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    麻邑(まゆう)

    @Mayuu_BAIKA

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    麻邑(まゆう)

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    ○両片想いのフロ監です。
    ○独自設定のゴーストが登場します。
    ○フロイドが基本的に優しいです。
    ○監督生の一人称は「自分」です。

    #twstプラス
    twstPlus
    #twst夢
    #フロ監
    manager
    #女監督生
    femaleCollegeStudent

    キスしないと出られない部屋 ナイトレイブンカレッジには数多のゴーストが暮らしている。その中に、かつて偉大な魔法士であり、死してなお強大な魔力を持つ者がいた。そしてそのゴーストには困った趣味があった。それは、何らかの基準で選んだ二人の生徒を「ゴーストから提示される指示通りに行動しないと出られない部屋」に閉じ込めるというものだ。ただしその指示は危険な内容ではない。例えば今までどのような部屋が用意されたかというと、「腕を組んでスキップしながら十周しないと出られない部屋」「一冊の問題集をすべて解かないと出られない部屋」などである。
     さて、今日もこのゴーストに選ばれた生徒が二人、部屋に閉じ込められたようだ——。

     授業を終えた監督生がグリムと二人並んでオンボロ寮へと歩いている。すると突然、監督生の頭の中に「君たちの背中を押してあげよう」という男性の声が響き、視界が眩い光で覆われた。かと思うと次の瞬間にはあたり一面が真っ白の見知らぬ空間に立っており、さらに目の前には木製の扉が佇んでいた。
     監督生は状況が飲み込めずぼんやりと扉を眺めていると、隣から「小エビちゃん?」と声をかけられる。思わずそちらを振り向けば、高い位置でオッドアイと視線がかち合った。声の主はフロイド・リーチだった。

    「フロイド先輩!? あの、ここは……?」
    「あれじゃね、言われた通りにしないと出られない部屋。」
    「ああ、ここが噂の…。えっと、指示はどこでしょう?」

     監督生があたりを見回しながら尋ねると、フロイドが「あそこ」と扉の上方を指差す。監督生がその指をたどると、確かにそこに「キスしないと出られない部屋」という大きな文字が浮かんでいた。

    「キっ…! ええっ!?」
    「悪趣味だよねえ。」
    「は、はい…。あっ、でも、こう…私がさっとフロイド先輩の手にするとかでもいいのでは?」

     フロイドは「なんでオレがする側じゃなくてされる側なんだろう、でもそれはそれでそそる」という本音を喉の奥に押し込めて、また扉の上を指差した。

    「でかい文字の下見て。条件もあるっぽいよ。」

     監督生がはっとして「キスしないと出られない部屋」の下をよく眺めてみると、そこにも文字が浮かんでいた。それはフロイドの言うとおり指示に付された条件だった。
     「必ず互いの唇を触れ合わせること。他の場所へのキスは無効。なお、十分以内に達成できない場合、どちらかが他の生徒と入れ替わる。」とある。この文章の後には「10」という数字が浮かんでおり、監督生が文を読み終えたところでちょうど「9」に変わった。この数字はどうやら残り時間を表しているようだ。

     自分の考えは甘かったとがっかりする監督生だったが、ふと文の最後に目を留めた。

    「十分経ったらどちらかが出られるのなら、出た方が先生方に話をして、助けてもらうというのはどうでしょう?」

     しかし、この提案にフロイドは眉をひそめた。

    「もし出られたのがオレだったら、小エビちゃんは別の奴と二人きりになんだよ? そいつが、他に誰も入れないこの状況を利用して小エビちゃんに強引に迫ってきたらどうすんの?」
    「うーん、相手が可愛い子だったらそうなってたかもしれませんね…。なので自分は大丈夫です。」

     そんなことあり得ませんとばかりに笑って答える監督生に、フロイドは更に不機嫌になる。

    「あのさぁ、自覚してないんだろうけど小エビちゃんは可愛いよ? 顔はもちろんだけど、いっつも頑張ってるし話してて楽しいし、でもたまにおっちょこちょいだしで、そういうとこが男子たちから『可愛いな〜』って思われてるわけ。だからみんな小エビちゃんに近づきたい、関係を深めたいって邪な気持ちを抱いてんの。だけど小エビちゃんの周りにはいっつもアザラシちゃんとかカニちゃんとかサバちゃんとかそういう奴らがいるから近寄れねぇんだよね。
     そんな雑魚どもがこんな美味しい状況にぶち込まれたらどうすると思う? 『ここから出るためには仕方ないんだ』とかなんとか言い訳して、小エビちゃんを捕まえて…。小エビちゃんは女の子なんだから男の力には勝てねぇよ。」

     ここまで言って息をついたフロイドは、「だっせぇなオレ…」と心の中で頭を抱えた。
     実はフロイドの中には初めからずっと、この状況を利用して監督生にキスしたいという欲と、それをすることで嫌われてしまうのではないかという恐れと、こんな馬鹿げた状況で監督生の唇に触れてはいけないという意思が渦巻いていた。監督生に恋するが故の葛藤だ。この葛藤がイライラを生み、つい監督生に八つ当たりをしてしまったのだ。

     監督生は自分が想像すらしていなかった事実を急に並べたてられ戸惑った顔をしたが、視線をさまよわせつつ「あの……」と口を開いた。

    「自分が人気…なんて、そんなことはないと思います。でも、フロイド先輩が自分のことを、か、可愛いって、そんなふうに思ってくれてたのとか、それから今のこの状況のことをすごく心配してくれているのとか、とっても嬉しいです。部屋に閉じ込められたのがフロイド先輩とでよかったです…。こんなときに何言ってるんだって、呆れられるかもしれませんが…。」

     頬と耳を赤く染めながら懸命に言葉を紡ぐ監督生に、フロイドの中で枷が外れる音がした。残り時間は5分。このまま時間切れになって、もしフロイドが誰かと入れ替わり、そいつにこの可愛い監督生の唇が奪われてしまったら? そうなる前に、嫌われてでも——。

    「…小エビちゃん、後でオレのこと殴ってくれても蹴ってくれてもいいから。」
    「え?」

     フロイドは監督生の頬を両手で包み上を向かせる。そして数秒見つめてから、ゆっくりと顔を近づけ、ただ唇の先が触れ合うだけのふわりと優しいキスをした。
     その瞬間、扉から「かちゃり」と鍵が開いたような音が聞こえ、二人ともそちらに顔を向ける。フロイドはふっと安堵の息を吐き、扉から監督生に向き直って手を差し出した。

    「出よ、小エビちゃん。」
    「っ、はい……。」

     監督生はフロイドの手に自分の手を重ねる。監督生の手を引き、フロイドが扉を開けて外へ出ると、そこはオンボロ寮の門前だった。

     見知った場所に戻ってきたことにほっとした監督生だったが、まだ握られていた手をくいっと引かれてフロイドと向き合う。

    「怒ってるでしょ。小エビちゃんがいいよって言ってないのにキスしちゃったのは悪かったと思ってる、ごめんね。」

     フロイドの言葉に監督生はぶんぶんと首を横に振り、

    「怒ってなんていません! むしろ謝るのは自分です。あの部屋から出るために…自分なんかと…。」

    と眉を下げた。すると、フロイドは額に手を当てて大きなため息をつく。

    「だ〜か〜ら〜小エビちゃん謙虚すぎ。オレが好きでもなんでもない奴に自分からキスするわけないじゃん。ていうか、オレが内心『小エビちゃんとちゅーできてラッキー。これがきっかけでオレのことを意識するようになって、そんで好きになってくんねーかな』とかやましいこと考えてるかも、くらい思った方がいいよ? まあ、実際考えてんだけどさ? そうやって油断してるからオレに簡単にキスされちゃうんだよ。全然抵抗しないし、怒るどころか許しちゃうしさ〜。」

     監督生は一瞬目を見開いたが、すぐにキッと眉を釣り上げフロイドに言い返した。

    「フロイド先輩が思うほど自分はか弱くも謙虚でもありません! 男の人に抵抗できないって言いますけど、もしも本当に無理やり迫ってくる人がいたら平手でもなんでも食らわせて全力で抵抗して逃げますよっ、自分だって好きな人以外とキスなんて絶対したくないですもん!
     それから、先輩はそんな呆れたような言い方してますけど、自分のことを気遣って触れあうくらいのキスにしてくれた優しさ、ちゃんと伝わってますから!
     あと、フロイド先輩こそ、自分が先輩とキスできて心の中で舞い上がってるかもとか考えないんですか!? …あんなふうに見つめられたら、これからキスするんだなってわかります、それでも逃げない選択をしたのは自分の意思です! 先輩の鈍感!」

     一気に捲し立てて肩で息をする監督生を、まさか言い返されるとは思っていなかったフロイドが目を丸くして見つめている。

     と、そのとき、二人の頭上から男性の声が降ってきた。

    「それはお互い好き合っているということだと思うんだがね?」

     監督生とフロイドが勢いよく同時に空を振り仰ぐと、そこにはタキシードにシルクハット姿の紳士然としたゴーストが浮かんでいた。
     このゴーストこそ、「指示通りに行動しないと出られない部屋」を作り生徒たちを閉じ込めている張本人である。

     呆気にとられる二人を前に、紳士ゴーストは事情を話し始めた。自分は普段、生徒たちを「助ける」ためにこの部屋を利用しているという。例えば、些細なことがきっかけでケンカをしてしまった二人には「腕を組んでスキップしながら十周しないと出られない部屋」を作り、この滑稽な指示をこなすことで緊張を解き仲直りをさせた。勉強に行き詰まり悩んでいる生徒には、面倒見がよく勉強ができる先輩の生徒に協力してもらい「一冊の問題集をすべて解かないと出られない部屋」で集中して指導をしてもらうことで悩みを解消させた、などだ。
     だが今回、監督生とフロイドを選んだのにはさらに別の理由があるという。

    「いやぁ、君たちから、幾久しく触れていなかった若者同士の恋の甘酸っぱい気配を感じてね。初めは黙って見守っていようと思ったんだが、つかず離れずでなかなか進展がないものだから心配になってしまって。だから君たちの背中を押そうと決めたのだよ。」

     背中を押すと言えば聞こえはいいが、つまり、二人は両想いなのにお互いに気持ちを打ち明けずなかなかくっつかないものだから、紳士ゴーストが痺れを切らして強硬手段に出たということだ。

    「キスすればどうしたって相手のことを意識せざるをえないだろう? それによって君たちの関係も一気に進むんじゃないかと思ってね。だが期待以上に効果があったようだ。」

     ゴーストが満足そうに頷くのとは裏腹に、監督生とフロイドは疲れたように肩を落とす。

    「オレたちはゴーストのお節介に巻き込まれたわけ…。でもさぁ、だったらなんで『十分以内に達成できなかったら他の生徒と入れ替わる』なんて余計な条件付けたの?」
    「もちろん発破をかけるためさ! 現に青年も、この条件があったからこそお嬢さんへキスしようと決意できただろう?
     ちなみに、もし十分以内にキスできなかったときは、『次の生徒の選定に失敗した』と理由をつけて君たちを同時にちゃんと部屋から出してあげるつもりでいたよ。」

     はっはっは、と上機嫌に笑った後、紳士ゴーストは襟を改め二人に向き直る。

    「君たちの微笑ましい言い合いを見て私も若返った気分だよ、ありがとう。二人とも、今後も仲良くしてくれたまえ。それでは私はここで失礼するとしよう。」

     そう言うと紳士ゴーストは満足そうな笑顔ですぅっと空気に溶けていった。

    「…とんでもなく迷惑なお節介おっさんゴーストだったね。」
    「ふふっ、そうですね…すごくお節介でした。」

     ゴーストがいた場所を眺めながら笑う監督生を横目で見やり、フロイドがきまり悪そうに首に手をやる。

    「あー…、あのさ。なんかもうバレたと思うんだけど、オレ、小エビちゃんのことが好きなんだよね。」
    「! は、はい…。」
    「小エビちゃんもオレのこと好きなの?」
    「好き、です…。」

     二人の目と目が合い、なんでこんな形でバレちゃったんだろうとか、早く想いを伝えればよかったとか、でも結果的にはよかったのかなとか、さまざまな思いが湧き上がってきて、どちらともなく笑い出す。
     そうしてひとしきり笑った後、フロイドは監督生をまっすぐに見つめて、言った。

    「小エビちゃん、オレ、ちゃんとキスしたい。」

     監督生はフロイドの言葉に、顔を赤くしながら精一杯頷いた。
     フロイドは、部屋の時と同じように監督生の頬を両手で包み上を向かせる。監督生は目を閉じ、フロイドはこくりと喉を鳴らした後、顔を寄せ、監督生の柔らかな唇を堪能した。
     ちゅっと音を立てて唇を離したフロイドはそのまま監督生を抱きしめる。そして、これからは「小エビちゃんはオレのだから雑魚どもは近寄んな」と言い触らし、生徒たちを牽制しまくろうと固く決意したのだった。



    ---

     余談だが、オンボロ寮のゴーストたちもこの「キスしないと出られない部屋」計画の共犯者である。
     グリムが、隣を歩いていた監督生が忽然と消えたことに動揺して慌ててオンボロ寮に駆け込んできたときも「落ち着いて」「すぐ帰ってくるさ」「とりあえずお菓子でもつまんでるといい」などと言ってなだめ、それでも我慢できずエースやデュースに助けを求めるために寮を飛び出そうとしたときも「いま外に出たら良い雰囲気を壊してしま…いや、外に出るのは危険だよ」「監督生は彼の腕の中に…おっと、とにかく監督生は無事さ」「今日はお祝いの準備もしなきゃいけないし…ごほんっ、まだお菓子がたくさん残ってるよ」と言って引き止め続けた。

     監督生がオンボロ寮の玄関扉を開けたときに、にんまりと笑うゴーストたちと涙で顔をぐしゃぐしゃにしたグリムが一斉に押し寄せてきたせいで声にならないほど驚いたのは、言うまでもない。
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