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    wui_albion9

    主に書きかけの話をぽいぽいすると思います。twstフロ監♀とジェイ監♀が多めだと思います。

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    wui_albion9

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    ジェイ監♀、長編になるかな?と考えている小説の冒頭〜書けている部分の公開となります。

    ※完結予定時期は未定
    ※twstの世界観、魔法の歴史(魔法の成り立ち的な部分)、その設定に関しての捏造がございます。
    ※現時点ではネームレス監ですが、後々名前が出る可能性があります。

    少し推理モノっぽい風味が出せればなぁと思っているのですが、技量がそこまで到達できるかどうか…

    『幸せな終末論(仮)』 1.


     ――明日世界が終わってしまうとしたら、先輩だったらどうしますか?

     昨日の別れ際に彼女の口からこぼれた言葉は、いくら授業に集中しようとも頭から離れていかない。精密な魔法薬の調合をしていても、各国の興味深い歴史に耳を傾けていても、気まぐれな箒を操っている時でさえも、何だか妙な魔法をかけられてしまったかの様に脳裏に色濃くこびりついて、そしてその言葉が繰り返される度に何故だか鋭い痛みを伴って、心臓を薄らと切りつけていく。
     あの時、彼女の顔は見えなかった。暗がりで最後に見た背中はいつもと変わらず小さくて、唐突に伸ばしかけた手は届くことなく宙を撫でただけだ。その言葉の意味を正しく理解できないまま、しかしその言葉の裏側を知りたくて仕方がない気持ちを抱えたまま、ただひとりその場に取り残されていたのが昨晩のこと。
     今日は、まだ彼女を見かけていない。
     あれが本当にただの興味から来るものだったのかそうでなかったのかは、正直彼女自身の顔を見るまで判断しかねる。だからこのひたすら自分の心を支配している違和感を早く拭い去りたくて、知らず知らずのうちに得体の知れない焦燥感に苛まれていたのだ。
     きっと昼休みに入れば、大食堂辺りですれ違うことはできるだろう。言葉は交わせないとしても、遠くからあの少女の顔色くらいは確かめられるはずだ。そう思っていた。
     しかし、普段ならば的確に命中する予想は見事に外れてしまう。普段通りであれば一緒に行動しているはずの顔ぶれの中、彼女だけが居ない。いつもその肩に乗せている魔獣は他学生の肩に乗っているし、周囲もそれが当然の様に振る舞っている。その風景はあまりにも自然で、しかし自分の目には兎にも角にも不自然に映るのだ。そこにあって当然と思っていたものが、まるで最初からなかったかの様な、そんな光景だった。
    「どしたの、ジェイド?」
     片割れが怪訝そうな顔つきで、こちらを見ている。その視線だけを感じながら、努めて冷静に聞き返した。
    「昨晩の記憶がどうも曖昧で……。フロイド、昨晩、僕が誰と会っていたか知っていますか?」
    「はぁ?昨日はアザラシちゃんに用があるっつってたじゃん」
     アザラシちゃん――グリムの名前が出て、その違和感が自分の頭の中でしっかりと形になり始めたのが分かった。自分がグリムだけに用があったことなど、今までに一度もない。
    「僕が会いに行ったのは、『監督生さん』ではない、ということですね?」
     その質問に対する返事は、やはり返ってこなかった。ようやく顔をそちらへ向ければ、ぱちぱちと瞬きを繰り返す顔が自分を出迎えてくれる。やはりあの違和感はただの違和感ではなかったのだと、ぱちん、とパズルのピースが当てはまった様な心地がした。それは決して達成感や安心感などではなく、ただただ最悪の気分でしかなかったけれど。
    「カン、トク、セー……?なぁにそれ、聞いた事ないけど誰のこと?」
     その言葉を聞いて、自分は果たしてどんな顔をしたのだろうか。

     僕の中にだけ、小さな足跡を残して。
     彼女はこの世界から、跡形もなく消えてしまった。




     2.


     雨がざあさあという騒音となって降り注ぐ。体力育成の授業は室内での実施となり、他生徒が必死にボールを奪い合う姿をただ呆然と眺めていた。
     脳裏に浮かぶ話題は、翌日になっても変わらない。彼女がいなくなったということ。そして自分だけがその少女のことを覚えていて、更には自分ですら驚く事に、いつのまにかその存在に執心していたこと。しかし彼女についてしっかりと思い出せることは、改めて考えてみるとそれほど多くはなかった。ふわりと笑う口元だけはよく覚えているのだが、目元は朧げだ。華奢で、けれど少し大胆で、くるくると変わるその表情に魅せられていたことは確かなのに、霞がかかったかのように曖昧でもやもやとする。
    「どうしたんだい、ジェイド。君らしくないね」
     隣から訝しげに声をかけた赤毛の生徒に、いつもの笑みを張り付けて答えた。
    「おや、リドルさん。僕のことを心配してくださったのですか?お優しい」
    「まったく……いつも平然としている君がそんな様子だと、逆に気味が悪くて仕方がないよ」
     汗だくで呼吸はやや上擦っているものの、佇まいを崩さないのが彼らしい。返事の代わりに手元のタオルを手渡せば、青年も何も言わずに手に取った。
    「……実は、少々不思議な経験をしまして」
     胸の内に秘めていた方が良いのか、そうでない方が良いのかは分からないけれど、不意にそんな言葉が口をついた。我ながら呆れる程意識をそちらに向けすぎていて、特に他の話題も見当たらない。別に自分しか知らない事なのだから、きっとそれが自分にとって不利になるものであったとしてもさして問題はないだろう。
    「それまで確かに存在していたはずの人が、ある日突然姿を消してしまったんです。しかも周りは全くその人について覚えていないのに、僕だけはその方を覚えている……。それが夢だったのか現実だったのか、それすら分かりません」
     今となってはそれまで自分が現実だと思っていた全てのことすら夢だったのではないかと、そんな気もし始めていたのだ。誰も知らない、自分の中にしかない存在。そう考える方が遥かにしっくり来るのに、どうしても頭が受け入れてくれない。そう納得出来てしまったら、果たしてどんなに楽だろうか。
     きっといつもの様にあしらわれるだろうと思っていたが、存外彼の中の何かに響いたらしい。隣に座り込んだ彼は一度目を閉じて、ふむ、と考え込んだ。
     二度、三度とボールが床を揺るがす音がする。そして四度目の音が鳴り響いた時、彼は静かに目を開けた。
    「以前読んだ本に、その様な話があった気がするんだ。それが誰かの自叙伝だったのか、魔法書だったのか、そんなことすら覚えていないけれど……」
     ごくり、と唾を飲み込む喉に力が入る。早る気持ちを抑えながら、耳を傾けた。
    「それは、つい最近のことでしょうか?」
    「確かこの学園に来て、間もない頃だったと思う。誰にも邪魔をされない場所を探して図書館の奥まった方まで行ったのだけど、かなり重要で重厚そうな本が多くて気になったんだ。ああ、そうだ、あれは確か――誰かの綴った、長い夢と、その終わりに関する本だった気がするよ」
     彼女の残した言葉が、甦る。
     もしもの話ではあったけれど、世界の「終わり」を問いかけた言葉。それが同義であるかどうかは分からないけれど、全く関連がないとは言い切れない気がする。
     すぐに答えが出ないこの状況に直面して、ふと、何かとんでもなく大きな絵画をパズルにしてひっくり返してしまったかの様な、そしてその途方もない数のピースを前に愕然としているかの様な、そんな心地にさせられていた。しかし、何となくすべきことが見えた気がする。
    「ご貴重な情報、ありがとうございます」
     にっこりと笑いかけたものの、それはいつもの貼り付けた笑みとは異なっていたのだろう。目を見開いて驚く彼の表情を愉しみつつも、課せられたボール遊びに興じるべくコートへと向かう。普段であれば最悪な心地であったかもしれないが、何となく、いつもよりは暗雲から少しだけ陽が差した気がしていた。
     きっと彼女にもう一度会うためには、これから夥しい程のピースの山を一枚の絵に戻さなくてはいけないのだろう。しかも刻一刻と薄れゆく記憶を頼りにしなければならないだろうから、おそらく時間も残ってないのだ。しかしあの笑顔がもう一度見られるのならば、そしてそこへもう一度手を伸ばすことが許されるのならば。どんな苛酷な対価でさえ、この身を投げ打ってでも払ってみせよう、と、いつの間にか心は決まっていた。
     人知れず、笑みが溢れる。
     一度執心したこの気持ちは、やはり彼女に受け入れてもらわなければならない。そうでなければ、こんなに思い悩まされているのに割りに合わないのだ。再びあの少女のくるくると変わる表情を堪能する為に、何が何でも連れ戻さなくてはいけない。たとえ彼女の居た景色が夢だったというのであれば、そちらを現実にするまでだ。




     3.


     誰もいない広い空間に、硬い靴音が響いていく。灯りはあるものの、最深部へと続く書架は窓もなく澱んだ空気が支配していた。人の往来がないからか、先へと進むにつれて識別番号の表記さえ古さを増していく様だ。
     学生たちが到底手にしない様な専門書の名称が増えはじめ、本の厚みもどんどんと増していく。魔術古代史、戦争史、郷土史、伝記、神話――その辺りの表記を見て足を踏み入れれば、やや埃っぽい空気が鼻についた。最新の保護魔法によって空気や温度の調整はなされていると思うが、やはり長期間に渡る経年劣化は止められないのだろう。それとも、この本一つひとつに染み付いている香りなのだろうか。
     何千年という気の遠くなる様な時間の中で、魔法というものは変化を繰り返して来た。古代における「まじない」や「祈り」という簡易的に個人の願いを込める形から始まり、科学という言葉が公なものになる以前に薬学や医療行為の中で生まれた「呪術」、誰かに危害を加えるといった負の感情を伴うものから神聖視される様なものまで絶えず形を変え名前を変え、さまざまな種族の文化を支えてきたのだ。
     そんな脈絡と続く変化の中では、当然イレギュラーが起こることもあった。今となっては科学と魔法によって説明が付くことが多くなったが、その解明が為されるまでは奇跡だと持て囃されることも多かったはずだし、類稀なる魔力量を持って生まれてきた存在が忌避されるべき存在として扱われたり、反対に神の生まれ変わりとして神聖視されたりといった事象も少なくない。それらは怪奇現象や迷信、神話や伝説として世界各地に根付き、今なおこの時代を生きる一人ひとりの生活の中で息づいているのだ。
     伝記と記されたラベルの棚を、眺める。夥しい著者の本の中、ふと目に止まったのは他の本たちに埋もれる様に、肩身が狭そうに収まっていた青白い本だった。ただそれに惹かれる様にして重厚な本の隙間から取り出すと、表紙には銀の文字で『鏡合わせの夢世界』と記されている。

     ――私が目を覚ましたのは、驚く事にそれまで自分が生きてきた場所とは到底思えないほどに、見覚えのない景色の中だった。果たして自分が誰で今まで何をしていたのか、そんな些細な事すらはっきりと思い出すことができない。しかし時間が経つにつれ霧の晴れ始めた頭で必死に考え、周囲の様々な不思議な光景を目の当たりにしていくと、やがてはっきりと、その場所が「異世界」であるということに気がついたのだ。

     文字の海に浮かぶ「異世界」というこの三文字がとても大切なものの様に思えて、指でなぞる。そうだ、彼女が言っていたのだ。自分にとってこの世界は異世界なのだ、と。

     ――私は考えた。ここが異世界であるならば、今まで居た場所との繋がりがどこかにあり、それを通ってこの世界にやってきたのではないか、と。この世界に順応する事はそれほど苦では無かったけれど、やはり今までの世界には存在しないものが数多くあるため、体力の消耗は激しかった。手がかりを探すためにあちこちと足を運ぶのは良いものの、常に得体の知れない違和感が纏わりつく。
     ある日、私は自分の睡眠時間が少しずつ増えている事に気がついたのだ。寝ても寝ても身体が重く、体力が付いていかない。まるで怪我や病気で身体が自然治癒のために力を使う様に、ひたすら眠い時間が増えた。
     そしてその眠りの中、夢を見る様になったのだ。最初は朧げで覚えても居なかったけれど、気がつくと同じ夢を見ることが増えていたのだろう。今生活している世界とは異なる、どこか懐かしさと安らぎを覚える夢。見慣れた景色の中を歩き回り、まるでそこで長らく生活していたかの様な感覚が生々しくて、ついにそれが、今まで自分が生きてきた世界を見ているのだと、唐突に理解してしまった。
     そう、私は夢の中で、世界を行き来していたのだ。もしかしたらこちらの世界のことも、昔から夢に見ていたのかも知れない。過去に生きていた世界を現実、今生きている世界を夢とするならば、或いは逆に名付けるならば、私は夢を見ることと夢から覚めることとで、世界を行き来きしていたのだ。
     もちろん、最初は驚くことばかりだった。自分が地に足をつけて生きているのはこちらの世界である気がしていて、それまでを生きてきた世界は夢の中での光景だという意識があったのだ。しかし長くなる睡眠時間につれ同じ様な長い時間を両方の世界で生きる様になった時、果たしてどちらが現実でどちらが夢なのか、分からなくなってしまったのだ。どちらの世界でも、現実味がある。視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚……どれもが鮮明で、ついにこの頭は混乱し始めた。
     ある時どちらの世界でのことだったかは分からないが、鏡を見たのだ。大きな、自分の身体ほどある重厚な鏡だ。自分自身を映し出したと思いきや、その鏡面が波打ち始めた。驚いて身を引こうと思ったものの、だんだんとそこへ映り始めるものに何故だか興味が湧いて、気がつけばその『手』を掴んでいたのだ。鏡には誰かの手が映り、声が聞こえた気がする。そしてそこへ引き寄せられる様に手を伸ばした瞬間――鏡面に触れた感覚もなく、そのまま鏡の中へと私は足を踏み入れたのだ。
     その後のことは、よく覚えていない。
     しかし今こうして私が本を書いている世界は相変わらずこちらの世界で、もう長く眠りにつくことも無くなってしまった。あの時体験した不思議な夢が本当に自分の身に起きたことなのかさえ、証明する事すらできないのだから笑ってしまう。
     ただ一つ言えることは、あの手を掴んだ時、私は何かを思い悩んでいた気がするのだ。それがどんなことかは思い出せないが、きっとそれがこの不思議な出来事に何かしら関係していると思っている。本来鏡に映るのは自分自身であり、自己の素を曝け出す道具、魂を映す道具とされることも多かった。そんな場所に映った手を引いてこの世界へと訪れたのならば、きっと自分自身が別の場所へ行くことを望んでいた、もしくはそれまで居た世界から逃げ出したかった、というような願いを抱えていたのかも知れない。ともすれば、あの長い夢は自分がどちらの世界で生きるべきかを選ばせる、まさに選択肢として与えられていたのかも知れないと、今となっては思うのだ。
     私自身がこの世界を選んだのだとしたら、もう一つの選ばなかった世界はどうなったのだろうか。今となっては知る由もないが、夢の中では確かに普通に生活をしていたのだ。誰かと会話し、誰かの視線の中を歩き回り、そして腰を落ち着ける場所を所持していた。それが空想ではなく本当に存在している光景だったのならば、その生活から私がすっぽりと抜け出してしまった後、空っぽになってしまった部屋も、懇意にしていた場所や人物にとっても、何かしらの影響があるはずだ。果たしてどうなってしまったのだろうか。そもそも、私という存在がその世界から消えたことで、あたかも最初から存在していなかった者になる、という考え方もあり得るだろう。それはその世界を垣間見る機会がなければ全くもって分からないけれど、もしそうであった方が、何かを残してきた者にとっては気が楽というものである。
     数奇な巡り合わせでこの本を読んでいる諸君、もしもその現象に立ち会ったのなら教えてほしい。どちらの世界にでも残された何かがあるのか、それとも全てが風の様に掻き消えてしまったのか。
     そして、鏡にはよくよく気をつけて欲しい。安易な選択をすると後悔してしまうかも知れないが、時にはそれで救われることもあるだろう。しかし最終的に自分がどうなるかなど、自分自身の選択次第だ。生きる世界の理はいくらか違うかも知れないが、叶うならばよく知った上で、その不思議な「手」を取ることをお勧めしよう。

     一度頭を整理したくて、逃げる様に本を閉じる。教えてもらったであろう本を引き当ててしまったことにも驚きだが、自分が求めていたものに遥かに近い内容が記されていて動揺を隠せない。
     異世界、夢、そして鏡。そのどれもが彼女と関係があるようで、この「持ち出し禁止」と書かれた書物を手放すことはできなかった。これがどれだけ前の出来事なのかは記されてはいないが、所々痛んだ保存状況から察するに、本自体はかなり昔のものだろう。著者が存命である可能性も低く、実際に話を聞くことも難しいと判断する。

     ――明日世界が終わってしまうとしたら、先輩だったらどうしますか?

     終わる世界とは、果たして何のことだろうか。もしもこの著者の語る夢と同義だとすれば、彼女は既に現実と夢とを行き来していたのだろうか。そして、鏡に遭遇して、誰かの手を取ってしまった――そう考えれば、彼女がこの世界から消えた理由も、誰にも覚えられていない理由も、説明がつく。
     しかし、ただ自分だけが彼女のことを覚えている。周りの誰もが記憶していないのに、その存在が確かにこの世界に存在していたことが、その笑顔が、かすかな面影がこの身体には刻み込まれていた。その理由はいったい何なのか。
     まだこの話だけでは説明がつかなくて、少しだけ心を落ち着かせる。まだ、膨大なピースに手をつけ始めたばかりだ。こう言う作業は、根気が必要だと相場が決まっている。気弱になっている暇などないのだからと、両頬を叩いて気合を入れた。
     誰かによって奪われてしまったのかも知れない、と思う気持ちが心臓を捻り潰す前に、思考を入れ替える。パラパラとページを流し読み、周囲の関連していそうな本も目を通していく。これが果たしてどれだけの取れ高になるかは分からないけれど、呆然とする暇はないのだ。
     まだ、残されたピースは山のように積まれている。見回りすら訪れない場所で本に埋もれながら、ただ必死に、縋るように、文字を追っていた。

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    MAIKINGジェイ監♀、長編になるかな?と考えている小説の冒頭〜書けている部分の公開となります。

    ※完結予定時期は未定
    ※twstの世界観、魔法の歴史(魔法の成り立ち的な部分)、その設定に関しての捏造がございます。
    ※現時点ではネームレス監ですが、後々名前が出る可能性があります。

    少し推理モノっぽい風味が出せればなぁと思っているのですが、技量がそこまで到達できるかどうか…
    『幸せな終末論(仮)』 1.


     ――明日世界が終わってしまうとしたら、先輩だったらどうしますか?

     昨日の別れ際に彼女の口からこぼれた言葉は、いくら授業に集中しようとも頭から離れていかない。精密な魔法薬の調合をしていても、各国の興味深い歴史に耳を傾けていても、気まぐれな箒を操っている時でさえも、何だか妙な魔法をかけられてしまったかの様に脳裏に色濃くこびりついて、そしてその言葉が繰り返される度に何故だか鋭い痛みを伴って、心臓を薄らと切りつけていく。
     あの時、彼女の顔は見えなかった。暗がりで最後に見た背中はいつもと変わらず小さくて、唐突に伸ばしかけた手は届くことなく宙を撫でただけだ。その言葉の意味を正しく理解できないまま、しかしその言葉の裏側を知りたくて仕方がない気持ちを抱えたまま、ただひとりその場に取り残されていたのが昨晩のこと。
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