのがわかった。すこしこそばゆく、しかし気持ちがいい。
     カミソリの扱いは慣れたもの、あっというまに泡をぬぐうように刃があてられて、エルヴィンの無精ひげは姿を消した。最後にぬるま湯の入った桶を寄せられ、身体をうつ伏せに倒せと言われた。
    「すすぐくらいは左手だけでも可能だとおもうんだが」
    「おまえにやらせたら、ベッドが水浸しになりそうだ」
     顔をすすぎ終わり、乾いた布で水分を拭き取るまでリヴァイの世話になった。
    「自分であたるよりも、ずっといいな」
     エルヴィンはすべすべになった自分のあごに手を触れる。
    「以前から、おまえのそり残しは気にはなっていた」
     ひげそりの準備は、エルヴィンが目を覚ます前からやっていたらしい。目を開けたらちょうど、至近距離にリヴァイがいて、手にしていた石けんを取り落としそうになっていた。すぐに医師が呼ばれ、 1958

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    きたまお

    TRAINING上司キースに悩むエルヴィン。ちょっとエルリ風味「調査兵団もこちらで不服はありませんな」
     憲兵団師団長が禿頭に手をやり、こちら側を見た。エルヴィンの右に座っているキース・シャーディスは、顔を下に向けたまま、目だけを動かしてエルヴィンを伺う。テーブルに着くほかの人員には見えないように、エルヴィンはあごをわずかに引いた。
    「はい、調査兵団も同意します」
     キースが師団長へ答える。総統局、憲兵団、訓練兵団の各首脳陣がやれやれと首や肩を回した。キースはうつむいたままだ。
     いつからか、団長のキースが部下であるエルヴィンに判断を仰ぐことが増えてきた。最初は些細なことだった。この兵士はどこの分隊が向いているだろうか、兵団の食料の仕入れ先を変更する必要はあるだろうか。エリックはスピードはあるが注意力にかけることがあるので、丁寧に部下を見るフラゴンの下が良いです、いまの出入り業者は憲兵団からの紹介で、仕入れ金額を憲兵団と握っている気配があるので、徐々に変えていった方がいいでしょう。
     そのうちに、キースの質問はどんどん増えてきた。調査兵団の後援になってくれる有力者はいるだろうか、いくらまで資金をひっぱれるだろうか、新兵の訓練メニューを作ってくれ、 2821