Unknown⑨(終) 話を終えて、
本当に、待たせてごめんなさい。
と僕は言った。
先輩は
「変わらずにいてくれたから、何も苦ではなかった」
と言いながら、また、極上の笑顔を向けてくれた。
今は、あの路地で気持ちも並んでから時計の短針が何周かしたところ。話しているここは僕の部屋。
あの後──積もる話をしたいしそこでさようならは寂しいと思って、
うちで話しませんか?
と提案した。
「そうする」
と頷いた先輩と部屋に向かう道すがら、なんなら泊まっていけばいいと促したのも僕だ。その方がゆっくり話せるからと。
結果としてそれは正解だったと思う。
まだたくさん話したいことがある
そう言ったら、先輩は
「俺もまだ話したいし、聞きたい」
と頷いてくれた。
でも。
今はもう、普段ならとっくに寝ている時間なせいか少し前からお互い瞼が下りかけているんだから。
だけどそんな姿を見せてもいいんだと安心できるのも、見せてもらえるのも本当に嬉しくて、僕はもう一度先輩の髪に触れた。
くすぐったそうに目を細めて同じように僕の髪を梳く先輩の指先に、決して強引じゃない、少しの力がこもる。
それに逆らう理由はない、引き寄せられるまま近付いて、そうしながら伏せた瞼。
重ねた唇を、一度離して、
──でも、続きはまた、明日にでもしましょう
と、囁いた。
それでも、話し足りないでしょうけど
そう付け足した唇を
「そうだな」
と優しい微笑みのキスで塞がれながら──
内側にぴったりと馴染んだ、かつては未知なる想いだったこの恋を、僕は、ずっと大事にしていこうと心に決めた。