使命と願いと 早朝の空気はまだ肌寒く、彼女は後ろ手に扉を閉めるとぶるりと震えた。
花は綻びだしたが、陽のない時間は外套なしでは心許ない。羽織った外套の前を掻き合わせ、足早にその場を離れる。
母が大切に育てている花は、あと半月もすれば花を咲かせるだろう。柔らかく花壇を飾る様々な色を暖かな日差しの中眺めるのが毎年の楽しみだったが、今年はきっとその機会はやってこない。
(ううん。今年は、じゃなくて……たぶんもう、ずっと)
東の空が昇り来る太陽の光を受けて赤々と燃えるような色を帯びていた。もう少し陽が昇れば、早起きな隣の老人が朝の散歩に出てきてしまう。それまでには町を出なければならなかった。
急がなくては。それでも名残惜しさは振り払えなくて、彼女は何度も振り返った。
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