行きつけの店で仕事終わりの一杯を注文し、グイッと呷る。
カウンター上に出された酒は普段と何も変わらない筈だが、何だかあまり味が感じられない。
いや、今の自分にはそれを楽しむだけの余裕があまり無いという事を、アルロー自身も分かっていた。ここ数日でめっきり増えた溜息が、今夜も口から漏れてしまう。
──アルローは悩んでいた。
メル・ゼナやガイアデルムといった脅威を退け、漸くエルガドにも見慣れた青空が戻ってきた矢先の事である。
キュリアの残党やモンスターの傀異化など、当面の問題はまだ残っているが──アルローの悩みは、それとは全く別の件だった。
カムラの里の英雄、猛き炎。
フィオレーネに伴われてエルガドにやって来たアラタという少年は、一連の元凶でもあったガイアデルムの討伐に至るまでとても尽力してくれたし、今もなおバハリの調査に手を貸している。性格の方も少々生真面目ではあるが、基本的に人懐っこく、その若さや善良性から庇護欲を掻き立てられるせいか、エルガドの皆から可愛がられるようになるまで、そう時間は掛からなかった。
だがそんな彼が。人畜無害そうなこの少年が。アルローを悩ませる大きな要因となっていたのである。
『俺……アルローさんの事が、好きです!』
数日前、アラタの口から発せられた告白。
これが単なる友好の表れなら何の問題も無かったのだが、アラタ曰く、そうではないらしい。本人に話を聞く限り、友情の類ではなく、アルローに対して恋愛感情を抱いているのは間違いないと。真っ赤な顔で、辿々しく語ってくれた。
しかし全くの寝耳に水……という訳でもなく。むしろ彼から寄せられている好意には、アルローも薄ら気付いてはいた。それをのらりくらりと躱しているうちに、アラタの方からとうとう気持ちを伝えられてしまった訳だが、これに対してアルローは、未だ答えを返せずにいる。
拒絶して、断る事自体は簡単だ。しかしそれでは、彼をひどく傷付けてしまう事になるだろう。
可能であれば──そう、アラタの方から諦めて欲しかった。こちらが突き放すよりも、彼自身の意志でこの件を白紙撤回する方が、精神的なダメージも少ないだろうと考えたからだ。更に打算的な話をすれば、今後もエルガドでアラタと協力を続けていくなら、なるべく穏便に済ませたいというのもある。一方的に拒むだけでは、恐らくそれは叶わない。
また、アルローの懸念はもうひとつあった。今回の件でアラタが落ち込んだりと明らかに様子が変わった場合、ウツシ教官を始めとした周りの人間が、その原因を問い質すのは想像に難くない。嘘をつくのが下手な彼の事だ。本人が誤魔化そうとしても、恐らく無駄な努力に終わるだろう。
アルローとアラタ。二人を並べて、どちらに非があるのかと第三者に言わせたら──
答えは明白である。十中八九、自分だ。
告白してきたのはアラタの方からだと主張したり、アラタが必死に庇ってくれたとしても。それでも『若者の心を弄ぶな』というガレアスからの説教や、アラタを取り囲んで慰めているフィオレーネら女性陣に冷たい視線を向けられるのが、ありありと目に浮かんできてしまう。日頃の行いや態度というものは、本当に大切だと思い知らされる。
……面倒な事になっちまったな。
空になったジョッキを置くと同時に、またしても繰り返される溜息。
昔は派手に遊んでいた時期もあり、見かねたガレアスから苦言を呈されたのも一度や二度ではない。あの頃のように奔放に振る舞えたら、もっと簡単にアラタの事も切り捨てられたのだろうが──流石のアルローも年を重ねて少々丸くなった事に加え、田舎から出てきたばかりの生娘のような彼を雑に扱うのは、あまり気が進まなかった。
そもそも自分がアラタを何とも思っていなければ、これほど悩む必要も無かった筈なのに。
エルガドで接しているうちに、共に狩猟へ向かう回数が増える度に、少しずつ変化し始めたアラタの態度。そんな彼の表情や声音はアルローから見ても分かりやすい程だったし、気付けば自分も、懐いてくる少年を好ましく思うようになっていて。
俺もおまえさんが好きだよ、と両手を広げて受け止めてやれたら、どんなに喜ぶ事だろう。
けれど、それは駄目だ。まだ若い彼には、もっと相応しい伴侶が現れるに違いない。同性で、しかも年老いた自分などより、もっともっと──
「……アルロー教官?」
唐突に背後から名を呼ばれ、ハッとする。
スツールに腰掛けたまま少し振り向いてみれば、どこか心配そうな面持ちでこちらを見つめている、赤毛の青年の姿があった。
「おう、ジェイか。どうした」
「ええと、オレもちょっと飲みに来たんですけど、アルロー教官の様子がおかしい……いえあの、何か思い詰めてるように見えたから、気になっちゃってですね」
後ろ頭を軽く掻きながら、ジェイが苦笑を浮かべる。
人の良い彼の事だ。言い方は少々引っ掛かるところもあるが、自分を心配してくれているのは間違いないだろう、とアルローも理解していた。
「隣、いいですか?」
「構わねぇが一杯おごれよ」
席に着きながら、うっ、と小さく呻くジェイ。それでも師が軽口を叩ける事に安心したのか、二人分の酒を注文すると、アルローの方に向き直り、
「もしかして……なんですけど。この前の話が関係してたりします……?」
この前の話というのは、詳細を暈かしながらもジェイに相談した、アラタ絡みの件だろう。理解の早い弟子で助かるぜ、なんて事を思いつつ、アルローも頷き返す。
「まぁ……そんなところだ」
「やっぱり! で、何か進展があったんです?」
先程までの心配そうな表情は鳴りを潜め、急に輝き始めるジェイの瞳。
こいつ……俺が心配だってのは建前で、本当は面白がってるんじゃねぇだろうな……?
弟子への信頼と感謝の念を、ちょっぴり撤回したくなる。
アルローは何とか気を取り直し、新しく出された酒に口をつけ、ぽつりと呟いた。
「……実は向こうの方から、好きだって言われちまってよ」
「ええ~~~~っ!?」
「バカ! 声がでけえ!」
「よ、良かったじゃないですか。アルロー教官だって、その人の事、嫌いじゃないんでしょう!?」
「言っただろ、問題が山積みだって。だから」
断るつもりだ、とアルローが告げると、ジェイはまた驚きの叫びを上げそうになり、慌てて声を潜める。
「でも……それで諦めちゃうの、勿体なくないですか? それに勇気を出して告白してきた相手の方だって、可哀想ですよ……」
うるせえな。分かってるよ。
内心こっそり悪態をつくアルロー。
アルローさん、と自分の名を呼びながら、いつも嬉しそうに笑っている少年が。自分の一言で悲しそうな──泣き出してしまいそうな表情に変わるのなんて、想像するだけでもあまり気分のいいものではないのだから。
無言となった二人の間に、気まずい沈黙が訪れる。
喧噪の中、酒をちびちび口にしながら、しばらく考え込んでいたジェイだったが、
「あ」
急に小声を漏らし、アルローの眼前で人差し指をぴっと一本立てた。
「いっその事、付き合ってみるっていうのはどうです?」
「おまえ……人の話聞いてたか? どうやって断ろうか悩んでるんだよ俺はよ」
渋い顔をするアルローに、ちっちっち、と人差し指を振ってみせるジェイ。
「いえいえ、いきなり恋人として本格的なお付き合いを開始するんじゃなくて、お試し期間ってやつを設けるんです」
「なんだそりゃ」
「身も蓋もない言い方をすれば、試用期間みたいなものですかね……? 本当に二人でやっていけるかどうか、デートを重ねたりして、相性を見極めるんですよ」
「……へぇ」
「ちょっとズルい手かも知れませんが……ひとまず返事は先延ばしにできますし、何よりお互いの知らなかったところをもっと知れるというか、それによって印象の変わる可能性もありますからね」
「…………」
正直、悪くないと思った。
何だかんだ言って、アラタも年頃の男子だ。
アルローと過ごしているうちに、アラタの考えていた交際とはイメージのずれを感じたり、自分のような老いぼれより、やはり年齢の近い若者の方が、美しい女性の方が良いと思う可能性も高いのではないか。そして向こうの方から『やっぱり無かった事に……』などと申し出てくれれば、アルローとしても勝ち確、万々歳である。
「……そうだな。少し様子を見るっていうのも、アリかも知れねぇな」
「うんうん、そうですよ!」
アルローの呟きを耳にして、ジェイもホッとしたように息を吐く。
「ありがとよ。おまえさんのおかげで、少し気が楽になったわ」
「お役に立てたなら、何よりです。でも……」
「ん?」
「オレはおふたりが上手くいくといいなって思ってますよ。頑張ってくださいね!」
白い歯を見せ、ニッと笑うジェイに苦笑して。
さっそく明日にでも実行する決意を固めたアルローは、僅かな安堵と共に、ジョッキの中身を一気に飲み干した。
* * *
翌朝、アルローは普段よりも気持ち早めに部屋を出ると、エルガド内でアラタを探し歩く。
以前はアラタの方から朝の挨拶をしてくれたものだが、ここ最近──というよりも例の告白があってからは流石に恥ずかしかったり気まずいようで、積極的に顔を出す事は無くなっていた。
彼が立ち寄りそうな場所は大体把握しているし、できればクエストに出発する前に捕まえて、話を付けておきたい。アルローがエルガドの施設を順番に巡っていると──
雑貨屋の脇で、クエストの準備でもしているのか。
置かれたボックスの前に立ち、身支度を整えているアラタの後ろ姿が目に入った。
「おい」
近寄って背後から声を掛けると、驚いたようにピャッと肩を竦め、ゆっくり振り向くアラタ。
「あ、アルローさん……」
「ちょっと、いいか」
雰囲気から、アラタの方も何か察したのだろう。はい、と神妙な面持ちで頷き、歩き出したアルローの後ろを素直についていく。
向かった先は、船着き場の片隅。周囲に人気がない事を確認すると、アルローはおもむろに口を開き、
「この前の話だけどな」
「…………」
海を見つめながら話すアルローの隣で。
ぎゅ、と両こぶしを握り締めたアラタが、身を硬くした。
「正直言って、俺は戸惑ってる。おまえさんは嫌いじゃないが──その、なんだ。付き合うとかそういう話になると、また違ってくるだろ」
「……はい」
アルローの言わんとしている事を、アラタの方も理解はできるのだろう。しょんぼりした様子で頷くアラタを横目に、アルローは少しわざとらしく咳払いをすると、
「……だからな。とりあえず、お試し期間ってやつを設けてみるのはどうだ?」
「おためし……ですか?」
「ああ。何でも若いもんの間じゃ、そういうのがあるらしいぜ。正式に付き合う訳じゃねぇが……一緒に過ごす時間や出かける機会を増やしてだな、正式な恋人同士になれるかどうか確かめるんだとよ」
アルローの顔を見上げ、キョトンとしているアラタを、アルローからも見つめ返して小さく笑う。
「どうだ、俺らも少しやってみねぇか? もっと互いを知る、いい機会にもなるだろ」
「……は、はいっ! よろしくお願いします!」
先程の落ち込んだ様子から一転し、アラタの表情がパッと明るくなった。恐らく彼はアルローの言葉を真に受けて、交際を前提にしたものだと。アルローが前向きに検討してくれているのだと思っているのだろう。
無邪気に喜んでいる少年を前に、ほんの少し胸が痛まなくもなかったが──
悪いな、これもおまえさんの為なんだ。
胸中で謝罪しつつ、これからチッチェ姫のところに行くというアラタを見送って。肩の荷が下りたところで、アルローも桟橋を後にする。
自分の提案は了承して貰えた。後は適当にやり過ごしながら、彼の心変わりを待てばいい。その筈なのに。アルローの気分は晴れるどころか相変わらず燻ったままで、足取りも重かった。
アラタの純粋な好意や期待を裏切る事への申し訳なさ、罪悪感。
それらを振り払うかのように、アルローは小さくかぶりを振るのだった。
* * *
アルローの提案を受け『お試し期間』を開始してから、およそ一ヶ月。
基本的には以前と同じような日々を過ごしつつも、二人で狩猟や食事に赴く回数は若干増えていたし、何より一番の変化は──アラタがアルローの部屋を度々訪れるようになった事だろう。アルローの料理レシピを教えてもらいながら一緒に夕飯を食べ、軽くお茶をして自室に戻る。そんな至って健全なやりとりではあったが、アラタは楽しそうにしていたし、アルロー自身も穏やかなひとときに癒され──
いや待て。
癒されてちゃ駄目なんだよ、馬鹿野郎……!
ソファに腰掛けていたアルローは僅かに俯き、両手で顔を覆いながら息を吐く。
この状況に慣れ始めてしまった自分もアレだが、アラタもアラタで年配男の扱いが妙に上手く、二人きりになった時も、その辺の若者よりよっぽど落ち着いてしまうのが良くなかった。カムラの里長やギルドマネージャーのゴコク、武器屋のハモンなどといった手合いを日頃から相手にして、慣れているせいに違いない。
そして肝心要のアラタの様子も、一ヶ月前と何ら変わっていなかった。むしろ余計に懐かれてしまった感すらある。
このままではまずい。
当初の計画通りに行かないのでは……という焦燥感に駆られ始める。
俺と──男と付き合うという事が、果たしてどういう事なのか。アラタには少し教え込んだ方が良いのかも知れない。だがお試し期間中に身体の関係を持ってしまうのは、止めておいた方が良いだろう。酸いも甘いも知っているような相手ならともかく、初心な少年なら尚更だし、何より円満な解決が出来なく──
「アルローさん、洗い物終わりました!」
横手から掛けられた声に思考を中断し、慌てて顔を上げる。いつの間にかキッチンから戻ってきていたアラタが、ソファの近くに佇んでいた。
「お、おう。ありがとよ」
「いえ、俺の方こそ、いつもお茶までご馳走になっちゃって……じゃあ、今日はそろそろお暇しますね」
また明日、と言って部屋の扉に向かうアラタだったが、
「──アラタ」
「はい?」
アルローに名を呼ばれて振り向き、足を止める。アルローもソファから立ち上がり、彼の元へと近付いた。不思議そうな顔でこちらを見やるアラタの肩口に手を掛けると、そのままぐっと抱き寄せる。
「……!」
突然の行動に驚いたのか、息を呑んで硬直するアラタ。
初めて抱き締めたアラタの身体は、アルローが思っていたよりだいぶ小柄で、頼りなかった。年齢の違いもあるのだろうが、筋肉の付き方だってジェイに比べたら全然甘い。まだまだ細い。英雄だの何だの言われていても、やはりまだ十六歳の少年だと、つくづく実感させられる。
一方のアラタは動揺こそしているものの、アルローの胸の中でおとなしくしていた。慌てて身を離したり、アルローを突き飛ばすような事もなく、無言のまま俯いている。彼の表情を見る限り、緊張こそしているが決して嫌ではない。そんな風に思えた。
こりゃあキスのひとつでもかましてみないと、駄目か……?
少し荒療治にはなるが、犬に噛まれたとでも思って諦めてもらおう。もっと取り返しのつかない事をして後悔するより、マシな筈だ。多分、きっと。
「アルロー……さん?」
抱き締められたままの沈黙に耐えかねたのか、おずおずとした声と共に、アルローの顔を見上げるアラタ。アルローはそんな彼の片頬に手を添え、薄く開いたままの唇を自分のそれで塞いでやった。
「……っ……!?」
アラタの肩がびくんと大きく跳ね、瞳が驚愕で見開かれる。
だが先程と同様、嫌がる素振りを見せたりはしなかった。それどころかアルローの背にゆっくり両手を回し、ぎゅ、と上着を握り締めてくる。
「は……ぁ、んぅ、あるろー、さんっ……」
キスの合間に漏れる、アラタの小声。普段よりも鼻にかかった、どこか甘さを感じられるその声を耳にしていると、軽くキスして解放してやるつもりだったアルローも、やがて行為に没頭し始めてしまう。
最初は啄むように優しく繰り返されていたキスが、だんだん激しさを帯びてくる。二人の口から粘膜の絡み合う音が漏れ、荒い息遣いが部屋の中に満ちていった。
「……アルローさん、アルローさ……ぁん、っ……」
不慣れなキスに喘ぎながらも、必死に縋り付いてくる少年が愛しいだなんて、思ってはいけない事なのに。だがそんな考えとは裏腹に、彼を抱き締める腕の力は強くなっていく。
……そうだ。
俺だって本当はこいつを手放したくない。
このまま共に過ごす事ができたら、それはどんなに──
がくり、と。
突然アラタの膝の力が抜け、脱力したのが分かった。抱き締めていたお陰で床に取り落とす事はなかったが、慌ててキスを中断し、アラタの具合を確かめる。
すっかり上気した顔に、とろんとした瞳。一応アルローの方を見てはいるが、その目は焦点が合っていない。
おい、と呼び掛け、頬を軽く数回叩く。すると呆けていたアラタもハッとしたような顔つきになり、同時に先程までのやり取りを思い出したのか。赤面したまま俯き、目を伏せる。
「立てるか?」
「……っ、は、はい!」
こくこくと頷き、アルローからゆっくり身を離すアラタ。
まだ少しフラついてはいるが、自力で立っている姿にひとまず安堵して。一応、彼に問い掛けてみる。
「嫌じゃ……なかったか?」
「え、えっと。ちょっとびっくりしたけど、その」
全然、嫌じゃなかったです。
ふにゃりとした笑顔で答えるアラタに、アルローも不意を突かれて固まっていると、
「お、俺、今度こそ帰りますね。おやすみなさ……いてっ!?」
慌ただしく踵を返したかと思えば、勢い余って部屋の扉に激突する。ぎょっとしているアルローを背に、いてて……と鼻頭を押さえたアラタは、よろめきながらも何とか部屋から出て行った。
次第に遠ざかっていく彼の足音。
扉の側で佇んだままのアルローは、己の作戦がまたしても失敗に終わった事を知る。
キスで流石のアラタも引くかも知れない。男同士だなんて無理だと思うかも知れない。
抱いていた淡い期待は、アラタの返答で完全に打ち砕かれた。それどころか先程のキスの最中、何とかして押し殺そうとしていた自分の本心にも気付かされてしまった。アラタを自分のものにしたいという欲望に。
──そう。
あんな風に求められ、幸せそうな顔で笑うのを見てしまったら。
このままアラタを受け入れてしまっても、良いのではないか。
そんな考えが、頭を過る。
そもそも本人が付き合いたいと言っているのだから、俺は何も悪くない。両想いだ文句あるか。
開き直りにも似た言い訳を並び立て、同時に自分が駄目な大人だという事を実感しながら。
近いうち、あいつにもう一度確認を取ろう。
以前と気持ちが変わってないなら、その時は、俺からも──
また、さっきのような笑顔を見せてくれるだろうか。それとも全く別の反応を示すのだろうか。
ほんの少し、先の未来。
アラタの表情をあれこれと思い浮かべるアルローの口元は、自然と笑みの形になっていた。