「本当に、よろしいのですか?」
いつになく深刻な声色で重々しくオレに尋ねる類。類の両手に収められたオレの手が強く包み込まれる。
「もちろん、だ……。おまえ、に、なら」
「ふふっ、恋人冥利に尽きます……」
耳元で響く声は笑っている。霞み揺れる視界では、類の顔を詳細に捉えることができないが、長い間聞き続けてきた声だ。類の心の機微に気づけないオレではない。
「僕がこんなことしたとばれたら、冬弥くんたちに怒られてしまうかもしれませんね」
口調はいつも通りなのに、心なしか指が震えているような感触がする。酷なお願いであることは重々承知していた。でもやはり、このままいつ目覚めるかわからない状態で眠り続けるより、ほかの誰でもない、類の手で眠りたかった。
震える手を宥めようと、鉛のように重い片手を何とか類の手のひらと重ね、そっと指でなぞる。
「るい、さいご、に、おねがい……、きいてくれる、か……」
「…………司様」
オレの片手を閉じ込めていた手が開き、再びオレの両の手が包み込まれた。指の先端の感触はもう殆どないが、なんだか暖かいような気がした。
「キス、してくれ……」
はっと息をのむような音。聴覚以外の感覚がもう殆ど機能していないがためなのか、それともこの部屋がオレと類以外存在しないからなのか、鮮明に類の息遣いが聞こえた。しばらく長い沈黙に沈んだ。しかし、意を決したようで、ぎゅっと力強く手を握られたかと思えば、オレの手はベッドへ落ちていった。
「あなたが……、君がそれを望むなら」
耳元から聞こえていた類の声が、正面へと移る。オレの手を包んでいた暖かい両手は、さすがの手つきでオレの後頭部と口元へと流れるように動いていった。
口元へ流れた類の右手がオレの口を覆う呼吸マスクを外す。
「あいしてるぞ……、るい…………」
「あぁ、僕もさ…………」
今までで一番熱く深い口づけを交わす。呼吸器の代わりにオレに送り込まれる息遣いは、必死につなぎとめてくれているようで、なんだかうれしくなってしまう。こんな幸せな気持ちで眠れるオレは幸せ者だな。
どれくらい経っただろうか。
そっと唇を離せば、唇同士をつなぐ銀の糸がかかる。しかし、お釈迦様が垂らす蜘蛛の糸より脆いそれは、いとも簡単に途切れてしまった。
「おやすみ、司くん……」