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    引っ越し

    📛×👮‍♂️「ヒロさん」

     

    楽しそうに腕を振る冥に、笑いながら手を振り返してやると再度ニコッと昔は見たことの無い可愛らしい笑顔を浮かべる。

     

    「逃げねぇから歩いてこい」

    「はぁい」

     

    ニコニコと笑う姿に昔のむっすりした顔を思い出しては違いに苦しくなってしまう。

     

    「お待たせして申し訳ありません」

    「堅苦しくしなくて良い。んでどこから行く?」

     

    二人で並んで歩くと少し後ろに悲鳴嶼さんがついてくる。

     

    昔は俺が後ろからついていったなぁ

    その大きな背中を見ながら歩くのが好きだった。二歩くらい前を歩いてたんだよな。ヒラヒラ揺れる不思議な柄の上着。

    あーんな南無阿弥陀仏って書いてある羽織を売ってるのを見たことはないからオーダーメイドだったんだろうなぁ

    ここが阿で、ここが弥とかやってたのかな?

     

    「冥、お前が前行かねぇとどこに行けば良いのか分かんねぇんだけどぉ」

    「あっ!そうですね!ごめんなさい」

     

    チマチマ歩いて俺の手をひょいと握って前を歩き始める冥に少し驚いたが、振り払うほど嫌な訳じゃないので、そのまま一緒に歩く。

    普段子供と歩いてるから、手を繋ぐ癖がついてんのかねぇ。

    でっかい二人が並んで歩くと視線を集めるが、まぁ、いいか。昔のあの頃と比べれば、そこまで目立っているわけではない。

    だが、慌てているのか、小走りみたいになっており、つい笑ってしまう。

     

    「めーい、慌てねぇでも大丈夫だからぁ」

    「あっ!ごめんなさい!」

    「ゆっくり歩こうなぁ」

     

    頭を撫でてやると、無邪気ににこりと笑顔をこちらに向けてくる。

    同じ人でも成長過程でこんなにも変わるもんだなぁ

     

    「ヒロさん、俺!ヒロさんが好きです!」

    「俺も冥が好きだぞぉ」

     

    冥は悲鳴嶼さんと違って友達大好きってタイプらしくて、こうして好き好き言ってくるのが可愛いんだよなぁ。

    玄武にも好き好き言って抱きついてるし、玄武も俺も好きーっつってお互い抱き合ってキャッキャウフフしてるし、時代も変わったもんだなぁ。俺はそーゆー世代じゃねぇからちょっと抵抗あんだよなぁ。

     

    「ヒロさん、俺本当に好きなんですよ?」

    「知ってるって、好きなんだよな。疑ってねぇよ」

    「ヒロさん分かってない!」

    「えー何がぁ?」

     

    プンプンしているが、あの頃と違って無言で圧をかけてくる感じじゃなくて、怒ってますよ~みたいな空気を出すのが可愛いんだよなぁ

     

    「もぉー分かってるんですか!」

    「?」

     

    プンプンと言いながらぐいぐい腕を引かれると思ったらあんまり人のいない公園に来たなぁ。

    この先っつったらあいつの好きな園芸店あったなぁ、てか、コイツ彼女出来ねぇぞ。力強すぎて引かれてる手首が痛ぇよ

    もし恋人が出来たら口酸っぱく言っとかねぇとなぁ

     

    「めーい、手が痛ぇよ」

    「もうちょっと我慢してください!」

    「プンプンすんなよぉ」

     

    我慢しろって、まぁ良いけどよぉ

    どこに行くんだぁ?園芸店と道が違うぞ?間違ってんのか?

    教えてやった方が良いのか?

     

    「ヒロさん好きです」

    「知ってるぅ」

    「もぅ!」

     

    ぐっと掌を引かれて冥の胸元に顔面をぶつけてしまった。

    そういえば、昔の悲鳴嶼さんに抱き締められた時に胸元にいっつも頭がぶつかって、服から線香の匂いがしたなぁ。

    おかげで線香の香りがすると思い出しちまってムラムラするようになっちまったんだよなぁ

    今はふわっと柔軟剤だろう花の香りがする。

     

    「冥?」

    「こう言う意味で好きなんですよ!」

     

    えっ?と思うより早く額に暖かい何かが触れる。

    えっ?これデコちゅうされてね?

    えっ?こーゆー意味って子供への親愛みたいな感じってことかぁ?何?俺って子供扱いされてたんかぁ?

     

    「冥?」

    「もーおー!本当に分かってないでしょ!」

     

    上を向いた俺の顔を見て更に怒った顔になりやがった。

    どうしたもんかと困っていると、顎の下を持ち上げてきて、唇に!?

     

    「分かってますか!?」

     

    何?冥って恋愛的な意味で好き好き言ってたんかぁ?

    うっそだろぉ

     

    「ははっやっと伝わりましたね。顔が真っ赤ですね」

    「ひょっ」

    「ヒロさん可愛いなぁ」

     

    ちゅっちゅっと頬や鼻の頭や額にキスされてるよな?

    マジで?

    でも、今は悲鳴嶼さんも結婚して子供も持てる。

    俺と関係は築くべきじゃないと思う。

    それに、正直今ですら悲鳴嶼さんと比べちまうんだから、多分俺はもっともっと比べちまうことになるのが分かる。

    これは答えては駄目な告白だ。

     

    「冥、俺も冥が好きだが、俺の好きはそういう好きじゃねぇ。」

    「ヒロさん顔に出過ぎですよ。嘘つき」

     

    ちゅっちゅっと昔みたいだ。

    両手で頬を包んで上を向かせて悲鳴嶼さんはキスしてくれた。

    俺は表現が下手くそで、口からも暴言みたいな言葉ばっかり出てたのに、それでも包み込まれた顔の皮膚の緩み具合からすぐにバレて、キスしながらも悲鳴嶼さんがクスクス楽しそうに笑って俺がプリプリ怒るんだ。

     

    「なぁ冥。俺はお前をずっと前に亡くしちまった人を重ねてる。だからお前が辛くなるから、お前はきちんと嫁さんもらって子供に囲まれなきゃいけねぇよ」

     

    なっと迫ってくる唇と自分の間に掌を差し入れると不満そうな顔だ。

    不満そうな顔が昔と似てて胸がキュンとする。

     

    「嫌です。ヒロさんが良い。傷付いても良いから、俺と居てくれませんか」

    「駄目、俺、冥や玄の子供抱っこしてぇもん」

    「でも俺、ヒロさんが好きだから、ヒロさん以外今見えません。」

     

    ぎゅむぎゅむと抱き締めてくる容赦の無い力と体重のかけっぷりに悲鳴嶼さんを思い出してしまって、さっき伝えたばっかなのにまた比べてしまう。昔と違って力が弱いとか考えちまう。

     

    「多分付き合ったら比べられて幻滅するし、嫌いになると思うぞぉ」

    「そうなるか何て分からないじゃないですか!」

    「いや、なるね。俺だったら知らんやつと比べられるなんて絶対ぇ嫌だしぃ」

    「なりませんって言っても信じてくれないなら、三ヶ月だけ付き合ってください!信じてくれないなら信じさせます!」

     

    めげねぇなぁ。

    まぁ、三ヶ月だけ付き合って、嫌われるしかねぇかぁ。

    コイツがしつこいの良く分かってるし。

     

    「はぁ~、三ヶ月だけ、ダメだったらちゃんと他に目を向けろよ」

    「うっ!嬉しいです」

    「ぐぇっ!!」

     

    仕方ねぇから、積極的に比べていくかぁ

    力の限り抱き締められて足が浮いているが笑顔が悲鳴嶼さんの猫に向ける笑顔に似てて俺糞弱だわ。

    無理可愛い。

     

    正直この時に戻れるのなら、俺は過去の俺にもっとしっかり考えて断るように伝えてやりたい。

     

    その目の前の無害そうな男は、鬼殺隊最強の転生で計画を立てるにしても宇髄と同じくらいエグい作戦を立てた人間だぞと…

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