Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    mimi_ruru_241

    @mimi_ruru_241

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 20

    mimi_ruru_241

    ☆quiet follow

    「狂気の合同誌」にて漫画で描いたものの小説版。本のおまけでしたがこちらで供養。
    プロットありとはいえ小説の所要時間は三時間でした。漫画の方は時間かかりすぎて計測できてません。
    初クリスタ、とても刺激的な日々でした。素材とかCGモデルどころかトーンすら使いこなせてなかった。
    狂気の合同誌、本当にお世話になりました。ありがとうございました!

    ないしょのかたっぽ キバナ、イコール、完璧。ガラル中の人々がそう思っている、……らしい。
    「ね、キバナ特集だって」
    「貴重なオフショットも多数、かあ。本屋寄ってみる?」
     壁一面に貼り出された広告を前に、女の子たちが黄色い声を上げている。道端で眠るチョロネコに気をとられていて気づかなかったが、横目でチラと見たそれにはキバナが大写しになっていた。光沢のあるタキシードをかっちりと着込み、腕には大輪のバラを抱えている。ちょっと吹き出してしまいそうなくらいベタな格好だが、その余りあるルックスの良さが全てに調和をもたらしていた。
     すっと通った鼻梁、あまくほどけたまなじり、涼しげな薄い唇。ダークチョコレートの色をしたその横を、おれは立ち止まることなく通り過ぎる。この美しさにほれぼれとするなんて時期は、もうとっくの昔に過ぎ去った。慣れた、というよりも、もっと別のことを知ったから。
     キバナはよく、完璧な男だと称される。美貌も知性も教養もあり、加えてジェントルマンときた。トップジムリーダーという地位に甘んじることもなく、常に己を研鑽し、つまさきは前を向いている。
     けれどおれは知っているのだ。それだけが「キバナ」という男を構成する全てではないことを。
    「ただいま」
     目深にかぶっていたキャップを外していると、ぱたぱたという足音が近づいてきた。リビングから真っ直ぐに向かってくるその人は、やがておれの目の前に姿を表す。
    「おかえりダンデー」
     ふにゃり、と効果音でも聞こえてきそうな、とろけた顔をした男。ブランドものなんかじゃない、どこかの適当な店で買ったシャツを着て、両腕をめいっぱい広げ恋人を迎えるその男。
    「キバナ、キミやっと起きたのか」
     完璧と称されるその人、キバナの真の姿。それはせっかくの休日に大いに寝坊をかまし、呆れた恋人が朝の散歩に出て行ってしまうほど、なんとも抜けたところのある男なのだった。
    「起きたらダンデいなかったの、すごく寂しかったんですけどォ」
    「何度も起こそうとしたぜ。全然起きないキミが悪い」
    「寂しいこと言うなよー」
     いつもの洗練された喋り方はどこへやら。語尾をあまったるくしたキバナは、まるで生まれたてのココガラのようにピヨピヨとおれの後ろをついて歩く。
     おれは、そんな普段の様子(ファンが見たらギャップで大風邪を引くだろう)を気にすることなく、散歩ついでに買ってきたパンやジャムを仕舞うべくキッチンへと向かう。──が、そこで妙なことに気がついた。
    「宅配便受け取っといたよ!」「洗濯物も干しておいた」「あとバスルームも掃除したし」「鉢植えの水やりもして」
     ……やたらとうるさい。いや、キバナがワンパチのようにまとわりついてくるのはいつものことだが、これはそれとは少し違う。褒められるのを待っている、というよりは、己の功績を必死にアピールしているような。
     しかもそれは、おれがキッチンに近づくにつれて激しくなった。「シーツも洗っといたよ」「ハンカチにアイロンしといたし」そしてついには「トイレットペーパーの端を三角に折った」という極めてどっちでもいいことまで報告してきたので、そこでおれはピンとくる。ははあ、なるほど、そういうことか。
     キッチンに入る直前、まだ口を開こうとしていたキバナの言葉を遮り、「ありがとうキバナ、キミは本当にいい男だ」と優しく礼を述べた。
    「だろ? だからダン、」
    「それで?」
     くるりと振り返ったおれは、いっとう綺麗な笑顔で言い放つ。
    「キミ、今日は一体なにをやらかしたんだ?」
     しばしの沈黙。やがてキバナは、「ええ……っと」と歯切れの悪い声を出した。
     ふふん、今日もキミの本性を暴いてやったぜ。だなんて優越感に浸っていられたのは、この瞬間までのことだった。

    「ほんっとうに、ごめんなさい!」
     拝むように手を合わせ、深々と頭を下げたキバナのつむじ。おれはそんなものに目もくれず、目の前の悲劇を呆然と見つめていた。
     ──おれの手のなかにあるそれは、無情にも空っぽになったプリンのカップ。一パック三個入りのものより少しお高い、濃厚モーモークリーム入りの一品だ。
    「ちょっと小腹が空いたなーと思って冷蔵庫開けたら、あっプリンあるなーって……。ダンデが楽しみにとっといてるのは知ってたんだけど、ちょっとだけ、と思ったらつい止まらなくって、その、だからね、──」
     キバナの声が遥か遠くに聞こえる。おれは空のカップを持ったまま、よろよろと地に伏した。
     ああ、おれのプリン。仕事終わりに食べようと思って、大事に大事に冷蔵庫の奥へしまっていたおれのプリン。念のために名前を書いておいたのに、それでも失われてしまったおれの、おれの……。
     キッチンの冷たいタイルに横たわったまま、無言でカップを見つめる成人男性の姿はさぞ恐ろしいものだったろう。キバナはおろおろとおれにすがりついた。
    「ダンデ、ダンデ許して」
    「う、う……」
     しかし呻くばかりのおれへ、キバナはついに涙を浮かべて叫ぶのだ。
    「ほんとごめんって、許してくれよ、なんでもするから!」
     ぴくり。おれの耳がわずかにひくつく。おれはカップから目を離し、キバナの情けない顔をまっすぐ見据えた。
    「だ、ダンデぇ……」
     揺れて潤む青い瞳を前にして、おれの頭は高速スピンを始める。今おれがすべきこと、彼がおれにすべきこと。おれが彼に、してほしいこと。
     だって今、なんでもするって言ったよな?
     そっと俯いたおれは、キバナには見えないように口角を上げた。

    「で、まさかこれとはねえ」
     キバナが小さくためいきをついた。おれはもぞもぞと顔を上げ、「なんだ? 嫌か? なんでもするって言ったよな」と睨んでやる。
    「そりゃあ、なんでもやらせてもらいますけどォ」
     にしても、天下のオーナーさまが寝かしつけをご所望とはねえ。感慨深そうに口にしたキバナの胸へ、おれは頬を押し付け擦り寄った。洗い立ての柔らかなシーツより、そのぬくもりの方が心地よい。
     それでもまだまだ物足りない。「ぽんぽんもしろっ」と命令すると、今日はおれの言いなりであるキバナが「はいはい」と言っておれを抱きすくめた。大きな手のひらで刻まれる、ゆっくりとしたリズムが優しくおれの体に馴染んでゆく。
     こんなふうに甘やかされながら眠るのは、ほとんど初めてのことだ。もしかしたら赤ん坊の時、母にしてもらっていたのかもしれないが、物心ついた頃には既に弟がいた。幼い弟を寝かしつける母の背中を見つめながら、おれは一人で眠っていた。
     ほう、と静かに息をつく。こっそりキバナを盗み見ると、彼はつられて眠くなってきたのか、のんびりとあくびをしていた。おれが今、どれだけ満たされた気持ちでいるのか、彼はきっと気づいていない。
     キバナはいつもこうなのだ。完璧などとは程遠い。いつも何かしらでヘマをするし、そして必ずなんでもするからと許しを請う。
     頼んでいたシャンプーを買い忘れたり、ゴミ出しの日を間違えたり、傘をどこかへ置き忘れたり、そういうちょっとした失敗のせいで、おれの言いなりになっている。そしておれは、それをいいことに、普段は言えないお願いごとをしてみるのだ。一日中ぎゅっとしてもらったり、頭を撫でてもらったり、頬いっぱいにキスしてもらったり。いつもは恥ずかしくって言えやしないことを、「キミが悪いんだからな」と胸を張り、堂々とねだってみせる。
     きっとガラルの皆は知らないのだろう。完璧に見えるキバナに、こんな一面があることを。ちょっとしたことでミスをして、涙を浮かべて謝る姿を。
     そしてキバナすら知らないのだ。彼のそういう、ほんの少しダメなところが、いじっぱりなおれの願いを叶えてくれていることを。
    「なあにダンデ、甘えちゃって」
     キバナの胸へ顔をうずめると、「おまえはかわいいね」と、とろけたような声が降ってきた。
     ああ、おれはやっぱり、キミみたいに素直になれない。ほんの少しでも気を抜くと、自分でも知らない自分が顔を出す。その表情がどれだけ緩んでいるのか、キミに見せるのは照れくさいんだ。
    「うるさいっ、ぽんぽん乱れてるぜっ」
     頬の熱がばれないよう、キバナを少し叱ってみせる。彼は「へいへい」と気のない声で返事をしたが、その大きな手のひらは、更にたっぷりとした優しさを纏っておれに触れた。
     キバナと二人、シーツの海に沈みながら、おれはこっそり感謝を捧げる。かみさま、キバナにほんの少しの「欠け」を残してくれてありがとう。
     そしてそんな自分に苦笑した。ダメなところも大好きだなんて、おれってけっこう重症かもなあ。
     ま、こんなこと、キバナにはとうてい言えないけれど。


     太陽が真上に昇る。けれど室内は少し気だるげで、綿でくるまれたようなあたたかさに満ちていた。
     怠惰な昼寝にはうってつけの日だ。そんな中、ウィステリアの豊かな髪をシーツに広げ、穏やかに眠るひとをキバナは静かに見つめている。
     何か夢でも見ているのだろうか、頬に影を落とすほどのまつげが時おり震えるので、キバナはそれに触れたいという衝動を必死で抑えた。せっかく惜しみない愛をいだいて旅立った夢なのだから、それを途中で妨げてしまうのはかわいそうな気がしたのだ。
     なので、代わりに長い髪のひとふさをそっと取り上げる。さらりと指から滑り落ちるひとすじでさえ愛おしい。キバナはたまらなくなって、「あー、もう」と呟いた。
    「ほーんと、おまえって、かわいくって、不器用なやつ」
     そんなことなどつゆ知らず、ダンデは幼な子のように眠っている。その頬にひとつキスを落とす。

     ──常に皆の模範となり、規範となり、いつも気を張り正しいひとであるダンデ。こうでもしなくちゃワガママひとつも言えやしない、ひどく不器用で愛おしいおまえ。

     キバナの胸の中は、まるでサイダーを注いだみたいにくすぐったい。ぱち、ぱちん、とあぶくが弾けるたび、澄んだパステルカラーの光が放たれる。あまい痺れが指の先まで駆け抜けて、キバナはたまらず目の前のいとおしいものを抱きしめた。起こさないようにしなくちゃだって? 前言撤回、こんなの我慢できるわけがない!
    「ん、んん……」
     突然抱きすくめられたダンデが、眉をひそめて小さく唸った。けれど再び夢の世界へと落ちてゆく。キバナはその額にキスの雨を降らせながら、溢れ出しそうな心に今日もひとり耐え忍ぶ。
     
     おまえが思っているよりも、おれさまが自分で思っているよりも、おまえのことが好きみたい。おまえのためならダメな男にもなれちゃうんだもん、おれさまけっこうやばいかも。
     ま、ダンデにはないしょだけどね!





    (ないしょのかたっぽ/2021.11.21)
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💞💗💖❤💘💕💞💘💖💗💖💞💒🙏☺👍💯💯💴💴💴☺☺💖💖💞💞💖👏👏👏👏☺💖💖💖💖💖☺☺☺☺☺☺❤💕☺☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    mimi_ruru_241

    PAST「狂気の合同誌」にて漫画で描いたものの小説版。本のおまけでしたがこちらで供養。
    プロットありとはいえ小説の所要時間は三時間でした。漫画の方は時間かかりすぎて計測できてません。
    初クリスタ、とても刺激的な日々でした。素材とかCGモデルどころかトーンすら使いこなせてなかった。
    狂気の合同誌、本当にお世話になりました。ありがとうございました!
    ないしょのかたっぽ キバナ、イコール、完璧。ガラル中の人々がそう思っている、……らしい。
    「ね、キバナ特集だって」
    「貴重なオフショットも多数、かあ。本屋寄ってみる?」
     壁一面に貼り出された広告を前に、女の子たちが黄色い声を上げている。道端で眠るチョロネコに気をとられていて気づかなかったが、横目でチラと見たそれにはキバナが大写しになっていた。光沢のあるタキシードをかっちりと着込み、腕には大輪のバラを抱えている。ちょっと吹き出してしまいそうなくらいベタな格好だが、その余りあるルックスの良さが全てに調和をもたらしていた。
     すっと通った鼻梁、あまくほどけたまなじり、涼しげな薄い唇。ダークチョコレートの色をしたその横を、おれは立ち止まることなく通り過ぎる。この美しさにほれぼれとするなんて時期は、もうとっくの昔に過ぎ去った。慣れた、というよりも、もっと別のことを知ったから。
    4414

    recommended works