Real Face 隊長が、サギョウに話しかけている。それだけならよく見る光景──なの、だが──
どうにも気に掛かって、事務仕事の手も止めて、そうまでしてふたりの成り行きを見つめてしまったのには訳がある。
サギョウが、笑っていたからだ。
誤解のないように言っておくとサギョウは特段無愛想な方ではない。だが隊長に向かって、まして勤務中となれば伝えられる内容はほぼ職務に関することであろう状況で、そしてその最中に頬を緩ませる姿などこれまでは皆無と言ってよかったほどだ。
そのサギョウが、微笑んでいる?
もしや話の内容が桃色ががった雑談なのか? とも、勘繰ったが、そのとき特有の歪みもない穏やかで柔らかな雰囲気に、途端にざわつく腹の中。
とはいえ話に割って入るなど──と考えるより早くふたりは話を終えたようで、各々のデスクに戻った。
こうなっては聞けはしない、今は。ならば、と──
「隊長に何か聞かれたか?」
「……は?」
俺がようやく尋ねられたのは勤務の後、並んで家路についてすぐ。だがサギョウは何のことか分かりかねたのかきょとんとした。
「仕事中、何か話していなかったか?」
「ああ!」
補足で合点がいったらしいサギョウは、いまだ後輩の顔で語り始めたの、だが、
「そうそう、隊長に、『最近顔色が良くなったな、なんかしたのか?』って聞かれまして」
「……うん?」
言いながら、サギョウの表情が恋人のそれに、変わり始め、て──
「『ここんとこ、いいもの食わせてもらってますんで〜』って返したら、隊長に『羨ましい!』って歯軋りの音聞かされただけですよ!」
と、笑った。
それは、胸中がざわついたとき以上に、柔らかく、あたたかいもの、で。
俺はといえば、それを目の当たりにしてまたも、一度は歩く脚も止めてしま、ったの、だが──
「今日も美味い飯食わせてください、なるべく手伝いますんで」
なんて言いながらすぐ先の建物を示す恋人に、
「まかせておけ!」
以外の言葉が見当たらず、我れ知らずのうちに早足になりながら二十四時間営業のスーパーに向かった。
恐らくは、懸念したときのサギョウよりも、緩んだ破顔で。