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    玖堂らいか@SD再燃中

    ダイ大やスラダン絵を気の向くままに。顔ありの三井夢主がいます!

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    三井夢・長編連載 第5話 バスケ部襲撃事件の話です。お待たせしました。やっと三井が出てきますよ!(そりゃそうだ)

    #長編夢小説
    #夢小説
    dreamNovel
    #三井夢
    #SD夢

    第5話第5話
     
    「扉を閉めろ!カーテンも全部だ!」
    普段穏やかに話す副部長・木暮の焦るその大きな声とともに、✿は体育館を飛び出した。
    (私じゃだめだ、私だけじゃあいつらは、三井は止められない。)
    「助けて、赤木君…!」
    (もうそろそろ課外事業が終わるはず。大事にはしちゃいけないけど、それでも…!)
     
    一段飛ばしに階段を駆け上がる。3階に着くとさらにスピードを上げ、理科実験室へ駆ける。一つ手前の教室で、授業終了のチャイムが鳴った。
    「さて、部活にいくとするか…。」
    準備室を出て、廊下を曲がると、赤木の前に✿が息切らして待っていた。
    「はぁっ、はぁっ…はっ……。」
    「✿?どうした」
    ✿は泣きそうな顔をして、赤木に懇願した。
    「赤木君、助けて…!三井が…バスケ部に…!」
    “三井が、バスケ部に” それでおおよそ何が起こったか、想像ができないほど赤木は愚鈍ではない。
    「三井が…!」
    2人で階段を駆け降りる。
    「どんな状況だった?」
    「不良仲間を連れてた…全部で10人くらい、制服じゃない外の奴らもいると思う。はっきり言ったの。バスケ部をぶっ壊しに来た、って。それで、宮城君や流川君が…殴られて…。」
    「くそっ、何だってこんな時に!」
    「…多分、三井はこんな時、だからなんだと思う。」
    その「こんな時」の意味を赤木も、✿もわかっていた。
    県大会初戦まであと10日、そこで問題を起こせば、学校側の判断でよくて活動停止、最悪は廃部。高校総体出場など夢幻と消える。
    (本気なのか…三井…。)
    走るスピードを少し落とし、赤木は✿のほうを見た。
    「…✿。」
    「わかってる、先生には言ってない。ただ、そのうち来るかもしれないけど、木暮君が体育館を閉鎖して時間を稼いでるはずなの。そのタイミングで飛び出してきたから、それ以降のことはわからないけれど。」
    言いながら、✿の走るペースは落ち、1階の校舎から部室棟への渡り廊下の前で止まった。
    「ごめん、赤木君。」
    うつむきながら、ぽつりと✿がつぶやき、赤木の足もとまる。
    「何を謝ることがあるんだ、✿。」
    「いや、その…三井は一応私、友達だった…から。あいつを、止められなくて、ごめんなさい。」
    「何を言っているんだ、✿」
    「えっ?」
    「責任の所在をはき違えるな。これは三井の起こしたことだ。あいつ自身の行動だ。お前が三井の友達だろうが何だろうが、あいつがしたことの責任はお前にはねぇよ。ましてや、お前にあいつを止める義務なんてありゃしねぇんだ。」
    「赤木君…。」
    「宮城の件でもそうだったが、何でも自分のせいだとか、自分がどうにかしてればとか思うのはよくない癖だぞ✿。その思考は行き止まりで、誰も救われない。」
    「何それ。わかったようなこと言うんだね。」
    まるで賢者か仙人のような赤木の言いっぷりが面白かったのか、✿はくすっとわらった。
    「……まぁ、経験者はナントカ、ってやつだ。」
    (赤木君も、宮城君のことで自分を責めていたんだよね…怖そうに見えても、仲間思いで、責任感強い人だものね。)

    「あともう一つ。これはお前に関することだが。」
    「何?」
    「その右のこめかみとほおの傷はどうした?昨日の朝にはそんなもの無かったよな。」
    昨日、三井とのやり取りの中で負った怪我は、翌日に治るわけもなく、大きなガーゼがテープで固定されている。
    殴られた左の頬は、ガーゼからどす黒いあざがのぞいている。
    「これ、は、」
    「まさかそれも…」
    ✿は軽く下唇を噛むと、いつものようににこりと笑うことが出来た。
    「ううん違うよ、昨日の夕方ね、私が天窓を閉める時に机から転んで落ちて、怪我したの。ドジっちゃった。」
    「……そうだったのか。疑ってすまないな。」
    納得したのかそうでないのか、その表情からはわからないまま、赤木はスポーツバッグを担ぎなおし、✿に背を向けた。
    「✿、ここからはもう帰っていい。あとは俺が何とかする。心配するな、うまく収める。俺もそれなりに修羅場は潜ってるつもりだ。それに、これ以上お前に何かあったら、流石に黒河に申し訳が立たないしな。」
    「!…わかった。」
    赤木は✿が自分の不注意でおった怪我が、彼女が所属する剣道部の主将に「申し訳が立たない」と口にした。
    (きっと…勘づいては、いるんだよね。)
    「その傷、早く治ると良いな。」
    「あ、ありがと。」
    渡り廊下を走っていく赤木が、部室棟へ入っていくまで✿は見送っていた。
    そして部室に向かう赤木は、ぎりっと奥歯を噛み締めると、床をにらみながら苦々しく吐き捨てた。
    「……あの、大馬鹿野郎!」
     
    ハラハラしながら1階の空き教室から、体育館に向かう通路が見えるところに陣取る。
    赤木が体育館に向かい、30分ほどだっただろうか、
    「安西先生…!」
    いつものゆったりした足取りで体育館に向かうものの、物々しい雰囲気に気づいたのか、首を傾げ、体育教師たちと何やら話している。

    ✿は弾かれたように立ち上がり、ふたたび走っていった。
    体育館前にたどり着くと、その扉は開かれて、安西先生がゆっくりと中へ入っていくのが見えた。
    ✿も駆け寄って、中を見渡すと、凄惨な現場が広がっていた。ただ、✿が飛び出す前と違うのは、乗り込んできた不良たちがあるものは血まみれで倒れ、あるものは白目を剥いて伸び、あるものは腰を抜かしていた。
    (どういうこと…一体、あの後何が…。)
    血塗れの桜木、宮城、流川、他の部員も殴られた跡がある。
    次の瞬間、体育教師の怒号が飛んできた。
    「お前達!これは一体どういうことなんだ!たたじゃすまさんぞ!!」
    主犯の三井は、安西先生の足元でうずくまり、動かない。

    膠着した沈黙の中、口火を切ったのは、✿と入れ違いで駆けつけたのだろう、桜木軍団の水戸洋平だった。そして、その口から✿の思いもよらない言葉が飛び出した。
    「…俺たちが、やりました。」
    (えっ…?)
    水戸の発言にその真意を測りかね、✿は眉根を寄せた。
    「…三井君がオレたちのグループを抜けて、バスケ部に戻るなんて言うから、ちょっと頭きて…やっちまいました。バスケ部も、三井君も。…スイマセン。」
    続く言葉に目を丸くした。部員たちも小さく息を呑んだ。
    (ちょっと待って、どういうこと?)
    昨日の病院での話から考えると、水戸は三井が✿を殴ったことは顔を見たとか容姿からとか、何らかの心当たりがあったのだろう。だからこそお礼参りの話を✿に持ちかけたのだ。
    それを今、彼は三井を庇うという。おそらくここで明かされたのであろう、バスケ部員である三井の過去を知った上で。
    もし主犯が三井だと断定されたら。先ほど赤木と✿が危惧したとおりになる。
    すると、三井の取り巻きとして乗り込んできた堀田徳男がその自白に続いた。
    「…そうです。俺たちがやりました。」
    体育教師は、桜木軍団と、堀田、三井、そしてバスケ部員たちを見まわし、はぁとため息をついた。
    「わかった、まずは部員の手当てが先だ。怪我が軽い木暮と赤木は先に話を聞く。すみませんが、安西先生もお願いします。水戸洋平、堀田徳男。お前達主犯は指導室だ。仲間も全員だ。逃げるなよ。」
    「…はい。」
    ✿は堀田のその言葉に、頭を起こした三井の瞳が不安げに揺れ、涙がこぼれるのを見た。
    (三井…。)
    そして、教師達に従ってついていく瞬間、赤木、そして木暮が振り返り、扉の前で立ちつくす✿を見た。

    『………頼む。どうか、三井を。』
    2人の目が語っていた。
    その意図をくみ取れず、✿は動揺した。
    (私に?三井を庇えと?どうして?私が守りたいのは、守りたかったのは、三井じゃなくて…)
    密室だった体育館の中、三井が何をして、みんなが傷ついたことは見ればわかる。ただ、✿が赤木を呼びに行った後、どんなやりとりがあり、そして幕引きがあったのかはわからなかった。✿が最後に見たのは、本気でバスケ部を潰すつもりで殴りかかる不良たちの姿だった。
    部員たちの介抱ではなく、真っ先に三井を介抱する✿は、傷ついた部員たちの目にはどう映るだろう。部の応援にも顔を出し、時には女子バスケット部として体育館の端を使っているような自分が。裏切者、とでも思われるだろうか。それとも、✿が三井達を手引きしたとでも思うだろうか。

    昨日の夕暮れを思い出す。
    ✿を殴った瞬間に見せた、三井の今にも泣きそうな、後悔の色が混ざった顔。

    『三井君が、バスケ部へ戻りたいっていうから……』
    (その言葉、信じていいんだよね?水戸君…!)
    ✿は体育館へ一歩踏み出すと、うずくまったままの三井の前にしゃがみ込み、手を差し伸べた。

    「…立てる?」
    「……え…✿…?」
    震える声で✿の名を呼ぶ三井は明らかに動揺している。それでももはや迷いなくまっすぐに差し出された✿の手を、しっかりと三井は掴んだ。
     
    「おい、三井もこっちだ。」

    場を指揮していた体育教師の話を無視し、✿は伸ばされた三井の手を取り、そのままくるりと半回転し、右腕を肩に担ぐ。見かけ細身ではあるが、180センチを越えるだろう三井を支えるためにどうにか両足を踏ん張って立ち上がる。
    「おい、聞いているのか!」
    意にそぐわない振る舞いをする✿を怒鳴りつける体育教諭に✿はチッと舌打ちすると振り返り、半目で睨み返した。
    「…先生こそ、水戸君の話を聞いていたでしょう。私も見ていましたから、彼の話は本当です。すみませんが、三井君がこの中で1番重症なんです。部室の備品じゃ足りないでしょう。指導室より先に、私が一旦保健室に連れて行きます。構いませんね?」
    今はせめて、三井と向き合う時間が欲しかった。

    正直、葛藤がないと言えば嘘になる。
    仮に昨日の三井とのやりとりは痛み分けだとしても、✿にも女子バスケット部の部長という立場と、これまでに培った男バス部員たちとの友好な関係は大事なものだった。
    赤木と木暮にあんなふうに懇願するような目を向けられなければ、自分も迷わず部員たちの怪我の手当てに向かったはずだ。
    だとしても、だ。
    (この役回りは、きっと私にしかできないはずなんだ。)
    「三井君は逃げも隠れもしません。彼はそう言う男ですから。…尋問はその後にしてもらえますか。」
    教師からの是非を聞かずに今度こそ背を向ける。

    「歩けるね?行こう」
    「いい、1人で…いける…。」
    「うるさい」
    三井にしか聞こえないボリュームだったけれど、✿の口からは思っていたよりドスの聞いた声が出ていた。
    「でも、徳男が…水戸も…」
    「黙って。水戸くんたちが、誰の何を庇ったのか、わかんないほどバカじゃないでしょ、あんた。」
    隣ではっ、と息を呑む音がする。
    ふーっ、と大きく息を吐き、✿は三井を担いで歩き出した。
    ここ数日の行動の何もかもが、自分らしくなく酷く場当たり的で、気まぐれでチグハグで、なんだかもう自分でもおかしくなってくる。
    (まったく私は…何やってるんだろうなぁ…。)
     
    土曜だからか、昨日と違い、養護教諭は留守にしていた。
    これ幸いととりあえず、✿は昨日自分が運び込まれた、ジャバラのパーテーション奥のベッドまで引き摺るように連れて行き、三井を座らせる。
    「ここにいて。」
    カーテンを閉めて、あちこち戸棚を開けながら、水とガーゼ、消毒液、コットン、ピンセット、ハサミ、テープ、氷嚢、湿布と手当たり次第にカゴに放り込んでいく。
    どさりとカゴをサイドテーブルに置くと、ようやく三井と目が合った。
    お互い、傷だらけの顔をしていた。
    「たぶん、しみるけどおとなしくしていて。」
    「……うっ…!」
    涙と血でぐしゃぐしゃの腫れた顔。✿も先ほどよりは落ち着いて、三井の頬を、額を、口元を、滴るほどに水で濡らしたガーゼで流すように拭き取っていく。
    一通り顔の血が拭われると、ガーゼや絆創膏を貼る。

    「肋骨は?折れてない?」
    学ランをめくり、シャツの上から鳩尾や脇腹を軽く手のひらで押すと、熱を持って腫れた場所があり、氷嚢を挟ませる。激しく痛がる場所が無いと言うことは骨折には至っていないのだろう。
    「手も見せて。」
    顔と同じように血を拭い、消毒をしようとして、✿ははた、と気がついた。
    よく見ないとわからなかったが、三井は左手の方が打撲と、傷跡が多かった。
    ✿が補習中の赤木を呼びに行く直前、帰ってほしいと静かに頼む安田を殴っていたのは左手だった。
    姑息なことに、モップの角で殴ろうとし、宮城には頭突きをかまし、血まみれにしていた。
    「あのさ三井…あんた、サウスポーじゃ、なかったよね」
    彼のプレイを✿が忘れるはずがなかった。三井は、
    「…右…」
    そう、右利きだったはずだ。
    殴るなら、普通は利き手を使う方が重くなる。
    ただ、場合によっては殴る側も、その拳にダメージを負うことはある。喧嘩慣れしていなければ、骨や腱を痛めることだってある。
    この考えはこじつけだ。あまりにも✿には状況証拠が少なすぎる。それでも。
    「…ずっと…右手を庇っていたってこと?」
    「…っ!」
    その意味は。
    (ずっと、三井もバスケットが好きだったんだね…戻りたかったんだね…。)
    無自覚なのかは分からない。ただ、✿には、あの体育館で嗚咽する三井の、この両手をみて、彼の心がどんなに傷つき、迷ったままでいても、その身体は頑なに拒絶しているように感じた。
    その手が、二度とボールに触れなくなることを。
    こんなにも彼の身体は、神経は、細胞まで、彼の肉体はコートに戻りたがっていたのだ。バスケットボールを、求めていたのだ。
    「ぶっ壊してやるよ」
    そう言ってあの体育館に乗り込んできた三井が。
    そして、そこまでに至るものがあったとしたら。
     
    (私か。…昨日の私が追い詰めたのか。)

    三井のプライドを傷つけたばかりでなく、彼の引き金を引いてしまった。
    全てではなくても、おそらく✿の存在はすれ違うたびに敵意を向けてきていた三井は、何かしらのピースではあったろう。そしてもしかしたら、そのピースがはまっていなければ、こんなことにはならなかったんじゃないだろうか。
    ただ、全部壊れなければ見えない三井の本心があったとして。
    土足で汚れた床、数百度と言われるタバコの火を押し付けられたボール。折られて血に濡れたモップ。
    血まみれの部員たち。
    あまりに多くのものが傷ついてしまった。
    ✿の視界が滲んだ。ぱた、ぱたと三井の手に雫が溢れる。
    「✿…」
    「…何を…何をやってるのよ!バカ!!」
    怒鳴り声に、三井の大柄な身体がびくりとすくむ。

    誰が正しいとか、味方だとか、間違っているとか、敵だということではなかったのだ。
    生意気な態度の裏に、臆病さと優しさを隠した宮城も。
    努力で身につけた実力とプライドがありながら、長くて孤独な治療と居場所のなさに耐えられなかった三井も。
    バスケへの熱意と情熱から、周囲と折り合いがつけられず孤立した赤木も。
    誰もが必死で生きる中で少しずつすれ違い、歪み、ねじれていってしまった。
    それをほどく術はもはやなく、一度引きちぎられ、結びなおそうとしていたのが、あの土足と血に濡れた体育館だったのだ。

    「もういやだ、もうこんなの、やだよぉ…」
    辛くて、痛くて、苦しい。
    大切な人が悲しみ、傷つくのも。
    大切な人へ怒り、傷つけてしまうのも。
    大切な人の宝物や居場所が壊れてしまうのも。
    そして、大切な人から傷つけられてしまうことも。
    『急に泣き出してびっくりしたー。結構優しいんすね、✿先輩。もっとドライなタイプかと思ってたっす。』
    そうやって入院中の宮城は笑っていた。
    ドライ。確かに自分でもそう思ってはいたのだ。
    何もかもどうでもいいと、ひっくり返して手放して諦めて、空っぽにして神奈川に戻ったはずの✿の両手には、もうこんなにもたくさんの大切な友人たちがいたのだ。だからこそ今、こんなにも心が痛い。

    『何でも自分のせいだと思うのは、やめろ✿。その思いは行き止まりだ。』
    赤木の冷静で、芯のある、でもやさしい言葉を思いだす。
    確かに、怒りを堪えきれず殴ったのは三井だし、バスケ部を潰すと決めたのは三井だ。それを自分のせいだというのは理性では何かが歪んでいることはわかる。

    (それでも、こんなことになる前に、私が何か、もっと三井に出来ることがあったんじゃないのかなぁ…?)

    「っうっ…ぐっ…。」
    再び、三井の目から涙が溢れる。
    「……ごめん…ごめんな、✿…!ほんとに、ごめんな…!」
    しゃくりあげる三井の手が、震えながら、✿の両手を包んだ。
    その手の温かさで✿は気が付いた
    自分が飛び出した後、あの閉ざされた体育館で何があったのかは知らない。どんな言葉が、やり取りがあったのかはもう分からない。
    ただこれだけはわかった。
    長く彼が逃げ込んでいた昏い砦は、多くの血をもって、砕かれたのだと。
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