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    kumaneko013

    @kumaneko013

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    kumaneko013

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    しげさん宅のナガセさん、ハルカゼくん、ナガタさんの三人をお借りしての話です。アステルくんとナガタさんが買い物に出かける話…のはずがちょっと長くなってしまってですね…。
    話の中に出てくるネトゲは某11と14を混ぜたような感じのファンタジーRPGだと思って頂ければ!!

     本日の業務も全て終了し、帰り支度を始めていたアステルの元に届いた一件のメッセージ。
    「……ん、ナガセ先生から?」
     なんだろう、と思いつつ、スマートフォンに表示された文面に目を通し──緑色の双眸を瞬かせる。
    『良ければ今夜、うちで夕飯食べて行かれませんか』
     突然の誘いに驚きつつも、ナガセへと返信を送って。
     初等部の職員室を後にしたアステルは、ナガセと落ち合う場所となった正門へ向かった。

    「すみません、急に」
     正門の近くで合流するや否や、頭を下げてきたナガセ。そんな彼に慌てながら、アステルの方も両手をぱたぱた振ると、
    「いえ、ちょっとびっくりはしましたけど、今日は何食べようか迷っていたところだったから……俺としては非常に助かりますが、いいんですか? ハルカゼくんも大変なんじゃ……」
     アステルの問いに、ナガセは一瞬だけ口籠もり──軽く目を伏せながら、小声を漏らす。
    「……実は今日、ナガタの奴が部屋に来ているみたいで」
    「ナガタくんが?」
    「ええ。なので元々おかずを多めに作る予定だったらしいんですが、それなら普段の礼も兼ねてアステル先生もご一緒に、とハルカゼが」
     果たして自分はそんな感謝されるような事をしていただろうか、という疑問が過った。
     けれど同時に、ハルカゼがいつもの屈託のない笑顔で『みんなで食べたら、きっと楽しいよ!』などと言っている姿が、容易に想像できてしまい。アステルはナガセに向けて、ふふ、と小さく笑みを返すと、
    「そういう事なら……ありがたくご相伴にあずかろうかな」
    「良かった。これから一緒に戻ると、ハルカゼに伝えておきます」
     スマホを取り出し、何やら文字を打っているナガセを横目に、アステルはふとナガタの事を思い浮かべる。
     彼と最初に顔を合わせたのは、少し前からナガセやハルカゼと一緒に遊ぶようになったオンラインゲームの中だ。そして、彼に対する第一印象はというと──
     大胆かつ、思いきりのいい人物だな、というものだった。

     主に週末の夜、時々平日の夜にも触れるようになった、MMORPG。
     マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロール・プレイング・ゲーム──すなわち、大規模多人数同時参加型オンラインRPGである。世間一般には『ネトゲ』という名称で、一括りにされているかもしれない。
     初等部と高等部という違いはあれど、同じ学校に勤めているナガセ。彼と親睦を深めるうち、同居人でもあるハルカゼとも交友関係を結んだアステルだったが、そのハルカゼから『ね、アステルくんも一緒にゲームやらない?』と誘われたのが、プレイを始めたきっかけだった。当初は先輩でもあるハルカゼにいろいろ助言を受けていたが、今ではアステルもだいぶ手慣れたもので、空き時間に一人で遊ぶ事も時折あった。レベル上げやレアアイテム収集などの戦闘系コンテンツだけでなく、アイテム生産や家作り、釣りなどの生活系コンテンツも充実しているのが楽しくて、アステルの性にも合っていたらしい。
     そんな折、ハルカゼから『今日から一緒に遊ぶ人がひとり増えるんだけど……いいかな?』との打診があった。話を聞く限り、どうやらナガセとハルカゼの顔見知りのようだったので、アステルの方も深く考えずに了承した。彼らの知り合いなら、問題はないだろうと。そう思っていたのだが──

    『……ナガタだ、よろしく』

     ゲーム中、いつも併用しているボイスチャット。
     ヘッドホン越しに聞こえた声は、驚くほどナガセによく似ていた。
     ナガセとナガタ。名前だけでなく声まで似ているふたりに、アステルも最初こそ混乱したものの。彼らの会話を聞いているうちに、ふたりの微妙な差異にも気付き、何とか判別できるようになり始めた。
     やはりナガセの方は普段から聞き慣れている事に加え、抑えの効いた声ではあるが優しい印象を受ける。一方のナガタもナガセと似たような声質とは言え──少々ぶっきらぼうな話し方に加えて、どうもナガセ個人への当たりが刺々しく感じ、ある意味分かりやすかった。そして意外な事に、ナガセもナガタに対してはどこか険のある受け答えをしている。嫌味を含んだ言葉の応酬が続くと、ハルカゼが間に割って入り、仲裁をしていた。
     ひょっとしてこの二人、仲が悪いのだろうか……と危惧したが、もし本当にそうなら、ゲームで一緒に遊んだりしないよな。多分、きっと。そんな風にアステルが自分を納得させていると、
    『それでね、ナガタはパーティ組むのって今日が初めてなんだ。だからボク達でパーティプレイがどんな感じなのか、教えてあげようと思って』
     ハルカゼの言葉に、なるほど、と頷くアステル。
     それなら以前、ハルカゼが欲しいと言っていたアイテムのドロップを狙いつつ、ナガタの練習がてらダンジョンに向かうのはどうだろう……と提案してみたところ。三人とも頷いてくれたので、さっそく準備を開始する。
     ナガセが盾役、ハルカゼは回復役。そしてナガタは刀を武器とする高火力が売りのアタッカーだったので、アステルはひとまずサポート役に──剣もそこそこに扱え、攻撃魔法と回復魔法、そして補助魔法とどれもある程度の水準までこなせるが、本職には適わない。そんな支援職に回る事にした。
     パーティも組み終え、いざ四人で向かったダンジョン。
     道中はナガタが少々先行し過ぎる事もあったが、戦闘自体は彼のおかげで手早く片付き、順調とも言えた。
     しかしダンジョンの最後、ボス戦時に問題が起こった。
     途中で戦った雑魚敵とは違い、非常に体力の多い相手である。が、ナガタが開幕から全力で攻撃を仕掛けた為、ボスのターゲットがナガタに集中してしまい、ナガセが自分に引きつけようとしたところで見向きもしない状態だった。
    『ナガタ、ヘイトを稼ぎすぎだ。ちっとも剥がせん』
    『盾役なら何とかしろ。取り返せ』
    『あ~もう! アタッカーで柔らかいんだからタゲ取らないでよ~! ボクのMPなくなっちゃう!』
    『うるさい。早く倒せばいいだけの話だろう』 
     耳に入ってくる賑やかなやりとりに苦笑しながら、アステルもハルカゼのサポートに徹するが、回復した側から削られていくナガタのHP。結局、ナガセの仕事を奪う程に攻撃を喰らいまくり、ハルカゼのMPを湯水のように使っていたナガタは、挙句の果てにハルカゼから回復を放棄されて戦闘不能に陥っていた。
     メインの削り役であるナガタが倒れたとはいえ、その時点でボスの体力も残り僅かだったため、ナガセがターゲットを取り返した隙にアステルが攻撃魔法を叩き込み、何とか撃破には成功した。残念な事に狙っていたアイテムのドロップはなかったが、ひとまずクリアできた事に安堵する。そして安全な街へと帰還するなり、
    『お前、それでもヒーラーか』
    『悪いのはナガタでしょ! 何の為にタンクがいると思ってるの!』
     再び言い争いを開始する、ナガタとハルカゼの二人。
    『二人ともやめろ。アステル先生、すまない。一旦休憩を挟んでも良いだろうか』
     さすがナガセ先生、ナイス提案。
     心の中で賞賛を送りつつアステルが了承すると、
    『ほら、ハルカゼ。お茶でも淹れて飲もう』
    『……うん』
     茶の用意をしてきます、と恐らくハルカゼを伴って席を立ったナガセ。
     残されたナガタとアステルの間に、微妙に気まずい沈黙が訪れるが、
    「えっ……と、ナガタくん。ちょっと、いいかな」
     二人が離席しているのを逆にチャンスと捉え、思い切ってナガタに声を掛けてみたものの──
     なんだか初等部の生徒に、しかも少々問題を起こしてしまった子に接する時と同じような気持ちで、つい『くん』付けで呼んでしまったが、大丈夫だっただろうか。一抹の不安が頭を過る。
     何度も顔を合わせているナガセやハルカゼと違い、今日が初対面になる彼は、画面向こうの姿が全く分からない。恐らく彼らと同年代だとは思うのだが、二人の年齢と近いなら、自分より年上の可能性は大いにあるのだ。今更だが『さん』付けの方が良かったかな……と思いつつ、ナガタ本人からは特に何のリアクションもなかったので、ひとまず話を続行する事にした。
    「ナガタくんは、今までソロメインでやってたんだよね」
    『ああ』
    「そっか、じゃあ──」
     パーティ戦の場合、ボスのヘイトが安定するまで、開幕で全力は出さない。
     もしターゲットが自分に向いてしまった時は、防御バフを使う。
     なかなかボスのターゲットが盾役へと戻らなかったら、納刀するなどして攻撃の手を少し緩める。
     戦闘不能の時間があるならトータルで見た時のDPSは結局下がってしまうし、とにかく死なないのが一番だよ。
     あとアビリティを駆使して高ダメージを出すなら、こっちもバフやデバフを合わせるから。教えてくれると助かるかな。
     このような事を、落ち着いた声音で懇切丁寧に説明していくアステル。その一方で、黙ったままアステルの話を聞いているナガタ。話し終えてからも沈黙している彼の様子に、もしかして、余計な事を言って彼の機嫌を損ねてしまったかも知れない。そんな心配をし始めたアステルだったが、
    『……わかった。ありがとう』
     思いのほか素直に礼を述べてきたナガタに少々驚きつつも、安堵する。
    「あとナガセ先生のアビリティに、味方を庇うものもあったはずだから……ピンチの時はナガセ先生の後ろに隠れたら、助けてもらえると思うよ」
    『それは……』
     御免被りたい。
     顔は見えずともそんな雰囲気がありありと感じ取られ、つい小さく笑ってしまう。ナガタのプライド的に、あまり好ましい方法ではないのだろう。アステルもそれを予測して──ナガタが嫌がる事を承知の上で、口にしたところもある。彼の行動を抑えるための一手として。
    「ソロの時──特にアタッカーは戦闘がスピード勝負なのも分かるけど、パーティで行くような場所は敵のHPも増えて、攻撃も痛くなるからさ。でも一人じゃ取れないアイテムを入手できるってメリットもあるわけだし、その辺りは持ちつ持たれつでやっていこう。ナガタくんの火力も、俺はすごく頼りにしてるよ」
    『…………』
     アステルの言葉を吟味しているのか。
     先程と同じく、しばし沈黙していたナガタだったが──やがて『うん』という小さな声がアステルの耳に届いた。
     ナガセやハルカゼとの言い争いを聞いていた時は、正直不安もあったけれど。
     よくよく話してみれば、なんだ、いい子じゃないか。
     自分の中で、ナガタへの印象が変化していくのを感じる。
    「じゃあ俺も飲み物取ってこようかな。ちょっと離席するね」
     そう言って冷蔵庫へ向かい、ペットボトルの水を手にアステルがPC前に戻った時には、ナガセとハルカゼの二人も席に着いていた。まだ少し気まずい空気は残っていたが、アステルはあえて明るい声で、
    「さっきはハルカゼくんの欲しいアイテムも落ちなかったし、リベンジがてら、もう一回……どうかな?」
    『うーん、でも……』
    「大丈夫! ナガタくんとも作戦会議しておいたから!」
     先程のような状況になると、ヒーラーに一番負担が掛かるのも、それによってハルカゼがストレスを感じていたのも分かる。だがナガタと話してみた限り、次は多分大丈夫──最低でも、あそこまでの無茶はしないだろう。何となくではあるが、アステルにはそんな確信めいた予感があった。
    『アステル先生がああ言ってるんだ。ハルカゼ、もう一度行ってみよう』
    『……わかった』
     ナガセの援護射撃と、ひとまず了承してくれたハルカゼにホッとして。
     四人は再びダンジョンへと足を踏み入れた。



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