月に叢雲花に風かぐや姫のようだと言われる聡実くんのはなし。
まるで密やかな逢い引きのようだと思った。
バイトの前の十分、学校が始まる前の十分、休みの日は日曜の夕方に十分、それだけ。
それだけしか、彼に会うことは出来ない。
バイトの後はすぐ寝たいんで、学校の後はバイトなんで、休みの日は予定があるんで。
つれなく、すげなく、でもそのひんやりとした上辺を剥いだら、そこには生身の彼がいるのだろう。
「君はまるで、かぐや姫……みたいだなって」
「は」
ぽかんと口を開いた彼が、すぐに眉間に皺を寄せる。
「……随分と、お綺麗なものに例えてくれるんですね」
どいつもこいつも。と続けたその声は小さく、だが確かに聞こえた。
「なんで、僕が指定の日時しかお会いしなかったか教えてあげましょうか」
1379