零れおちるコトン、と高い音を奏でながら酒が並々と注がれていた杯がテーブルに転がった。上質な酒の品の良い香りが卓上に広まり、鼻腔から脳内まで染みてくる。
「公子殿?」
どうかしたのかと、異変を感じ取った硬い声音に震えそうになる肩を、卓の下に隠れた拳を握りしめて堪えようとした。
自分が男性性だけではなくSubの性を持っていると判明したのは少年から戦士へと変貌して数年が経ってからだ。戦いの世界に身を置き己を鍛えることに熱心な男にとって、かの性が持つ被虐の衝動など鍛練の合間に発散されてしまうものだったのだ――つい最近までは。
なまじ肉体も精神も並外れた強度を手に入れてしまった戦士ではそこらのDomで満足することもなく、時折溜まりそうになる欲求も抑制薬で散らしてしまえた。だから『公子』タルタリヤがダイナミクスであることに苦労したことはない。
2495