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    しふりしゃ

    男を犯す

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    しふりしゃ

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    こんな感じの小説を……書く気がする

    鬱蒼と茂る森の中。ビショップが歩を進める度に木の葉と枝が潰れる音がする。それよりも絶え間なく響いてくるのは、銃声と金属音。白兵と黒兵がぶつかり合う戦場の中を、ビショップは他の兵も連れずに歩いていた。ただ一つの目的のために。
    「白のルークの首を取れ」。黒のキングがただ一言、ビショップに命じた事だ。白のルークが一騎当千の怪物であることは戦場中に知れ渡っていた。戦に出る技量はあるとはいえ、ビショップは一介の聖職者でしかない。つまりは死を命じられたも等しい。だがビショップにとって、キングの命令は絶対。逆らうことも、命乞いをすることも無く。ただ1人で白のルークが陣を構えている地に足を踏み入れていた。
    ビショップとしては単騎で敵陣に挑むからにはそう易々と幹部がいる場所まで辿り着けないだろうと想定していたが……いくら無防備な姿を晒して歩こうとも一向に敵兵が現れない。不気味な程に、だ。この状況が好機であると安直に考えるほど能天気ではない。完全に誘い込まれている。それでも足を止めることはない。ビショップにとって、キングの命令は何よりも重く何よりも正しい。命令の末に命を落とすことが出来たのなら、それは苦痛ではなく悦びだ。
    ふと、頭上から月の明かりが強く差し込んだ。目の前は一際開けた場所になっており、自然にはありえないほどに地面が「均されて」いる。理不尽なまでに強い力で押しつぶされたかのように。こんな芸当ができるのは、白黒どちらの兵を探しても白のルークしかいるまい。
    「なるほど、ここがワタクシの戦場ですか」
    異様な光景にビショップは喉を鳴らして笑う。広場に入り込んだ瞬間、空気が変わるのを肌で感じた。内臓まで突き刺さるように冷たく鋭い。ビショップの心はキングへの信心でのみ満たされており、恐怖心などは微塵もない。そのはずなのに、体は微かに震え冷えた汗を流す。みし、みし、と奥から木々が軋む音がする。──来た。月の光に照らされ、敵の姿が顕になった。白く長髪、ぎょろりと獲物を睨め付ける赤い瞳。口元は黒いマスクで覆われ、片目が髪で隠されているため表情は読み取れない。細身ではあるが、2メートル以上はあろうかという巨躯。正しく「怪物」……白のルークだ。
    「こんばんは、ワタクシは黒のビショップ。アナタの首を取るようキングに命を下されました」
    ビショップはそう言いながらルークと向き合った。話が通じているのかいないのか、返答は無い。同じ人間と退治している気がしなかった。
    「まさか一騎打ちの場が用意されているとは……驚きました。数で攻めてこなかったのは、ワタクシのような非力な存在ならばアナタ1人でも十分すぎるから、ですかねぇ?」
    額に汗を浮かべながらもビショップは口を噤まない。舌を回すことで自分のペースに戻す、更には相手を引き入れようとしているのだ。ビショップとは相性の悪いことに、どうにも白のルークはそういったお喋りには付き合ってくれないらしい。無言を貫いたまま赤く光る瞳をビショップに向けるばかりだ。
    互いに睨み合い、周囲の空気は沈黙に包まれ一層張りつめていく。幾ばくかの時が過ぎ、やがて……最初に動いたのはルークだった。爆撃が起こったかと紛う程の重い轟音。ルークが地を蹴った音だ。何十メートルもあったはずの距離が瞬く間に縮まり、ルークの拳がビショップの眼前に迫っていた。ビショップは膝を畳んで下に潜り込み回避する。そのまま大剣でルークの足をすれ違いざまに斬りつけようと刃を振るう。
    だが、ビショップの手に伝わったのは肉を割く感触では無い。ガチ、と金属同士がぶつかり合う音がした。そこにあったのは生身の足では無い。義足だ。ただの肉であれば簡単に脚を切断したはずの斬撃は、ルークの義足の表面を僅かに傷つけたのにみに留まった。ルークは表情一つ変えずに斬られた足でビショップに向けて蹴りを繰り出す。蹴りが届くよりも先にその風圧がビショップの体を吹き飛ばし、目標を失ったルークの足は地面に勢いよく踏み締められる。先程までビショップがいた場所がクレーターのように凹んだ。
    ルークは蹴りの勢いのまま宙返りをして後ろに飛び退く。もうもうと土煙が舞い、唯一の光源であった微かな月光が遮られる。一瞬、互いの視界が闇に包まれた。ルークが煩わしそうに腕を振ると、空気を割いて生み出された風が立ち込めた煙を一掃する。ルークの視界は再び明るさを取り戻したが、そのどこにもビショップは映らない。ルークの頭上からひゅ、と空を切る音。ビショップの大剣がルークに向かって振り下ろされていた。ルークがビショップを見失った一瞬の隙をついて体勢を立て直し背後に回り込んでいたのだ。ルークはそれに気づいた刹那僅かに目を見開き、咄嗟に腕を交差させて刃を阻む。再び金属が競り合う音。攻撃を避けてのカウンターとは違う、死角からの一方的な攻撃。勢いの付いたビショップの剣は先程よりも深い傷をルークの義手に与えていた。ビショップが剣を引けば、受け止めていた義手の切れ目からボタボタと液体が零れる。血液などではない、オイルや冷却液に似たもの。
    「義手義足とは……それほどの硬質なら、通常の兵ならば使えぬ程重量があるものでしょう」
    ルークは一言も言葉を発していないのに、ビショップはまるで相手が喋っているかのように喋る。強がっているのではなく本心からの言葉だ。喜色を含んだ声色で言葉を紡ぐと再び距離を詰める為地面を蹴った。弾丸の如く飛び出したビショップに対しルークもまた瞬時に体を回し蹴りを放つ。凄まじい速さと威力を兼ね備えた回し蹴りだが、ビショップはそれを真っ向から受けることなくひらりと避ける。回避と同時にルークの胴を狙った斬撃。ルークはすかさず膝を上げて攻撃を受けることで胴体を庇う。追撃を阻まれたルークが瞬時に体制を整えて拳を突き出すが、それも軽々と躱され空を切る。数回の攻防の後飛び退いたビショップは、その剣先がほんの僅かばかりに欠けていることに気が付いた。
    「おや……やはり無傷とはいかなかったようですねぇ」
    見れば切れ味の良い刃物で軽く撫でたかのように、ルークの義体には細かい切り傷が点在していた。ビショップは相手の攻撃を躱す度に小さく反撃を繰り返していたのだ。ビショップはルークの攻撃が直線的であることに気づいていた。小細工も何もない、ただ圧倒的なパワーとスピードで対象だけを狙っている。見て避けるのは困難だが、攻撃のルートを予測して避けることはできる。
    だが、攻撃が当たらないから勝てるというほど甘い話ではない。ルークの肉体強度は尋常ではなく、至近距離からの斬撃を受けようとも義体が多少損傷する程度だ。それだけに留まらず、義体であるためいくら切り付けようとも痛みで怯むことがない。時間稼ぎをして失血を狙うこともできない。活路があるとすれば……胴体か。ルークは手足への攻撃は軽く受け止めてみせるが、胴への攻撃は全てきっちりとガードしている。
    「っはは、いくらやっても終わりが見えませんねぇ。ですが、ワタクシにもアナタの首を取らねばならぬ理由があるのですよ」
    ビショップが剣先を向けながらそう告げると、ルークの赤い瞳が鈍く光る。今度こそ倒すと言わんばかりに踏み出したルークに対し、ビショップはふわりと空中へ大きく跳躍し後ろへ飛び退く。ルークは追いかけようとして……足を止めた。土煙でない、白い煙がビショップの居た位置から湧き上がってきたから。煙幕弾の煙だ。無闇に視界を遮られるような真似をすれば、先刻のように不意打ちを食らう。今度は煙を払うことはせず、ルークはじっと立って気配を探った。下手に相手の策に付き合わずとも、ルークの身体能力ならば前兆を察知してから急襲に反応出来る。そう判断したからだ。
    がさ、と広場の外から音がした。次の瞬間、ルークの肩に鋭い痛みが走る。そこには小さな針が突き刺さっていた。ビショップは煙幕を張った隙に広場に生えた木々の中に紛れ込んで……そこから飛び道具を放ったのだ。ルークの巨躯に対して針が負わせた傷はあまりにも小さく浅い。ルークは針を意にも介さず攻撃が飛んできた方向に向けて突進する。正しく猪突猛進。ルークの進む先の木々が全てなぎ倒されていく。森の中は頭上の葉が月光を遮り闇が満ちていた。その中に、僅かに明かりが指す場所がある。そこに立つ司教のマントの影。ルークは即座に人影に向けて拳を突き出し……目を見開いた。ビショップの立ち姿に見えたそれはビショップ本人ではない。突き刺さった大剣にマントとミトラを被せたデコイ。剣に着せられたビショップの装備が風圧に煽られてばさりと落ちる。
    罠であったことにルークが気づくと同時に、みし、と頭上から枝が軋む音がした。ルークの右側からビショップが飛び出す。その手に持った短剣が振りかぶられ、キラリと月の光を反射する。僅かに反応の遅れたルークの顔にビショップの短剣が振り下ろされた。金属音ではない、ざくりと肉を切り裂く音がする。
    「……ぐ……ッ」
    それまで一度も声を発しなかったルークが小さく呻いた。飛び散る飛沫は確かな血の色をしている。ビショップの口角が吊り上がった。
    「やはり、胴は生身でしたか!」
    瞬時にビショップは短剣を引く。突きの形にくるりと短剣を回して持ち変え、ルークの胸目掛けて突き出した。喰らえば確実に致命傷になる心臓を狙った一撃。だがルークは、その攻撃を抵抗もせずに受けた。ルークの胸に切っ先が沈み込む。
    一瞬の後、勝利を確信していたビショップの目が怪訝そうに細められた。かつん、と金属を刺した感触。まさか、とビショップが反応するより先にルークの手が動いていた。横に薙ぎ払われた腕がビショップの横腹に叩きつけられる。ミシ、と骨が砕ける音。
    「ッ、がは……っ!」
    勢いよく吹き飛ばされたビショップの体が宙を舞い、地面に転がり落ちてはざりざりと擦り付けられる。枯れ枝のように折れ曲がった体が広場の方向への突っ込んでいった。からん、とビショップから少し離れた場所に短剣が落ちる。
    一方、顔を切り裂かれたルークは微動だにしない。ビショップの攻撃が浅かった訳ではなく、確かにまともに一撃を食らったのだ。顔には斜めに切り傷が走り、ボタボタと血を零している。はらりと切断されたマスクが落ちた。顕になった右の頬には口端から裂けた傷痕。鋭く尖った歯を揃えた口はニタリと笑っている。
    「ッ、は……ッ、まさか……そこ、も……機械とは……」
    よろよろとビショップが立ち上がった。脇腹を抑え、苦しげに呼気を漏らしている。少し身動ぎするだけ、それどころか呼吸をするだけでビショップの肺を激しい痛覚が突き刺す。ビショップはルークを睨みながら、口元の血を手の甲で拭いとる。じわりとアームカバーに血が滲んで広がった。ビショップの目が見開かれ、ルークと同様に鋭い歯を晒して笑顔を見せる。互いに傷を負いながらもギラギラと目を光らせて笑い合う──異様な光景であった。
    ルークは倒された木のうちの一本を掴みあげた。続けざまにだん、と地面に力を込め飛び上がる。片手剣でも振るうかのように軽々と空中で木の幹を振りかぶった。
    「この、怪力め……」
    ビショップは歯を食いしばり、苦しげに息をしながら半歩下がって回避する。反撃しようにも、大剣はデコイとして地面に突き刺さったままだ。ここからは数十メートルは離れている。剣をデコイとして使ったのも、あの奇襲で仕留められると思っていたからこそであり、それが通じなかった今ビショップは非常に不利な状況に立たされている。
    ルークはビショップが武器を失った今がチャンスとばかりに容赦なく追撃をしかけた。幹が縦横無尽に振り回されビショップの体を潰さんとする。絶え間ない攻撃にビショップの顔が歪んだ。何とか躱せてはいるものの、まともに受けてしまえば一発でミンチになるだろう。幸いにも、ルークの攻撃の激しさで土煙が巻い始め狙いが定まりづらくなっている。それでもルークの攻撃が止まないのは、相手を狙うよりも手数で押し切ろうとしているからか。ビショップは再び広場から離れ森の中へと逃げ込んだ。兎にも角にも剣を取り戻さなければ対抗することができない。無論、大剣使いのビショップとしては剣を取り戻してからこの狭い空間で戦うことは厳しくなるが。
    木の隙間を縫って駆けるビショップの背後からメキメキと木が折れていく音が迫る。ビショップがちらりと振り返ってみれば、赤い瞳が炯々と闇の中で輝いていた。その光は次第に大きくなっていく。2人の距離がグングンと縮まっていた。正面に向き直ったビショップの視界が地面に突き刺さった大剣を映す。あと数メートル。ビショップは隠し持っていた煙幕弾を地面に叩きつける。同時に跳躍し、剣に向かって手を伸ばす。柄を握り締め、半ば倒れ込むようにして剣を抜き取った。ビショップは口内に溜まっていた血を吐き出し、剣を構えて煙幕の中を見据える。煙を払ってルークの巨躯が飛び出してきた。振り上げられた拳がビショップを捉えようとし、咄嗟に剣を薙ぎ払う。刃と義手がぶつかり合い火花が散った。間髪入れずにルークは身を捻って足を横に振るった。ビショップは鍔迫り合いの反動を利用して大きく飛び退る。がち、と剣の先が木の幹につっかえた。ビショップが危惧していた通り、森の中では剣を振るうのに支障がある。ビショップはルークの追撃を避けながらじりじりと後ろに下がり、広場の方向へと戻っていく。背後に射す光が微かに強くなる。
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    しふりしゃ

    MAIKINGこんな感じの小説を……書く気がする
    鬱蒼と茂る森の中。ビショップが歩を進める度に木の葉と枝が潰れる音がする。それよりも絶え間なく響いてくるのは、銃声と金属音。白兵と黒兵がぶつかり合う戦場の中を、ビショップは他の兵も連れずに歩いていた。ただ一つの目的のために。
    「白のルークの首を取れ」。黒のキングがただ一言、ビショップに命じた事だ。白のルークが一騎当千の怪物であることは戦場中に知れ渡っていた。戦に出る技量はあるとはいえ、ビショップは一介の聖職者でしかない。つまりは死を命じられたも等しい。だがビショップにとって、キングの命令は絶対。逆らうことも、命乞いをすることも無く。ただ1人で白のルークが陣を構えている地に足を踏み入れていた。
    ビショップとしては単騎で敵陣に挑むからにはそう易々と幹部がいる場所まで辿り着けないだろうと想定していたが……いくら無防備な姿を晒して歩こうとも一向に敵兵が現れない。不気味な程に、だ。この状況が好機であると安直に考えるほど能天気ではない。完全に誘い込まれている。それでも足を止めることはない。ビショップにとって、キングの命令は何よりも重く何よりも正しい。命令の末に命を落とすことが出来たのなら、それは苦痛ではなく悦びだ。
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