逃亡 その一軒家は深い森の中に、誰からも忘れられたかのようにポツンと存在していた。
よくもまあ、こんなに人気のない所を見つけたものだと半ば呆れながらもラーハルトは家の敷地内へと足を踏み入れた。
所々に家主が植えたと思われる可愛らしい花が咲いている。
何となく花に触れたくなって手を伸ばすと、木の扉が少し開いて小さな子供がひょいと顔を出した。その容姿を目にしたラーハルトは思わず叫びそうになったが、なんとか平常心を保つことに成功する。
「……パパ?」
自分と同じ肌の色で、目の下に模様がある尖った耳の幼子の問いかけにラーハルトは反射的に返事をした。
「そうだ」
子供は嬉しそうに駆け寄り、両腕を高くあげた。『抱っこしろ』の合図だ。素早くその意味を読み取ったラーハルトは子供をひょいと抱き上げた。
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