博士とアンドロイド近未来、ロボットの存在は珍しいものではなくなった。彼らは人に作られ、人と共存し、社会にはなくてはならない存在にまで発展を遂げた。
メイドロボットから産業ロボット、戦闘ロボットまでその種類は多岐にわたる。
日本にはロボット工学の第一線に立つ家系がいくつかある。保守派の加茂家では、問題行動を起こした不適格品の研究が盛んに行われている。
次期当主の座が確定している憲紀の研究室に一体の不適格品が搬入された。報告書には戦闘型とあったが、鑑賞用のような体格、比較的グレードの高い人工皮膚が使用してある。それでいて、顔の大きなケロイドはそのままになっていて、初見からなんともちぐはぐさを感じる仕様になっている。
筐体は既に厳重に拘束されている。表には、A-O-Iと殴り書いてある。
「A-O-I?…アオイ?」
加茂が呟くと、隣の楽巌寺博士が訂正した。
「Iではなく、1だ。A-O-1。android ominous 1(アンドロイド-オミナス-ワン)、まさに、このアンドロイドは不吉な一体なのだ」
「不吉…ですか?」
「そうだ。こいつは、言うことを聞かん。その上、人間を傷つけ、己を傷つける」
「三原則すべてに違反していますね」
「そうだ…君には悪いが、こいつを頼む」
「分かりました」
筐体を拘束したまま、コントロールプラグを繋いで起動させる。鈍い羽音のような音が鳴る。そこまで古い年式ではないのに、起動が遅い。その間に報告書を読む。
戦闘型。もとはボディーガード用として富裕層向けに開発されている。そのため、見た暮れ重視の外見かと納得した。筋骨隆々とした体格、高性能な人工皮膚は、ロボットらしい存在を嫌がる人間向けか。問題は数え切れないほど。暴力行為が目立つ。
ギッとケーブルが軋む。
「離せっ」
深い紫色の瞳が鋭く睨む。
「おはよう。起動は久しぶりかな?」
「知るか。誰だテメェ…」
「私は加茂憲紀。ロボット研究者だ。お前は?」
「名前なんてねぇ」
「そう、なんて呼べばいいかな?A-O-1?…さっき、Iと1を間違えてね。あぁ、アオイでどうだろうか?」
「好きにしろ」
「そうか。じゃあ、アオイ。暫くの間、私に付き合ってもらうことになる。よろしく」
「イヤだね」
筐体を拘束している金属が不穏な音を立てる。今にも引きちぎる勢いだ。
好戦的。感情の制御不能。
「先が思いやれるな…」