桃娘的なパロディ復員しても、周囲に馴染めず、一人戦争を引きずったままの東堂。
戦争で顔に大きな怪我を追い、まともな職にも着けず、生来の好戦的な性格のために、やがてはヤクザに雇われる用心棒となる。
そして、ヤクザの親分に紹介されるまま怪しげな屋敷の用心棒として働くことになった。
詳しくは聞いていないが、屋敷では人には言えないことが行なわれているらしい。屋敷の離れにいるのは特別な血を持った人間だそうだ。その血は甘く、不老長寿の効果があるという。その稀血を求め、素性を隠した客が夜な夜な屋敷を訪れる。眉唾の妙薬で商売をしているわけでないことは直ぐに分かった。色めいた声が聞こえたこともあった。中では常識では考えらないことが起こっている。
そこにいるのは年若い男で、無理やり連れてこたれたらしい。初めは泣いてばかりで酷く可哀想だったと、おしゃべりな女中が教えてくれた。
屋敷の警護は東堂にとって酷くつまらない仕事だった。金払いの良さだけでここにいるが、そろそろ潮時だと感じた時、東堂は囚われた男と出会ってしまった。
さぞ儚げな男かと思えば、確かに顔は美しいが、気位が高く、口を開けば嫌味ったらしい男だった。
男の名は加茂憲紀。
東堂と加茂は次第に心を通わせていく。
「逃げないのか?」
「逃げたとて、ここ以外では長く生きられない。無駄なことはしない」
「つまらない男だ」
「それでいいのだ。生きる意味はとうにない。血を分け与え、いずれ身体まで失い、死ぬのだ」
「俺はお前と生きてやってもいい」
「なんだそれ。偉そうに……」
二人で逃避行。
血はどんどん不味くなり、いつしか誰も二人を追わなくなった。