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    kei_shi28

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    kei_shi28

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    ワンライお題「熱帯夜」で書きました。
    ラーヒュンがまだくっつく前の話です。

    #ラーヒュン
    rahun

    熱帯夜 自分はどんな環境でも眠れる自信があったが、その日は違った。
     日が暮れたというのに気温が下がらず、異様に蒸し蒸しする。
     どこからか美しい歌声が聞こえるような気がするが、暑すぎて耳もやられてしまったのかもしれない。
     寝苦しさにラーハルトは身体をむくりと起こした。こんな事なら素直に宿を取っておくのだったと思いつつ少し離れた場所を見やるとヒュンケルがモゾモゾと動いている。どうやら彼も寝付けないらしい。
    「ヒュンケル」
     思わず声をかけると、彼はこちらを向いた。
    「ラーハルトも眠れないのか。空気に熱気がこもっているな」
    「ああ、こうも湿度が高ければ不快でしょうがない」
     ヒュンケルは立ち上がり、スタスタと歩いてきてラーハルトのすぐ隣に座りこむ。
     ただ近くで話そうと思って自然にとった行動だろうが、ラーハルトは妙に意識してしまう。何故なら彼の事を好いているからだ。だが、顔には出さず平静を装った。
     白い首筋にスッと汗が流れてヒュンケルはそれを指で拭った。
     何故かその一連の動作に性的興奮を覚えて、思わずラーハルトは彼から視線を逸らす。
    構わずヒュンケルはシャツを引っ張り胸元に流れる汗も手で拭った。
     彼の汗の甘い匂いが鼻にまとわりついて、その興奮は益々激しくなる一方なのでラーハルトはヒュンケルから離れようと立ち上がりかけたその時、彼から声をかけられた。
    「ラーハルト、少し水浴びをしてくる。体が火照って仕方がない。……お前も来ないか?」
     確かに自分も汗をかいて気持ち悪い。
    「ああ、そうしよう」
     ここは断るべきだったのだ。それか交代で行くという方法もあった。だが、ラーハルトはヒュンケルと連れ立って近くの湖へ向かった。
     昼間見かけた、澄んだ湖がちょうど近くにあったことはラーハルトも記憶していて、予想通りヒュンケルはそこに着くと嬉しそうに服を脱ぎ始めた。
    (クソッ。意識しない様に務めてきたのに)
     ヒュンケルはあっという間に全裸になると服を軽く畳んでザブザブと水の中へと入って行った。
    「おい、不用心だぞ。周囲を警戒しろ」
    「大丈夫だ。敵の気配も感じない。早く汗を洗い流そう」
     ラーハルトは舌打ちした後、自分も彼を追って透き通った水の中に足を入れた。
     その冷たさに一瞬身震いしたが、すぐに身体が水の温度に馴染んで火照った身体を冷やしてくれる。
     腰の位置程の深さの場所でヒュンケルが潜ったり泳いだりしているのをぼんやりと眺めていると、彼はその辺にある平たい岩に腰掛けた。
    「ラーハルト、来い。水に浸かりっぱなしでは身体が冷えるぞ」
     それなら、もう湖から出ようと提案すれば解決する事だ。
     彼が座っている岩は丁度成人二人が座れるくらいで自分がそこへ行くと嫌でも身体が密着するだろう。ラーハルトは吸い寄せられるようにヒュンケルの元へと向かった。
     彼は全く身体を隠す気がないらしく、全裸で足を開いて座っているので全てを曝け出している。ラーハルトはその白い身体をじっくりと見つめてしまった。
    「ラーハルト」
     声を掛けられてハッとした。自分はいったいどうしてしまったのだろうか。
    「ああ、すまない」
     ヒュンケルが艶やかに微笑んだ。
    「オレの身体を見ていたんだろう?触ってみるか?」
     それを聞いたラーハルトは頭に血がのぼり、平常の状態でいられなくなるのを自覚した。
    「ヒュンケル……後悔するなよ?」
     妖艶に自分を誘うヒュンケルに手を伸ばした時、鋭い叫び声が聞こえた。
    「ラーハルト!!!そいつから離れろ!!!」
     同時に飛んできた短剣が頬を掠め、小さな悲鳴をあげて目の前のヒュンケルは美しい女性の姿に変わるとサッと湖の中へ姿を消した。
    「大丈夫か?ラーハルト。そいつはここの湖に住むセイレーンだ。お前を気に入って目をつけていたのだろう。危うく湖へ引きずり込まれる所だったぞ。歌声を聞かなかったか?早く湖から出るんだ」
    (何てことだ。ヒュンケルへの恋心を魔物に利用されるとは)
     自分の失態に腹を立てながら、ラーハルトはジャブジャブと荒々しく水しぶきを上げて湖から引きあげた。
    「ヒュンケ……」
     待ち構えていた彼に突然抱き付かれて、ラーハルトは息を呑んだ。
    「お前を、失うかと。オレも警戒しておくべきだった」
     振るえる肩を抱き、ラーハルトがヒュンケルの顎を掴み顔をあげさせると、その頬は涙に濡れていた。
    「あ、すまない」
     慌てて涙を拭う手を押さえつけて、そのまま地面へヒュンケルを押したおし、口付ける。
    「この暑さだ。もう少し、汗をかいてもいいんじゃないか?」
     ヒュンケルが背中に手を回してくる。
    「どうせなら汗まみれになるのも悪くない」
     重なる二人の後ろで、チャプンと悔しそうに魚の尾が跳ねた。
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