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    しんや

    @ahiruyellow39ks

    @ahiruyellow39ks
    余裕で20↑
    🎤!沼に落ちまして…
    文の供養メイン

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    しんや

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    Twitterから再掲
    供養なので、切ったとこも入れてます。
    付き合ってない狂聡。
    鍋を食べて、アルコール誤飲する狂児のお話。
    付き合ってないけど、わりと甘い、はずです。

    #狂聡
    madGenius

    自室のドアを開けると、顔の強いおっさんのヤクザが、エプロンをつけて鼻歌を歌いながら白菜を刻んでいた。
    (うわぁ、帰ってしょっぱなから、情報量多すぎや…)
    「おっ、聡実くんお帰り~。バイトお疲れさんやね。もうちょいで鍋できるから、手ぇ洗っといで」
    狂児がいるのは、今日鍋をしようと連絡が来ていたので分かっていた。
    廊下まで出汁のいい匂いがしてきたから、ああ、作っているのだのとも分かっていたのに、実際に目にすると、いつも思考がフリーズする。
    ついでに、捲られたワイシャツの袖口から、『聡実』の文字が覗いているのにも慣れなくて、聡実はそっと目をそらした。
    ただいまと返事をしたらいいのか一瞬迷って、手ぇ洗ってきますとだけ言って、バスルームへ入った。
    (たまにしか見んから、慣れんわ…)
    料理をする狂児も、『聡実』も。そんなもの慣れなくてもいい気もするが。
    洗面台でザーッと手を洗っていると、狂児の鼻歌が再開されていた。
    (珍しい…、洋楽や)
    古い曲だがTVなどで度々使われており、聡実でも知っていた。
    低い声で柔らかく歌われるそれは、耳に心地よい。
    (鼻歌の方がずっと上手いで…)
    狂児が聞けばショックを受けそうなことを思い浮かべながら、バスルームから出る。
    「狂児さん、洋楽歌えたんですね。」
    「んー、なんやこれだけは覚えとってな。TVでよぉ流れとったやん。言うてもサビだけしか覚えてへんけど。」
    他はほんまの鼻歌やと、ふんふんとリズムに合わせて白菜を刻む。
    聡実はなんとなく、それを見つめてしまった。
    いつもの薄ら笑いとは違って、本当に楽しげなのが、ヤクザを主張する眼の険を和らげている。
    少し緩めにセットされた髪が、形の良い額にかかって、そこからすっと鼻筋が通り、男らしい顎のラインに続く。
    (顔立ちはええんよな、この人)
    正面で対峙すると圧が強すぎて避けたくなるが、横から見る分には割合素直にそう思える。
    背も高く、体格だっていい。ひょろりとした自分の腕と比べると、包丁を持つ腕の太さが、多少うらやましくはある。『聡実』はどうかと思うが。
    客観的に見て、こんな色男がいい声で洋楽を口ずさんでいるのは、様になりすぎていて
    (かっこよすぎて腹立つな。いや、かっこいい…?ほんまにか、狂児やぞ…?)
    エプロンつけて料理をしている珍妙なヤクザだと、さっき思ったばかりなのに、見ていると変な思考に入り込みそうで、聡実はそそくさと荷物を片付けに向かった。
     
     
    狂児は、大体にして動きが荒い。
    声は大きいし、足音も大きく、飲み物のカップはガツンと音を立てて置く。
    料理も例に漏れず、雑だった。
    初めて聡実の部屋で料理を作った時も、ざくざくと大雑把に切られる野菜に、一体何を食べさせられるのだろうと生きた心地がしなかったが、出来上がった炒め物と味噌汁は、不思議と美味しかった。
    狭いキッチンだから、がつがつ色んなところにぶつかって、これ置くとこあれへんどないしよーとかうるさいことはうるさいが、散らかり過ぎて困ることも無いので(それも謎だが)こうして作ると言ってくれた時は任せている。
    (ほんまに、なんであれでこないに美味いんか…わからん)
    出来上がった鍋を一口啜って、聡実はつい、難しい顔をしてしまった。
    「聡実くんどやった?美味ない?」
    ローテーブルの向い、湯気を立てている鍋を挟んで、狂児が尋ねてきた。
    聡実の表情を見て、幾分不安げだ。
    「いや、美味しいです。ほんまに。なんでこないに美味しいんかなって考えてしもただけで。」
    「そらよかった!箸止まったから焦ったわー!」
    口にあったんなら良かった良かったと、あからさまにほっとしている狂児は、それからにやっと口角を上げて、
    「そんな悩んで、聡実くんも何か作ってくれるん?隠し味教えよか?」
    面倒な事になる前に、聡実はスパッと釘をさす。
    「作るわけないやないですか」
    「え~」
    「そうやなくて、作っとるとこはめっちゃ雑やのに、出てくるもん美味いから、謎やなって」
    「そっちかい」
    身も蓋もない言い方に、狂児はガクッと肩を落とした。
    「まぁ、雑なんは性分やからなぁ…」
    でしょうねとは思ったが、さすがにそれは口に出さなかった。
    鶏もも肉がほろほろと口の中で崩れて、じんわり旨みが広がる。
    「狂児さん、家でも料理しはるんですか?」
    聡実は雑で悪いと言ったつもりは無かったが、狂児は思ったよりしょげながら、自分の器に鍋をよそい始めた。
    たっぷりと入れられた白菜が、しっかり出汁をとった汁を吸って、噛む度に聡実口の中が満たされる。
    「いや、家ではせんなぁ。ほとんど寝に帰るだけやし」
    そんな気はしていたけれど、
    (せやったら何で上手いねん、なめとんのか)
    と言う気持ちが顔から漏れ出ていたのか、狂児が訂正してくる。
    「いや、最近は作らんけど昔はな、組入りたての時分は作っとったで。住込みやから、人の分まで」
    ほとんどその頃に覚えたんよと言った狂児は、聡実の器を覗き込んで
    「聡実くん魚も美味いで。ほれ、よそったるよ」
    タイミングよくおかわりをついでくれる。
    甲斐甲斐しい。
    そういえばこの人、ヒモやったなと思い出す。
    「ヒモやっとった時は、料理しはらんかったんです?」
    狂児は、ちょっと目を丸くして
    「してへんしてへん、俺そういうヒモや無かったから」
    (そういうヒモやなかったら、どういうヒモやねん)
    思ったけれど口に出すと面倒そうで、心の中だけでつっこんで、へぇと相槌をうつ。
    魚は本当に美味しかった。白身で淡白かと思いきや、しっかり脂がのって味わい深い。
    「せやから、誰かの為に飯作るんは、聡実くんが初めてよ」
    狂児の気分はいつの間にか浮上したようで、片手で頬杖をついて、柔らかい表情で聡実を見つめていた。
    会話の間も、止まらなかった聡実の箸が、止まる。
    (そういう小っ恥ずかしい事を、さらっと言わんで…)
    反応に困って、顔が熱くなる。赤くなっているかもしれない。見られたく無くて、俯く。
    「組で作っとった、言うてたやん」
    「あれはお仕事やもーん。せや無かったら、こんな手間かかることせんわ」
    あっ、聡実くんには好きでやっとるんやで!と、力説してくる狂児。
    「聡実くんがそやって食うてくれるの見てたら、最近は作るんも楽しなってきてなぁ、たまに若いのに習っとるんやで」
    「は?」
    「今料理上手いやつおって、組の台所で作っとるとこ押しかけて、教えてもろてるの」
    「それは…、かわいそうに…」
    つい、本音が漏れてしまった。
    「ちゃーんと優しゅうお願いしとるし、お礼もしとるって」
    (そういう問題やないやろ…)
    こんなデカくて圧の強い兄貴分に、台所で背後に立たれるだけでも嫌だ。
    猫なで声で、それどうやっとんの教えて~なんて言われた日には、逃げ出したくなる。無理だが。
    (ま、知らん人のことやし、案外喜んどるかもしれんしな。知らんけど)
    美味そうなの習ったら、また聡実くんに作ったるねと言う狂児を後目に、聡実は食事に専念しようとした。
    (昔作っとった…か)
    つい、考えてしまう。
    自分だって今は自炊をしているが、高々1年半、それも、自分が食べるだけだから大した物は作れず、さほど上達もしていない。
    目の前の今は大人しく鍋をつついている男は、多分それよりは長く、真面目に料理していたのだろう。
    (僕かて、作ったってもええねんけど…)
    外食する時は否応無しに奢られているから、家で食べる時くらいはと思うが、美味くない物を出されても困るだろうなと、ブレーキがかかる。
    (料理も追いつけへん)
    こうしてたまに経験の差を感じると、生きている時間が25年も違うのだと突きつけられるようで、それが、寂しいような、悔しいような。
    競うつもりはないが、何かしら近づきたい、並びたい。
    子供扱いで腹が立つほど子供では無くなったが、狂児にとって自分はまだまだ子供かと思うと、密かに凹むことはある。
    (おっさんやのに、体力すら勝てん気ぃするしな)
    それどころか狂児が老年に差し掛かっても、体力は勝てない気がする。
    (そこは別にええねんけど)
    とりあえず料理くらいは、いざと言う時作れるように、真面目にやってみると決めて、鍋の具をさらえた。
    「お、綺麗に食うてくれたなぁ。そしたら雑炊作るヨ」
    (朝食がハードル低いけど、狂児泊まらんしなぁ)
    鍋を持ってコンロへ向かう後ろ姿を見ながら、そんなことを思った。

    〆の雑炊まで食べ終えて、聡実は鍋や食器を洗っていた。
    狂児は手伝いたがったが、狭いからと断ったので、大人しくテレビを見ている。
    「聡実くん、もう茶ぁのうなったけど、そっちまだある?」
    「無かった気ぃしますけど、冷蔵庫見てください」
    手に泡がついていて、確認出来ない。
    よっこらしょとやってきた狂児は、隣に並んで冷蔵庫を開ける。
    「うーん、茶はあらへんね。可愛らしい缶がなんぼかあるけど、これ酒か?あかんで聡実くん、まだ19やろ?」
    「ちゃいますよ、それノンアル。友達と鍋やった時の残りや」
    未だに、そういう事に関しては狂児は細かい。空港で再会した時に、それ以前とは互いの関係は少し変わったような気がしたけれど、14の時と変わらぬ扱いに、やっぱりよく分からなくなる。
    「ほーん、ほんまや。ファジーネーブルやて、最近は可愛いらしいもんがあるんやね」
    「僕は茶で良かったんやけど、友達が気ぃきかせて買うて来たん。もう飲まへんし、冷蔵庫空けたいし、気になるんやったら狂児さん飲んで。その間に茶作るから」
    「在庫整理かい。まぁ、いらん言うならちょこっと飲んでみよかな」
    どーれーにしようかなと、缶を選んだ狂児は、その場で開けて飲み始めた。
    「ん、最近のノンアルて、ほんまに酒の匂いする?よーできとるな」
    聡実は洗い終わった食器を拭きながら、あれと思った。自分が飲んだ時は、アルコールの匂いは全く感じなかった。
    (でも、ノンアルしか残ってへんかったと思うんやけど…)
    「狂児さん、それ何味?」
    「うん?なんたらゼロいう桃味のやつ」
    「っ、それ酒や!」
    「ほんま!?ゼロて書いてるやん!」
    「アルコールゼロやのうて、糖質ゼロ!」
    「うわぁ、やらかした」
    そう言うそばから、狂児の顔はほんのり赤くなってきていた。
    「狂児さん、顔赤いで。平気?」
    目も心なしかとろりとしてきている。
    「うん、平気やけど、これは、酔いはじめとるわ」
    答える声はしっかりしていたが、平気はまるで信じられない。下戸だとは聞いているが、どの程度飲めないのか。
    「とりあえずあっちで座っとって。水持ってくから」
    「ごめんなぁ。吐きはせんから、洗面器はいらんヨ」
    それは冗談なのか、判別付け難いことを言わないで欲しい。
    水を、大きめのグラスに並々注いで持っていくと、狂児はテーブルに寄りかかっていた。
    ありがとうと、水を半分ほど飲む。
    「ほんまに、下戸やけど、この位は平気やで。ただなぁ、こうやって顔めっちゃ赤くなるねん。あと、死ぬほど眠なる」
    せっかく聡実くんちおるのにやってもーた、寝たないー、車どないしよーと、もごもご言いながら、狂児の上半身はテーブルの方に傾いていく。
    「とりあえずちょっと寝たらどうです?酒抜けたらおきたらええやん」
    「えー、起きれる自信あらへんからいややー。もっとお話しよー」
    ついに狂児は、テーブルの上に突っ伏しながら、頭をゆるゆる振り始めた。
    「ぐだぐだやのに、何話すん。おっさんが駄々こねんといて」
    それがあんまり子供みたいで、つい聡実は、狂児の頭に手を乗せていた。
    頭の動きが止まって、テーブルに頬を付けたままの狂児が、ひたと聡実を見つめてくる。
    「あー、聡実くんが、頭ぽんぽんしてくれるんなら、寝てもええかも」
    にやっと笑うその顔に、なんやわりと余裕あるやんと、わざとぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜてやった。
    ぐしゃぐしゃにされながら、狂児はくつくつと笑っている。
    整髪料の着いた髪は、表面はばしばしとして硬いが、内側は割合柔らかく、大型犬はこんな感じだろうかと思った。
    「なんや、犬にでもなった気分や」
    「僕は犬撫でとる気分です」
    「同しこと思ってたん?運命やなー」
    「犬が何か言うとるわ」
    「ひっどー」
    機嫌よく肩を震わせ続ける狂児の髪はすっかり乱れて、顔を覆っていた。
    聡美はやめ時がわからず、だらだらと髪を梳いている。
    「聡実くんの手、気持ちええな」
    ああまた、すこしトーンの違うこの声で言われると、何と返事をしていいかわからなくなる。
    どうしたものかと考えていると、すっと、耳に届く呼吸音が変わる。
    「え…寝たん?」
    返事は無い。
    顔にかかる髪を掻き分けると、確かに瞼は閉じていた。
    すうすうと安らかに、背中が上下する。
    「狂児さん、ほんまに眠かったんか…」
    何故か、狂児は寝ないだろうなと思っていた。
    眠い眠いと言いながらも、途中からはしっかり会話していたし、このままぐだぐだして、そのうちタクシーで帰るのだろうと。
    「寝顔…初めて見たわ」
    そういえば見たことが無かったと思い出す。
    だから、『狂児は寝ない』と刷り込まれていたのか。
    カラオケで聡実が船を漕ぐことはあっても、狂児はずっと歌って、話していた。
    家に来るようになってからも、どんなに遅くなっても、
    『こっちで寝るとこあるから、気ぃ遣わんでええよ。デカいおっさんおったら、聡実くんちゃんと寝れへんやろ』
    と、泊まりはしなかった。
    初めは客用布団でも置こうかと考えいた聡実だが、場所も無いし、泊まらないしで、すっかり辞めてしまった。
    その狂児が寝ている。
    どうにも不思議な気持ちだった。
    「狂児さんも、寝るんやな」
    当たり前だけど。
    顔が強い強いとは思っていたが、大部分は眼力だったようで、それが閉じている今、随分と安らかに見える。
    普段から若くは見えるが、髪を下ろした寝顔は、10は鯖を読めそうだった。
    歳を重ねて立派な色男に育っているが、元々の造作は多分母親似なのだろう。眉以外は繊細なつくりをしている。
    案外可愛らしいな。
    思ってしまって、直ぐに、これはあかんやつやと思い直す。
    普段とのギャップに、びっくりしとるだけや。ほんまに可愛いわけやない。40越えたおっさんやから。
    自分に言い聞かせてみるが、なかなか治まらない。
    さっき犬扱いしていた名残なのか、また、髪だけじゃなく顔も、くしゃくしゃに撫でてみたくてうずうずしだす始末だ。
    なんやねんこれ、おかしいわ。
    どうにもし難い感情を振り切るように、勢いよく立ち上がる。
    「あー、もう、あかん。風呂入ろ」
    風呂に入って、すっきりしたら、治まるだろう。
    その頃には狂児も起きているかもしれない。
    すやすやと寝こける狂児を隠すように、ベッドから布団を引っ張り下ろしてかけた。

    聡実がざっとシャワーを浴びて出てくると、果たしてローテーブルにくっついた布団の塊は、そのままだった。
    (こないに起きへんと思わんかったな。)
    半分くらいはもう起きているのではないかと思っていたが、まだ眠りは深いようだ。
    ヤクザがこんなに寝こけて大丈夫だろうか。いや、多分大丈夫ではないから、今まで聡実の前で一睡もしていなかったのだろうが。
    「僕んちやからええけど…。」
    さてどうしたものか。
    狂児は起こせと言っていた。
    言っていたが、どうせもう大阪に帰る終電は無いのだ。こっちに泊まるなら、このまま聡実の部屋に居ても問題ないはずだ。
    それはほんの出来心だった。
    狂児を泊まらせたら、明日どんな顔をするだろうか、見てみたい。
    『でかいオッサンおったら、聡実くんちゃんと寝れへんやろ』と、何時になろうとも帰ってしまう狂児だが、いくら聡実の部屋が狭くとも、もう一組布団を敷く位のスペースはあるのだ。
    (布団買うてきて置けばええねん)
    敵対勢力とやらに寝込みを襲われる心配があるわけでもない。
    (そんならそもそも僕の部屋にこんやろ)
    嘘では無いが、全部は告げられない理由を、今まで問い詰めないで来た。
    なんかあるんやな。でも、話さんなら聞かれたくないんやろう。じゃあそれでいいという事にしてきた。
    無理に泊まるように勧めるのも変な気がして、最近は帰るのが当たり前になっていた。
    あっさりと帰っていく狂児。
    けれど、別れ際、チラとも寂しいとは思わないのか?
    もう数時間でも、一緒にいたいとは、思わないのか?
    「そう思とるんは僕だけか?」
    起きている時には、絶対に聞けないことを問いかける。
    気にしないように、丁寧に撫で付けていたささくれが浮き上がってくるようだ。
    「やってることちぐはぐやねん」
    触れてくる指先、見つめる眼差し、呼ぶ声音、端々から感じる好意が、素直に表せないが嬉しかった。聡実だって、それを受け止めて、返したいと思う。
    けれど、ふとしたところで、踏み込ませない線を感じて、躊躇する。
    「僕んこと、どう思とるん?」
    さも『おともだち』みたいに、彼女できた?なんて聞かれることもある。
    しれっと聞いてきよって、僕かてそのうち彼女くらい出来るわ。でも、お前はええんか、ほんとにええんか。
    いいと思っているなら、あんな目で見つめてこなければいい。
    そうすれば、聡実だって、女の子といい雰囲気になる度、狂児の顔を思い出さないで済む。
    こんなに心を波立たせないで済むかもしれない。
    「僕の察しが悪いんか?どうせ大人とちゃうから、どう思とるなんて、はっきり言われんとわからんわ」
    好きになってええの?あかんの?どっちやねん。
    だんだん腹が立ってくるとともに、この距離感が、心地よいと、このままでいいのだと思い込んでいたけれど、案外そうでもなくて、色んなものに蓋をしていたんだなと冷静な自分が思う。
    ただもう、ここから動けんだけやないか。進むんも決められん。離れることも出来ん。
    「とりあえず、ベッドぶち込んだろう」
    寝こけているヤクザをベッドにぶち込んで、布団は一組しか無いから、添い寝をしてやる。
    朝起きて、『狂児さんおっても、よぉ寝れましたけど』と言ってやったらどんな顔をするのか。
    いつもと変わらないかもしれない。へらへらと笑って、流されるかもしれない。
    (ちっちゃい意趣返しやなぁ)
    小さすぎて、その位しか出来ないのにも腹が立つが、とにかく何でも、狂児の決めたラインを越えてやりたかった。
    「ここで起きられたら、ぱあなんやけど」
    そっと布団を剥ぐと、未だ呼吸は安らかだった。アルコールの力なのか、さすがに疲れもあるのか。
    ベッドは狂児のすぐ背中側にある。持ち上げて方向を変えるだけなので、なんとか聡実でも出来るだろう。
    服も部屋着に着替えさせているので、シワになろうとも気兼ねしなくていい。
    そっと近づいて脇の下に肩を当て、腕を自分の首に回させる。
    腕をとった手と反対の手を腰に回すと、嫌でも身体の厚みを感じさせられた。贅肉の無い、硬い筋肉の厚みだ。
    腕と腰を掴んで立ちあがると、想像以上の重量が身体にかかってきた。
    (おっもっ…!何入っとるん!?)
    筋肉は重いというのを実感させられ過ぎる重さに、たまに聡実に体重をかけてくるのなんて、本当に手加減されていたと思う。
    なんとか立ちあがって、そのままばったりと上半身をベッドに乗せ、残った長い脚を押し上げる。
    起こさないようになんて余裕は全く無かったが、幸い眠りは覚めていないようだ。
    「ほんま…、大丈夫かこのひと」
    反対に心配になるが、寝ているならそれでいいと思う事にして、布団を掛ける。
    「あっ!米!」
    バタバタと米を洗い、明日の朝に炊けるよう、タイマーをセットする。
    電気を消して、狂児を避けながらベッドの隙間に入りこんだところで、聡実はふと我に返った。
    何やっとるんや僕は。
    わざわざオッサンをベッドに引っ張りこんで添い寝して。
    客観的に見ると、だいぶおかしい。
    しかし、そもそもの関係が既によくわからないのだから、客観的に見ても仕方ない。
    僕ら、ほんまにな何なんやろう。
    間近で感じる狂児の存在は、予想通りと言うべきか、案外と言うべきか、落ち着くものだった。
    だいぶ薄れているが、慣れた香水の香りに、ヒトの匂い。
    直接触れていなくても伝わる熱。
    逆に触れた所は少し緊張するので、背中合わせにすれば良かったなと思った。そんな余裕も無かったので、狂児は聡実の方を向いて横になっている。
    聡実はあまりくっつかないように、狂児と逆を向いて横向きで寝る事にした。
    耳のすぐ側で寝息が聴こえるのがくすぐったいが、背中は暖かい。
    これから安眠して、朝、『よぉ寝れました』と言ってやらなければいけないのだ。
    ああ、ぬくいし、きょうじの匂い、ええな。
    きょうじ、あしたまだ、おるかな。
    おにぎり、つくってやらな。
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