埋めて隠しても、無くならないもの。朝日が昇ったばかりの、午前4時。
静まり返る園内に、密かに集まった4人がいた。
「すまんな。こんな時間しか取れなくて」
「まあ、大丈夫だけど。ちゃんと寝たわけ?」
「僕は機材の調整で元々徹夜だね」
「オレは収録が終わらなかったから徹夜したな」
「ちょっと?」
「2人とも、後でベッド貸すね!とりあえず、掘りにいこー!」
「「「おー」」」
小さめの声で会話する、4人の大人。
子供のように掛け声に合わせて腕を上げると、笑い合いながら林の奥に進んでいった。
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「休止する前に、タイムカプセルを埋めたいの!」
そう言い出したのは、えむだった。
オレも類も大学卒業を目前に控えていて、オレも、なんなら寧々も、事務所に声がかかるくらいには有名になった。
そうなった時に、最初に問題になったのは。
ワンダーランズ×ショウタイムをどうするか、だった。
俺たちの後輩に当たるキャストはもう十分育成が進んでいて、俺たちが抜けても問題ないようにはなっている。
きっと事務所に所属してしまったら、前のように、一緒にショーをやることは少なくなってしまうだろう。
その前に、決めなければいけなかった。
ワンダーランズ×ショウタイムは、解散するのか。しないのか。
結論からいうと、休止という扱いとなった。
思い入れがあるチーム名だし、何より。
ショーをするのが少なくなってしまうだけで、きっとまた、一緒にショーをする日がくる。その時にまた、復活しよう。
そういう結論になった。
タイムカプセルのことを言い出したのは、えむだった。
えむ曰く、経営の勉強のために、世界を飛び回る必要が出てくるらしい。
その期間は大体5年間。
だから、未来に向けての希望があるうちにタイムカプセルに込めて、
最初の頃の思い、初心を、5年後にまたみてみたい。
えむは、そう言っていた。
異論は、誰もなかった。
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「うーんと。このあたりかな?」
「ああ、多分な。マーク付が間違ってなければ、ここだろう」
不自然な旗が刺さっている箇所に、スコップを入れていく。
あれから、5年。
紆余曲折、色々あったが、こうして無事会うことができた。
お陰様で多忙な毎日を送っているが、刺激的で、とても楽しい毎日になっている。
きっと、類もそうだろう。
……類は類で、色んなところに引っ張りだこで。
休みの日も、機械を触りまくり、らしくって。
正直、類よりも寧々の方が、会っている回数が多いといっても過言ではないくらいになっていた。
今の類はちゃんと休みが取れているのか疑問に思うほど、顔色がよくなかった。
まあ、慣れない徹夜を経験してしまった自分も、人のことを言えないんだろうが。
なんて考えていたら、ガチンと、何かが当たる音が聞こえた。
「おや、見つかったかい?」
「みたい、だな。……お、出てきた」
ゆっくりと取り出した箱の土を払いながら、お菓子の缶を取り出す。
「お待たせ。お茶買ってきたよ」
「あ、2人とも、見つかったー?」
掘るのに4人もいらないだろうということで、飲み物の買い出しをお願いしていた2人も帰ってきた。
「ああ。それじゃあ、開けるか」
お茶を受け取ると、そっと缶の蓋を開けた。
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「司くん、ちょっと聞いてもいいかい?」
「ん?なんだ?」
「……司くんの、タイムカプセルの中身って……」
「はは、やっぱり類はわかるか」
タイムカプセルの中身は、お互い見えないように、袋に入れていた。
今はもうそれらを取り出して、解散したところだ。
流石にお互い、見せられないものも入っているであろうと思っての配慮だったのだが。
だが、類は気づいていたのだろう。
袋の大きさ、袋の歪み具合から。
それに、何が入っているのかを。
そっと、オレの袋から取り出したもの。
それは、プラスチック製のロボットの玩具だった。
「まさか、司くんがそれを入れているなんて思わなかったよ」
「初心に戻るために、という名目だったからな。これがいいんじゃないかと思ってたんだ」
そう言いながら、玩具を撫でる。
これは、オレが類と一緒に作った玩具だった。
ロボットの製作工程と共に、玩具のロボット作りが体験できる工場があるんだと、類に誘われて参加したのだ。
製作工程の説明は、ちんぷんかんぷんだったものの。
類と一緒に作った、世界に1つだけのロボットは、オレの大切な宝物になった。
でも。
大切だからこそ、これは埋めておきたかった。
オレは、叶わない恋をしている。
とっくに諦めていて、風化するのを待つだけの感情だ。
でも、オレがただ持っておくには、少しそれは重すぎて。
だから、オレの思いごと、埋もれてくれないかと。
そう思いながら、ロボットを埋めていたのだが。
(結局、上手くはいかなかったな)
忘れていたと思っていた、感情は。
埋もれていたロボットと共に、また顔を出していた。
他のことは忘れっぽいのにな。
なんて思いながらなでていると、背中に何かの凹凸を発見した。
「……??なんだ、これ?」
「え?司くん、それのこと忘れたのかい?」
「?ああ、記憶にないな。なんだ、これ……?」
首を傾げながら押し込むと、手に持った人形から、ザザっと、音質の悪い音が聞こえた。
『……き、だ……』
「え、本当に忘れたのかい司くん、それ、」
『……すき、なんだ……るい……』
「…………は?」
思考が、止まった。
今。
今、なんて。
「……司くん。その玩具、録音機能があるんだよ。……その様子だと、それにすら気づいていなかった、みたいだけど」
「ろく、おん……」
思い返せば、少しだけ記憶に残っている。
思いごと埋めるために、あのロボットを抱きながら、思いを吐き出していた気がする。
でもまさか、それが録音されているなんて、思いもよらなかった。
「忘れてくれ」
類がこれ以上口を開く前に、言い放つ。
類の顔を、見る勇気がない。
俯いたまま、オレは言葉を紡いだ。
「昔のことだ。言うつもりもなかった。気にしないでくれ」
「……今は、違う。そういうことかい?」
「………………」
「その無言は、僕の好きなように捉えてもいいのかい?」
何を言っているんだ。
そんなことすら、いう気力もなかった。
否定、できないのだ。
久しぶりに湧いてきた感情が、あまりに重すぎて。
類を自分のものだけにしたいという思いが、溢れてきそうで。
今にも、どうにかなってしまいそうだった。
どうにか、なってしまいそう、なのに。
「司くん。」
なんでこいつは、さらにどうかしてしまうようなことを、してくるのか。
俯くオレを、そっと抱きしめて。そして。
カチッ
『……未来の僕。きっと、諦めてなさそうだから、託させてもらうよ。』
『きっと未来の僕は未だに、司くんのことが好きだろう?彼を、幸せにしてあげて』
「…………えっ」
ハッとなって、顔をあげる。
そこには、あの日、一緒に作った、玩具のロボットと。
少し顔を赤くした、類の姿があった。
「駆け出しの俳優が、演出家が、恋にうつつを抜かせるかと言われたら、そうじゃない気がしてね。司くんも、僕も。」
「だから僕は、自分の思いを、彼に預かってもらって、それを埋めていたんだ」
「5年後、僕も司くんも、夢が叶うのは難しいけれど。絶対に一緒にいるから、きっと大丈夫だろうってね」
まさか、こんな形になるなんて思いもよらなかったけど。
なんて言いながら、類が笑う。
類の顔から、目が離せない。
「改めまして、司くん。」
「好きです。僕と付き合ってくれませんか?」
「…此方こそ、喜んで。」
そっと手をつなぎ、触れるだけのキスをする。
埋もれていた思いは、もう、埋めなおす必要はなさそうだ。
そう思いながら、そっとロボットの玩具を撫でた。