手のひらの愛「これからもよろしくお願いします」
そう言って薫が渡したのは、直筆で書いた彼の名前の印刷された名刺だ。
薄い桜色の和紙みたいな紙。イメージによく合わせた掌ほどのサイズのそれ。それが自分に貰えるものでは無いのがちょっとだけ悔しくて、その光景をカウンターの中からジッと見つめる。だって、薫の書いた美しい字が掌に収まるなんて絶対無いことなのだから。痛いほどの視線に気がついたのか、薫は虎次郎を見つめ返す。留紺色の扇で口元を隠して、一瞬だけ睨む。「なんだ」と言いたげだ。小さく首を横に振って、フライパンへ目を戻す。それでも薫の視線は離れない。帰ったら何が言いたかったんだと問い詰められるんだろう。1回くらい言ってみようか。俺もお前の名刺がほしいって。
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