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    いろあ🍫

    @16amiranda

    ウツハン♂、うちよそ、ラハ光🐰♂(予定)

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    いろあ🍫

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    2021年9月12日発行のウツハン♂アンソロジー様に参加させて頂いた時の小説再録です。
    すけべよりまともな話の方が恥ずかしいとか無い???()

    #ウツハン♂

    休息はきちんと取りましょうカムラの里は現在、百竜夜行によって安寧を脅かされている。


    俺の元で修行をしていた愛弟子が、晴れてギルドからハンターとして認められてから早くも半年が経とうとしていた。名をチヅルと言い、漆黒の髪に黒翡翠の瞳、スラリとした体躯にどこか中性的な顔立ちをした子だ。彼の武器は操虫棍で強かさとしなやかさを合わせ持ったこの武器はまさに愛弟子にピッタリの武器だった。
    討伐、捕獲クエストを順調にクリアし合間に採取クエストや依頼も熟しながら、武器と防具の生産と
    強化を繰り返し自分に合う武器を探していた。
    つい先日、迅竜を討伐し新たな武器を誂えたと嬉しそうに話してくれた。今後、それが彼のハンター生活を支える武器になるのだろうと思うと俺まで嬉しくなった。
    百竜夜行が迫る中、現役ハンターが愛弟子のみのこの里に彼への期待が高まっていた。それに対し、愛弟子は懸命に応えようと努力する。優しく、誠実で、己を律し鍛え上げるあの子の姿は美しかったし、師匠としても彼を想う一人として誇らしく思っていた。
    しかし期待に応えようとするあまり、時に愛弟子は無理をする事がある。正に今そんな状況だった。

    「愛弟子を休ませてほしい?」
    コクコクと何度も頷きながらそう言って来たのは、彼のオトモアイルーのだいずだった。隣にいるガルクのあずきもキュゥンとか細く鳴いている。
    二匹の主人である俺の愛弟子だが、今は操虫棍の新技の特訓中だ。新技のヒントになると思い、それに相応しいクエストを用意したのは師匠である俺だった。イソネミクニとアケノシルム、この二体の動きは舞うが如く、華麗に襲い来る。ちょうどその二体の討伐クエストがギルドから派遣されたため、操虫棍にとって最良のお手本となるだろうと思ったのだ。
    実際、愛弟子はクエストを用意した側からすぐに準備をして寒冷群島へと赴いた。つい数時間前には帰還していて、休めばいいのにあの子は新技が編み出せそうだと楽しそうに俺に報告した後すぐに特訓に移ってしまった。
    しかし、ヒントを得たからと言ってすぐにそれを自分の物に出来るかと言えばまた別の話だ。威力の出し方やどのタイミングで発動するか、それに伴った翔蟲とスタミナの管理方法。モンスターとの距離。考える事は山積みだった。
    かれこれ三時間は修練場に篭っているとの事で、そろそろあの子を休ませなければ、と思っていた所に彼のオトモ達から要請があったのだ。何でもオトモ達には帰って来てからは暇を出し、一人で特訓をしているからとだいずが心配そうに項を垂れた。
    「旦那さんは頑固ニャ…言っても聞かないニャア。でもウツシ教官の言う事なら聞いてくれるニャ!」
    お願いしますニャアと少し泣きそうな顔でだいずとあずきは一緒に俺に頭を下げた。だいずもあずきも、愛弟子が修行を始めたばかりの頃に雇われた子達だった。俺のオトモであるデンコウとライゴウを見本にして貰いながら、ハンターとは何か、オトモとはどういう役割でハンターの何をサポートすべきなのかを一緒に学んだ。そのお陰でお互いに信頼関係がしっかりと築かれてきた。だからこそ、オトモ達はあの子を気遣い敬い共に切磋琢磨しようとしてくれるのだ。
    俺はだいずとあずきを安心させるようによしよしと頭を撫でる。大丈夫だよ、と落ち着かせ必ず休ませると約束した。
    ───大切なオトモ達に心配させてしまうなんて、お説教も必要だな愛弟子よ。
    オトモ達と俺の心配を解消すべくさっそく修練場へと向かう事にする。しかしその前に茶屋に寄り、あの子が好きな味のうさ団子を幾つか見繕い竹の水筒を二つ用意して冷たいお茶、温かいお茶と両方を淹れて貰う。うさ団子と水筒の包みをヨモギちゃんから受け取り、再び修練場へと足を向けた。


    「はぁっ!ええい‼」
    修練場に到着すると愛弟子の荒々しい掛け声と息遣いが響いていた。件の迅竜の素材から作った操虫棍をくるくると器用に振り回し、カラクリ蛙に攻撃をぶつけていく。時々、猟虫のエキスを回収して操虫棍の鋒を地面に突き立てる。跳躍して近づき体全体を回しながら操虫棍の突進切りを当てていく。 まるで演舞のような華麗な動きが実に見事で、指導した立場からも俺の欲目から見ても惚れ惚れとしてしまう。
    しかしその後の攻撃が続かないのか、それともスタミナ切れなのか、編み出したという新技は繰り出されない。それでも愛弟子は攻撃を繰り返す。何度も何度も。
    ずっとぶっ通しで続けていたのか、体は汗だくで額から浮き出た雫が頬を伝い顎からポタポタと地面に流れ落ちている。操虫棍を握り締めた掌は、握りすぎて血豆が出来て潰れたようでじわりと血が滲んでいた。それでも彼は止まらない。止まれないのだとわかる。
    里の期待を一身に受けたあの子はそれを糧に誰よりも努力する。この里で生まれ育ち、ハンターを志すようになってからの愛弟子の成長は目紛しい。 だからこそ思うのだ。いつか、その期待に押し潰されて自分を見失い、あの子が壊れてしまうのではないか。愛弟子には、そういう危うさがあった。
    「はぁ…ッ、はぁ…ッ」
    ガツッと操虫棍の根本を地面に突き刺し、肩で息をする彼の姿は痛々しく、そろそろ限界が近いようだ。何より、俺がそんな姿に耐えられそうにない。
    「そこまでだ、愛弟子」
    彼に駆け寄り、静止するよう声を掛けた。それに反応した愛弟子の動きがピタリと止まる。
    「……教官」
    こちらに振り向いた彼の表情は、驚きと疑問を浮かべていた。なぜここにいるのかと顔が訴えているようだったが、それを口にする前に愛弟子の体がふわりと傾いた。
    「お…っと、大丈夫かい?」
    咄嗟に地面にぶつかる前に抱き留める。全身汗と土埃で汚れておりボロボロの状態だ。俺の装備も汚れてしまうが構やしない。
    「フラフラじゃないか。もう休むんだ愛弟子よ」
    「けど、まだ…」
    「駄目だよ」
    まだ、と紡ごうとした言葉を遮る。彼の結んでいた髪は動きすぎて解けており、汗で額に張り付いていて視界が悪そうだったので退けてやる。
    「俺が教えたハンターの基本、忘れたのかい?」
    愛弟子にそう問い掛けると彼は酷くバツが悪そうにそっぽを向く。これは俺がずっとハンターとしてこの子に口酸っぱく諭してきた言葉だった。
    「ハンターの基本は?」
    「…食事と睡眠」
    「その通り。でもキミはその基本を怠っているね?鍛錬も大事だけどまずは休息が先だよ」
    愛弟子が目線を逸らした。その顔は不満そうで、早く新技を使いこなしたい気持ちは理解出来る。 お説教は聞きたくないのだろうが、聞いて貰わねばならない。
    「キミのオトモ達がとても心配していたよ」
    だいずとあずきの名を出すと目を逸らしていた愛弟子は思わずといった表情で俺を見上げた。
    「あいつらは、その…」
    「分かっているよ。キミはオトモ達を連日クエストに連れて行っていたから、たくさん休んで欲しかったんだろう?けれど、そこにキミもいなければ意味が無いよ?」
    この子もこの子でオトモ達を気遣っていた。通常のハンター業務も熟しながら里守としても百竜夜行から里を守らねばならない。それがどれだけ大変かなんて考えなくても分かることだ。だからこそ休める時に休まなければ、いざという時に動けない。 ハンターとはいえ人間の体はひどく脆いのだ。
    「オトモ達にちゃんと謝るんだよ?」
    「…はい」
    「あと、三時間も特訓に付き合ってくれた修練場のアイルー達にもお礼をすること!いいね?」
    少しキツめに言うと、愛弟子はついにコクリと頷いた。俺はそれに満足して彼の頭をよしよしと撫でる。
    「素直で偉いね、愛弟子よ!」
    「ちょっとっ、俺もう子供じゃねぇんだから!」
    愛弟子は撫でる手を振り払おうとするが、そんなことで俺の撫で回す攻撃からは逃れられないのだ!残念だったな愛弟子よ!
    「愛弟子は頑張り屋さんだな〜!」
    「…っ、アンタ本当いい加減に…!」
    煩わしそうな態度を取っているが、この子は存外頭を撫でられるのが好きだ。わしわしと動物を撫でるような手付きから慈しむように優しく撫でれば、どこか満更でも無さそうな表情に変わった。それが堪らなく愛おしくて、暫く手が止まらなかった。


    近くの水辺で土埃で汚れた顔と体を手拭いで清め、汗がじっとりと滲むインナーを脱ぎ予備のインナーに着替える。比較的軽装なカムラノ装備に身を包んで髪を結わえている彼を見届けながら、チヅルのために用意したうさ団子をバリスタの乗るやぐらの上で広げた。
    包みを開くと色とりどりの串に刺さったうさ団子が入っている。どれもあの子の好きな味だ。竹の水筒に入ったお茶を二つ取り出した所でチヅルが翔蟲を使い、やぐらの上に登って来た。
    「わ、美味そ…」
    余程腹が空いていたのか、うさ団子を見た瞬間にくうぅ、と腹の虫が鳴いた。随分と可愛らしいその音にくすりと笑みが溢れてしまった。それが恥ずかしかったのか、チヅルは少し頬を赤らめながら目線を逸らして俺の隣に腰を降ろす。
    その態度に再びくすくすと笑う。彼がこちらをじっとりとした目で睨んでいるのを感じるが、正直そんな表情をされても可愛い以外の何者でもない。
    「…何で笑うんだよ」
    「キミが可愛いから」
    不満げに洩らした彼の言葉に、素直に思った事を言っただけなのだが再び目線を逸らされてしまった。今度は頬の赤らみも先程より色濃い。そんな愛々しいチヅルに邪な心が覗きかけるがぐっと堪える。
    「ふふ、ごめんね?はいこれ」
    お詫びと誤魔化しのつもりでうさ団子を渡す。またじと、と睨みながらも空腹には勝てず素直にそれを受け取り頬張った。もくもくと食べる姿はなんだか小動物を思い起こさせる。
    「…っ!」
    「どうしたんだい?」
    「あっつ、舌ヤケドした…」
    喉を潤そうとしたらしく、二種類ある内の水筒から温かいお茶を選んだようでそれがまだ熱かったらしい。舌をちろりと出して少し赤くなったそれを俺に見せてきた。その仕草に無性に何かが込み上げてきて、衝動的に身を乗り出してチヅルの口を塞いでその舌をぺろりと舐める。
    ハッと気づいてすぐに唇を離したが、彼の顔は既に真っ赤に染まっていて羞恥と怒りでふるふると震えていた。やってしまった、と思った時にはすでに遅い。頭をゴツンッ!と思いっきり拳で殴られてしまった。
    「痛っ!痛いよチヅル!」
    「うるさいッ、このすけべ!なに盛ってんだ‼」
    「だってキミが煽るから!」
    「どこがだ⁉アンタの勘違いだバカウツシ‼」

    ぎゃいぎゃいと煽った煽らないのくだらない師弟の口喧嘩を止める者はいない。それから暫く言い合いが続いたが、その後急に静かになった修練場で何が起こったのかは、カラクリ蛙しか知らないことだった。


    終わり
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