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    kumaneko013

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    kumaneko013

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    匂わせアデアレちゃんです。
    アデくん一切出てきませんが私が書くものなのでアデアレです。
    すみませんこういう匂わせ大好きで…。

     空の裾野が少しずつ白み始めた頃。
     宿屋の一室──そのベッドの中で、レックスはひとり葛藤していた。
     こんな早くに目を覚ましてしまった原因の、尿意と戦いながら。
     素直に起きてトイレに行った方が良いのは分かっているが、いかんせん面倒臭い。それに何と言っても、この暖かなベッドから出たくない。顔に当たる空気がこんなにも冷たいのだから、部屋の外、ましてや廊下などは推して知るべし、である。
     けれど尿意を堪えたまま、再び眠りに就く事も出来そうになかった。いや、例え寝付けたとしても、その後に膀胱の限界が来てしまったら──
     流石にこの歳でシーツに地図を描くのは、絶対に避けたい。
     クロエやスカーレットの蔑むような、呆れたような視線。アレインだけは馬鹿にしたりしないだろうが、それでも苦笑いを浮かべている姿が脳裏に浮かび、
    「あ~、畜生……」
     悪態をつきながらも、レックスはむくりと身体を起こした。

     部屋を出て、右手伝いに廊下を歩く。
     しん、と静まり返った宿の中では、床が軋む音もやけに大きく聞こえてしまう。宿で働く人間はそろそろ起き出してくる時間かも知れないが、仲間達や他の宿泊客は、まだ殆どが夢の中だろう。なるべく足音を立てないよう注意して、静かに進んで行く。
    「さっむ……」
     冷え冷えとした廊下の空気に、思わず身体が縮こまる。何か上着を羽織ってきた方が良かったかも知れないな、と後悔しても遅かった。
     廊下の先はいわゆる丁字路のようになっており、通路が左右に分かれていた。右に曲がれば更に客室が続き、左に曲がれば階段があった筈だ。階段の方に向かおうとしたレックスだったが、不意に右手側から人影が現れ、ぎょっとする。
     それは向こうも同じらしかった。薄暗い視界の中、こちらの顔を見て驚いていたのは──
    「……アレイン? なんだ、びっくりさせるなよ……」
     見知った人物だった事に安堵して、小声と共にホッと息をつく。どうやらお互いに足音を忍ばせていたせいで、気付くのが遅れてしまったようだ。アレインの方は未だ少し動揺しているのか、どこかぎこちなく笑って、
    「お、おはようレックス。今朝はずいぶんと早いんだな」
    「いやあ、しょんべん行きたくなって目が覚めちまってさ。アレインもか?」
    「あ……ああ。そんなところだ」
     ひそひそ声で会話をしつつ、寒いもんなあ、と笑うレックスに、アレインも漸く笑顔を見せる。けれどレックスは怪訝そうに眉を顰め、
    「っていうかアレイン、その声どうしたんだよ。すっげー掠れてるけど……もしかして風邪か?」
     起き抜け──という事を差し引いても、アレインの掠れ声は気になった。
     解放軍の中でも特に酒を好む連中が、飲み過ぎた翌朝に声をガラガラに枯らせているのは何度か見た事はある。しかしアレインはまだ酒を嗜むような年齢でも、ましてや隠れて飲んだりするような酒好きでもない。なら、他に原因がある筈だ。
     心配そうなレックスの問い掛けに、うっ、と身を強張らせ、何故か口籠もってしまうアレイン。彼は少し視線を彷徨わせてから再び口を開き、
    「え、ええと、その……そうだ、ゆうべは部屋が乾燥していたからかも知れないな……! 風邪ではないと思うから、大丈夫だよ」
    「そっか。でも本当に風邪引いたりしないよう、気をつけろよ? ジョセフ様に体調管理がどうとか言われちまうぞ」
    「うん、ありがとう」
     アレインの言葉を聞いて、レックスも納得したように頷く。
     だが、この場が今よりもう少し明るかったら──レックスも別の違和感に気付けたかも知れなかった。
     礼を述べ、微笑むアレインの頬が、ほんのり赤く染まっている事に。そして彼の首筋に、複数の赤い跡が散らされていた事に。

     短いやりとりの後、このまま自室に戻るというアレインの姿を見送って。
     レックスは当初の目的を果たすべく、再びトイレへ向かうが──
    「……ん?」
     廊下を左に曲がり、階段をとんとん下りながら。ふと疑問が湧いた。
     てっきり、アレインはトイレに行った帰りなのかと思っていたけれど。トイレがあるのは、この下──そう、一階だけだ。先程アレインが歩いてきた廊下の奥は、解放軍の皆が寝泊まりしている部屋しか無い。なら、アレインは一体何を──
    「ん~……」
     ほんの一瞬だけ考えて。レックスは早々と結論を出す。
    「……ま、いっか。アレインがああ言ってたんだしな」
     先程の様子を思い返せば、何か隠している、もしくは誤魔化しているような気もするが、アレインの事だ。
     彼がこっそり悪事を働くような真似をする筈がないし、それ以上に親友を変に詮索したり疑う事は、レックスにとってもあまり気持ちの良いものではなかった。だからこの話はここで終わり、と自分なりに締めくくる。
     早く用を足して、暖かいベッドに戻ろう。そして起床時間ギリギリまで、しっかり寝直そう。ただし寝過ごさないようにしなければ。
     またクロエに怒鳴り込まれるのはゴメンだからな。
     彼女の怒り顔を思い出し、レックスは僅かに口元を綻ばせるのだった。



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