瞬きを何度か繰り返し、アレインは瞼を開けた。
部屋の中は薄暗い。まだ日は昇りきっていないようだが、仲間達に気付かれず自分の部屋へ戻るには、そろそろ起きなくてはならないだろう。自分をしっかり抱き締めたまま熟睡している目の前の人物に苦笑して、小さく声を掛けてみる。
「……アデル」
発した声が思ったよりも掠れていて、驚くアレイン。
原因はやはり昨日の……と、アデルから散々愛してもらった事を思い出し、顔が熱くなる。
そのまま少し待ってみたものの、アデルは目を覚ます様子がない。仕方なしにアレインはアデルの頬をぴたぴた軽く叩いて、もう一度彼の名を呼んでみた。
「ん……でん、か……?」
薄ら目を開け、漸く反応を返してくれたアデルに、にこりと微笑む。
「おはよう、アデル」
「おはよ……ございます……」
「起こしてしまってすまない。そろそろ部屋に戻るよ」
「……殿下」
「ん?」
「声、だいぶガラガラですね……?」
「……誰のせいだと思ってるんだ」
アレインからジト目を向けられるが、アデルはどこか嬉しそうに笑って『俺です』と即答した。
静かな室内に、衣擦れの音だけが響く。
乱雑に脱ぎ散らかしてしまった服は、袖を通すとひんやり冷たかった。
同じく服を着込んだアデルと共に部屋の扉前まで向かい、
「それじゃあ殿下、またあとで」
「うん」
アデルの言葉に頷き、アレインがドアノブに手を掛けた瞬間。
背後からアデルに抱き締められて、ノブを回す手が止まってしまう。
「すみません、もうちょっとだけ……」
耳元で聞こえた、アデルの小声。
もう少し一緒に居たい。
口には出さずとも、それはアレインも同じ気持ちだった。自室に戻らなければいけないと分かっているのに、アデルの腕を振り解く事ができず、思わずその場で俯いてしまう。
「……離したくないなぁ」
呟きと共に、アレインの首筋に顔を埋めるアデル。すう、とアデルに首筋を吸われている事に気付き、くすぐったいやら恥ずかしいやらで、
「こら、アデル……!」
思わず身を捩り、アデルの方に向き直って抗議の声を上げたものの──
「ん、っ……」
振り向いたアレインに、すかさずアデルが口付ける。
アレインが目を瞬かせている間にも、唇を割って入ってきたアデルの舌が口内を蹂躙し始め、アレインの舌を絡め取った。
「はっ……あで、る……っ」
口付けの合間に何とか彼の名を呼べば、最後にちゅっと音を立てて唇を解放したアデルが熱っぽい眼差しでアレインを見つめ、
「アレイン殿下……ぶっ!?」
再び顔を近付けようとしたところを、アレインの両手によって阻まれる。
「こ、これ以上は駄目だ!」
「えー」
「えー、じゃない!」
アデルの腕の中からするりと抜け出し、ドアノブを握り締めると、
「朝になったばかりなのに、その……またアデルが欲しくなってしまったら、アデルだって困るだろう……!?」
「別に俺は困りませんけど……」
「と、とにかく! 俺は部屋に戻る!」
一方的にそう告げて、まるで逃げるようにアデルの部屋から出て行くアレイン。またすぐに会えると分かってはいるが、扉の閉まる音がどことなく寂しく感じてしまう。
しかし朝食時に食堂で彼と顔を合わせても、自分は平常心を保っていられるだろうか。
……うーん。ニヤけちゃいそうだなあ……
そんな事を考えると同時に、先程のアレインの慌てた様子を思い返すアデルの顔は、既に緩み始めているのだった。