モミモミモミモミモミモミ
「・・・・・・・」
もみもみもみもみもみもみ
「・・・・・・・あの、」
「だまって」
「ハイ」
もにゅもにゅもにゅ
一心不乱に胸を揉むレオナをヒュンケルは黙って見守った。見守ったというか虚無顔で佇んでいるだけだが。
何がどうしてそうなったのかはさっぱりわからないが、事の発端は濃い隈をくっきりつけたレオナがヒュンケルと正面衝突したことだ。正しくはふらついたレオナをヒュンケルが抱き留めたのだが、その時レオナがヒュンケルの胸に顔を埋める形となった。
「陛下?大丈夫ですか?」
うんともすんとも言わず微動だにしないレオナを引き剥がせず、さりとて抱き締めるわけにもいかず、途方に暮れたヒュンケルだったがレオナが突然ガッと肉を鷲掴みにした。
ーーーーヒュンケルの胸筋を。
「へ、」
そのまま物言わずに据わった眼で目の前の胸を睨みつけながらひたすら揉んでいるのだ。
痛いわけでもないので構わないのだが如何せん何が楽しいのかまったくわからない。執務室で今は人目がないとはいえ、密室で男女がこのような状態はよろしくないのでは。傍から見ればまったくの無だが、その実とても狼狽えているヒュンケルはどうしたものかと彼女のつむじを見て、扉を見て、天を仰ぎ、虚無顔で正面の壁を見つめるしかなかった。
「なによ、これ・・・」
「はい?」
「男の癖に・・ムキムキの癖に・・・」
ブツブツ言いながら胸を揉み続けるレオナは端的に言って怖い。
「申し訳ありません・・・?」
文句を言われているのだろうか?ととりあえず謝罪を口にしてみるがたぶんレオナは聞いてない。
「きもちいい・・ふかふか・・なにこれダメになる・・」
ついには再びバフンと胸に顔を埋めてしまった。
どうやら感触を気に入ったらしいことはわかったのだが、ヒュンケルは解せない。
「触るなら女性の方が柔らかいのでは?」
エイミやマリン、マァムだって言えばいくらでも触らせてくれよう。何もこんな筋肉の塊で妥協せずともと進言してみるが血走った眼で睨まれて口を噤んだ。
「違うのよ!全然違う!張り?コシ?とにかくこうッ全然違うの!!」
「はあ、」
よくわからないがお気に召したのなら何より・・?
困惑のまま、とりあえず寝かしてしまおうと決めてヒュンケルはレオナを抱え上げた。
「・・・・なにがあったの・・?」
ノックに返る返事が低い男のものであることにマリンは一瞬警戒したが、すぐにヒュンケルのものと気付いて扉を開けた。
当然ながら何の構えもなく、飛び込んできた光景に絶句する。
「・・・不可抗力だ」
大きな来客用兼レオナの休憩用ソファに寝そべったヒュンケルの上にレオナがぴったり張り付いていた。机に置いた書類を眺めながら時折彼女の髪を撫でる姿は完全に猫が退かなくて困っている人だ。まさに猫さながら、満足そうに胸をモミモミしている。
ここ最近の忙しさでやつれていた彼女はすっかり血色がよくなっていた。叶うならこのまま寝かせてやりたい気もするが、ここは執務室だ。誰が来るかわからない。
一先ずレオナを起こそうとマリンは気合いを入れて一歩を踏み出した。