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    mimi_ruru_241

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    mimi_ruru_241

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    とっても優しい友だち思いのkbnくんと、そんな友人がいて幸せなdndくん。
    「善き友人」に少しずつ浸食されてゆくお話。
    2022.5.3の無配でした。お手に取っていただき、ありがとうございました!

    #キバダン
    #kbdn

    竜の巣づくりは掃除から「またこんなに散らかして!」
     ため息とともに落ちる小さな雷。続いて始まるのは、ロトムの入った掃除機が縦横無尽に部屋を駆ける騒々しい音。すっかりお馴染みのパターンに、ダンデは「忙しくって、つい」と苦笑いした。
    「そりゃ分かってるけどさァ」と言いつつも、キバナは整頓に勤しむ手を止めない。「使ったものを元に戻すくらいはできるだろ?」
    「なんだか面倒なんだよなあ」
    「そんなんじゃ、すぐに物が失くなっちまうだろ」
    「どの辺りに置いたかは、ちゃんと覚えてるぜ!」
     ほら! とダンデは積み上がった本の隙間から、エアコンのリモコンを取り出した。既に電池が切れかかっているそれを、あまりにも誇らしげに掲げているので、キバナは再びため息をついた。
    「本当にずぼらなんだから……。これからはおれさまが一緒に住んで、おまえのお世話してやろうか?」
    「それはさすがになあ」
     床に散らばる靴下をカゴに放り投げながら、ダンデが言う。「いくらキミが優しいからって、そこまで甘えられないぜ」
    「ふうん、そう」
     キバナはつまらなさそうに唇を尖らせた。おまえの方がよっぽど優しいよ、という言葉は、靴下の色分けに夢中になるダンデには聞こえなかった。

     ダンデはいつだって忙しい。それはチャンピオンマントを羽織っていた頃もそうだったが、オーナーに就任してからはますます時間の使い方が難しくなった。
     チャンピオンとしてガラルを駆け回っていた頃は、公私共にローズやオリーヴがマネジメントしてくれた。けれど今は、バトルタワーの経営やポケモンリーグ委員会など、自らがマネジメントをする立場になった。自分の仕事も自分でコントロールできるようになり、目標の為なら身を粉にすることも厭わないダンデは、ますます昼も夜も無くなった。
     けれど時間というものは、いついかなる場合でも、たった二十四時間しかない。そのうちのほとんどを仕事に費やしているのだから、私生活が犠牲になるのは当然のことだった。
     ダンデはそれでも良かった。部屋の床が書類で埋め尽くされたって、時々本の山が崩れたって、洗濯機が洗い物でいっぱいになったって、ガラルの発展に貢献できればそれで満足だった。
     しかし、それを良しとしない男が一人いた。奉仕の精神と言えば聞こえはいいが、そんなものは生贄志願と同じだと、その人は言った。それがキバナだった。

     しゅうう、という音を立てて熱い蒸気が立ち上る。小さな蒸気機関車の如きアイロンが、ダンデの白いシャツの上を滑るように往復していた。ダンデの目の前で、波打つシャツがピンと張ってゆく。みるみるうちに艶めき始めるので、ダンデは魔法を目撃したような気持ちだった。
    「あんまり顔を近づけると危ないよ」
     キバナは小さく笑った。その間にもアイロンをなめらかに操っている。
    「キミはすごいな、なんでもできる」
    「そんなことないさ」襟を開き、慣れた手つきでカラーステイを取り出し、「結構練習したんだぜ」
    「練習? こういうシャツ、キミは普段あんまり着ないだろ」
    「んー、ふふ」
     微妙な声色で笑ったキバナは、アイロンの先端をちょいちょいと操り、襟もとを綺麗にした。それがまるで新品のように美しいので、ダンデは「おおっ」と声を上げた。キバナの曖昧な笑みよりも、今目の前で起こる不思議を見つめることに夢中だった。
    「ほら、できた」
     ようやくアイロンを置いたキバナが、じゃーん、と言ってシャツを掲げる。それはつやつやのぴかぴかで、窓から入ってきた風をはらみ、帆のように膨らんだ。
    「ありがとうキバナ!」
     まだあたたかいそれを受け取る。頬を寄せると陽だまりのような香りがした。
    「どういたしまして。でもまだまだ溜め込んでるんだろ?」
    「ばれたか」
     そう言って、ダンデはクローゼットからひと抱えのシャツを持ってきた。ユニフォームと違って手入れが難しいんだ、なんてダンデがぼそぼそと呟くので、キバナは笑ってしわくちゃの山を奪い取った。
    「ま、おれさまもアイロンがけは好きだし、いつでも任せてくれよ」
    「キミって、」ダンデは瞳を輝かせた。「本当にいい友だちだぜ」
    「まあね」
     キバナは歌うように返事をすると、しわだらけのシャツをさっと広げた。そして彼の右手のアイロンが再び魔法を生み出すので、ダンデはたちまち釘付けになった。だからつい、この道具の使い方を詳しく教わるのを忘れてしまう。キバナが帰った後、ぴしりと整列する美しいシャツを見ては「次は自分でできるようにならなくちゃ」と反省することを繰り返す。
     いつしか、キバナがこの家のどこにアイロンを片付けているのかも分からなくなる。それでもダンデは、そうなっていることにすら気がつかないまま、「次こそは」と思うのだった。

     ダンデが仕事にかかりきりになるたび、キバナが彼の衣食住を支えていた。キバナだって暇ではないはずなのに、なにかとダンデの世話を焼いた。一度だけ、どうしてこんなに気にかけてくれるのかを尋ねたことがある。彼は笑って言った。
    「おれさま、おまえに助けてもらったから。今度はおれさまがおまえを助ける番なんだ」
     ダンデにはそんな心当たりがなかったので、詳しく話を聞こうと思ったけれど、彼が「そういえば昨日のホウエンリーグ戦、中継見た?」だなんて言うものだから、ダンデの興味は逸れてしまった。
     時々ふと思い返しては、自分がキバナを助けたことなんかあったっけ、と記憶を探ってみるのだが、自分が助けられたことしか心当たりがなく、結局考えることを諦めてしまうのだった。
     いつか確かめようと思うものの、忙しかったり、話が逸れたりして、その「いつか」はなかなかやってこなかった。
     けれどダンデはその日、ふと思い出した。ランチタイムでもキーボードを叩くダンデを見かねて、キバナがカレーを作りに来てくれた夜のことだった。
     ジャガイモやらをキッチンに並べ、三段めの戸棚からピーラーを迷わず取り出したキバナの背に、「そういえば」とダンデは声をかけた。
    「キミ、前に『ダンデに助けてもらった』って言ってたよな。あれはどういう意味なんだ?」
    「んー?」
     しゃ、しゃ、とジャガイモの皮を剥きながら、キバナは間の抜けた返事をした。
    「覚えてない?」
    「キミに助けてもらった記憶しかないぜ」
     んー、とキバナは少し考えていたようだったが、やがて「ほら、おれさまって昔はやんちゃだったでしょ」と言った。
    「そうだなあ」と相槌を打ったダンデの視線の先には、キバナのシャツの袖から覗くタトゥーがあった。シャワーブースで何度か見たことのある、背中から二の腕までを覆うドラゴンの鱗を思い出しながら「やんちゃというか、不良少年だったな」と彼の言葉を訂正した。
    「『とってもやんちゃ』だったわけだけど」キバナは話を続けた。「ジムチャレンジの時、おまえに出会って世界が変わったんだ」
    「大袈裟だな」
    「本当のことだよ。喧嘩でもバトルでも負けなしで、何も面白いことがなかったおれさまに、おまえは生きる意味をくれた。心からそう思ってる、だから」
    「わ、わかった、わかったから、もうやめろ」
     ニンジンを片手にしたキバナが、ひどく真剣な瞳で見つめてくるものだから、ダンデは背中がこそばゆくなってきた。本当はよく分からなかったが、ここで止めてくれなければ、そのまなざしで焦げてしまいそうだった。
    「もう聞かなくていいの?」
    「ああもういい、お腹いっぱいだぜ」
     キバナは「ふうん」と言って、再び皮剥きを始めた。それからはすっかりいつもの様子で、次の休日はどうしようか、この部屋は明るい色のカーテンの方が合うよ、今度一緒に家具を買いにいこう、などと軽やかに話し始めた。
     キバナが見繕ってくれた家具や家電は、もうずいぶんとこの部屋にたくさんある。まるで新陳代謝をするかのように、古いものは無くなってゆき、キバナが選んだものに置き換わっていた。
     いいや、それだけではない。今夜のように、キバナはダンデの食生活も支えている。カレーや、肉料理、魚料理、様々なものを作ってはダンデに与え、それがダンデの血肉となっている。
     かつて一度だけ、ハウスキーパーを雇いたい、とキバナに相談したことがあった。ダンデの日常が、あまりにもキバナに頼りきりになっていたので、さすがに申し訳ないと思ったのだ。
    「他人を家に入れるなんて危ないよ。自分が知らない間に、どんなことをされるか分からないだろ」
     キバナは低い声でそう言った。妙に真剣な表情だったので、ダンデは何も言えなくなってしまった。もしかしたら、キバナは過去に何か嫌な事があったのかもしれない。だからキバナが「これからも、おれさまが家事を手伝うからさ。好きでやってるから気にしないで」と微笑んだ時、ダンデは素直に頷いた。
    「さあ、できたぜ」
     皿の上に広がるのは、大きめの野菜がごろごろと転がる甘めのカレーだ。何もかもがダンデの好みそのもので、今すぐ掻き込みたいのを堪え、グラスに水が注がれるのを待った。
    「いただきます」
    「めしあがれ」
     スプーンを握りしめ、勢いよくキバナ特製カレーを頬張る。ダンデがヨクバリスのように平らげるのを、キバナは眦をゆるめて見つめていた。
     互いの皿がほとんど空になる頃、玄関ベルがひとつ鳴った。もう深夜に近い時間だったので、キバナが訝しげに「なんだ?」とインターホンを見つめた。
    「おれさまが出ようか」
    「あー、いいんだ。いつものことだから」
    「いつものこと?」
    「そう、だから無視しておけばいい」とダンデはなんでもないように言ったのだが、キバナはそれを許さなかった。挙動不審のダンデをしばらく見つめていたかと思えば、玄関へ飛んで行ってしまった。
    「あっ待てキバナ」
    「どちらさま?」
     キバナが扉を開け放った。そのまま外へ飛び出したが、辺りに人の気配はなかった。
    「だから言っただろ」とダンデが眉を下げた。「無視しておけばいいって。どうせ誰もいないんだから」
    「……いつから?」
    「先月くらいかな。週にニ、三回はこういうことがある」
    「玄関ベルが鳴らされる他にも、何かあるの?」
    「あー、いや……」
    「ダンデ」
    「わ、分かった、言う、言うからそんなに見つめないでくれ」
     そうして二人はリビングに戻った。キバナが相変わらず温度の低いまなざしを向けてくるので、コーヒーでも淹れて誤魔化そうとしたダンデの目論見は外れた。仕方なく、ここ最近起こる「不思議なこと」について話し始める。
    「はじめは封筒だったんだ。宛名も差出人も書いてなかった。一応開けてみたら、中身はスプーンだった。……明らかに使用済みの、な」
    「最悪だな」
    「それから数日おきに『贈り物』が届いた。ほとんど中身は確認しなかったけどな。それが終わったかと思ったら、今度は誰かにつけられているような気配がしたり、色々あったぜ。でも、それだけなんだ。実害がなかったから、特に誰にも言わなかった」
     だからキミも気にしないでくれ、とダンデが言うと、キバナは深いため息をついた。そしてダンデの隣に立つと、そっと抱き寄せた。
    「おれさまに相談してくれよ」
    「これ以上キミの世話になれないぜ」
    「そんなの気にするな」
     やがてキバナは、ダンデの耳元で囁いた。
    「おれさまが、しばらくこの家に泊まってやろうか?」
     ふふ、とダンデは笑った。意外な反応にキバナが目をぱちくりとさせているうち、ダンデはもぞもぞと体勢を変え、彼の顔を見上げた。
    「本当にキミは優しいな」ダンデはニカッと破顔する。「心配ご無用だぜ! おれだってヤワじゃないし、頼りになる相棒もいる」
     ぽん、という音とともに、ダンデ一番の相棒が飛び出した。ばぎゅあ、と力強い声を受け、キバナは肩をすくめた。
    「そっか。……ま、そうだよな」
     その日、キバナはいつものように家へ帰った。「何かあったら、すぐ連絡しろよ」と言って、なにやら魔除けになるらしいキスを、ダンデの額へ残して去った。
     それから数日後、仕事を終えたダンデが自宅へ向かっていると、近所の裏路地に佇むキバナを見つけた。「やあ」と呼びかければ、彼は軽やかに振り返り、「ダンデー」と手を振った。
    「キミ、こんなところでどうした?」
    「んー? ちょっとね」
     たたた、と跳ねるように駆け寄って、ダンデの背中へ手を回した。そしてそのまま押し出すように、路地裏から連れ出してしまう。
    「大丈夫か、何か用事があったんじゃ……」
    「いいのいいの、もう済んだから」
     それより腹減ったなあ、とキバナが甘えるように言ったので、ダンデは冷蔵庫の中身を思い出す。そういえばトマトがそろそろ古くなってきたかも、と言うと、「だったら今日はパスタにしよう」とキバナが答えた。
    「ベーコンとアスパラガスもあったはずだよ。おれさまが美味しいの作ってあげるぜ」
    「やったぜ! キミみたいな良い友人がいて、おれは幸せものだなあ」
     そうして二人は暗い路地裏を抜け出した。素敵なパスタのことで頭がいっぱいなダンデは気が付かない。湿った暗がりの中、見知らぬ男が腹を抱えてうずくまっていることも、己の背に添えられたキバナの拳が赤く染まっていることも。
    「──そうだよダンデ。おれさまだけが、ダンデを幸せにできるんだ」
     その日を境に、ダンデへの嫌がらせはぱったりと止んだ。その代わり、「行動パターンが見えなくなった分、次はどう来るか分からなくて危ないから」と、キバナがダンデの家へ泊まり込むようになった。
     いつしかキバナは、ダンデの家の玄関に足を踏み入れる時、「おじゃまします」とは言わなくなる。いかにも自然に、むしろずっと昔からそうしていたかのように、「ただいま」と笑ってドアを開ける。
     知らないうちに、キバナの郵便物の宛先がこの家の住所になっている。それでもダンデは、キッチンで夕食を作る彼のことを「善き友人」とし、尊敬のまなざしで見つめている。

     ◆

     おれさまはずっと一人だった。と言っても、周りにはいつも仲間が数人いたから、その言葉は正確じゃない。けれど確かに孤独だった。
    何をしても一番だった。勉強でも、スポーツでも、おれさまより秀でた子どもはいなかった。ローティーン向けの美術展で、優秀賞をもらったことだってある。
    みんな、口を揃えて「どうしてキバナはなんでもできるの?」と尋ねた。そのたびにおれさまは思った。「どうしておまえはできないの?」と。けれどそれを決して口にしないという社交性すら、この時既に身に付けていた。
     そうしておれさまは、孤独を深めていった。天が二物も三物も与えてくれたおかげで容姿も目立ったおれさまに、多くの人が惹き寄せられた。ま、その中におれさまを満たすヤツは一人もいなかったわけだけど。
     だからおれさまは、別の場所でも自分を試した。スクールの優等生なんかとっくに飽きていたおれさまは、権力と腕力がモノを言うストリートへと足を運んだ。
     そこで知ったタトゥーの痛みも、他人の鼻の骨が砕ける感触も、効率のいいバールの振り抜き方も、わずかにおれさまを楽しませてくれた。けれど、それだけ。そのストリートのほとんどの人間が、おれさまにぺこぺこと頭を下げるようになった頃、もうおれさまの興味は失せていた。その路地裏に対してではない。この世界に対して、だ。
     だから期待なんかしちゃいなかった。たまたまゲットしたジュラルドンと仲良くなったので、思い出作りにジムチャレンジでもしてみようかと思ったのだ。暇つぶしのつもりだった。エントリーシートを書きながら、どうやってチャンピオンを辞退しようか、なんてことを考えていた。当然そういう結末になると思っていた。──あの日までは。
     あの夕暮れを、おれさまは決して忘れない。夕飯代でも稼ごうと、ワイルドエリアをふらふらしていた少年を捕まえて、バトルをふっかけたのが運命の始まりだった。
    「キミ、とってもセンスがあるぜ!」
     何百回と言われたセリフ。けれど唯一異なるのは、おれさまが地面に膝をついていて、その言葉を口にした子どもが二本の足で立っていること。おれさまは現実を理解することができなかった。
     目の前でジュラルドンが倒れていた。手持ちは全て瀕死状態。相手のリザードはぴんぴんしている。……負けた? このおれさまが? このキバナよりも、秀でた人間がこの世にいたのか?
     呆然としているおれさまなんてお構いなし、その子どもは金色の瞳をさらに輝かせて言った。
    「また、おれとバトルしてほしい。キミは絶対、今よりもっと強くなる!」
     そうして彼は、太陽みたいに笑った。
    「でも、おれは絶対負けないぜ!」
     それはひとすじの光。おれさまが己の人生をかけて、手を伸ばし続けることになる、たったひとつの一等星。
     それが、ダンデというひとだった。

     ◆

    「キバナ、新しい枕カバーってどこにしまってあったっけ」
     寝支度を済ませたダンデが、ソファでくつろくキバナへ尋ねた。彼はナックラーの背中を撫でながら「おまえの寝室の、一番大きい棚の上から三段目」と答える。
    「ちなみに、シーツも新調しておいたよ」
    「ありがとう。キミは本当に気がきくなあ」
     そうして寝室へ引っ込もうとしたダンデの背中へ、キバナが「ねえ」と遠慮がちに声をかけた。
    「あのさあ、ダンデ」
    「どうした」
    「本当に申し訳ないんだけど」と、彼は口ごもって目を伏せて、「おれさまのベッドの脚、壊れちゃった」
     え、どうして、と目を丸くするダンデへ、キバナは「最近寝相が悪かったみたいで」とか「うっかりぶつけたんだ」とか、下手な言い訳を繰り返すので、ダンデはそのうちピンときた。
    「もしかして、キミのいたずらナックラーのせいか?」と言えば、キバナは肩をぎくりとさせて「……ばれた?」と苦笑いした。
    「許してやってくれ。こいつ、最近歯が生えてきて、かゆかったみたいなんだ」
    「幼いナックラーの噛み癖を忘れてたおれが悪かったぜ。ベッドはもうダメそうか?」
    「あー、けっこう傾いちゃってるけど、なんとか寝れなくもないって感じ」
     ふむ、とダンデは考える。キバナは「自分で新しいの買うまでは、頑張って寝てみるよ」と言っているが、ダンデの頭にはひとつアイデアが浮かんでいた。
    「なあ、キバナ。キミさえよければ、なんだが……」
    「なあに、ダンデ」
    「おれのベッドで一緒に寝るか? おれのは大型ポケモンにも対応した特注品だから、キミ一人増えたって問題ないぜ」
     きらり、キバナの青い瞳に閃光が走るも、それは一瞬のことだった。たちまちキバナはにっこりと笑い、ソファから立ち上がる。
    「いいの? ありがとう、ダンデ。おれさまとっても嬉しいよ」
     そうして二人は、並んでダンデの寝室へと向かう。これまで、夜の間は彼らを隔てていたドアが、音もなく閉まってゆく。

     夜明けまでは、まだまだ遠い。




    (竜の巣づくりは掃除から/2022.05.03)
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    Replies from the creator

    mimi_ruru_241

    PAST「狂気の合同誌」にて漫画で描いたものの小説版。本のおまけでしたがこちらで供養。
    プロットありとはいえ小説の所要時間は三時間でした。漫画の方は時間かかりすぎて計測できてません。
    初クリスタ、とても刺激的な日々でした。素材とかCGモデルどころかトーンすら使いこなせてなかった。
    狂気の合同誌、本当にお世話になりました。ありがとうございました!
    ないしょのかたっぽ キバナ、イコール、完璧。ガラル中の人々がそう思っている、……らしい。
    「ね、キバナ特集だって」
    「貴重なオフショットも多数、かあ。本屋寄ってみる?」
     壁一面に貼り出された広告を前に、女の子たちが黄色い声を上げている。道端で眠るチョロネコに気をとられていて気づかなかったが、横目でチラと見たそれにはキバナが大写しになっていた。光沢のあるタキシードをかっちりと着込み、腕には大輪のバラを抱えている。ちょっと吹き出してしまいそうなくらいベタな格好だが、その余りあるルックスの良さが全てに調和をもたらしていた。
     すっと通った鼻梁、あまくほどけたまなじり、涼しげな薄い唇。ダークチョコレートの色をしたその横を、おれは立ち止まることなく通り過ぎる。この美しさにほれぼれとするなんて時期は、もうとっくの昔に過ぎ去った。慣れた、というよりも、もっと別のことを知ったから。
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