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    ねいび

    文章を置くつもりです。
    時々絵も置くかも。

    生産者は腐っています。
    各作品の注意書きに書いてある通り、閲覧注意なものが多いです。くれぐれも自己責任でお願いします。

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    ねいび

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    ひわちゃん視点でにびトキハゼ玄さんを語るやつです。

    ##TRPG

    至極家都内の立派な一軒家。住宅街の中に溶け込んで、しかし人通りの少ない深夜になってから、そこは不気味な黒服の集団が頻りに出入りする「拠点」としての姿を現す。
    しかし今は真昼間。僕はあたかも帰宅するような自然さで二段階に施錠された鍵を開け、脱いだ靴を揃えて上がり込む。

    芝翫組若頭兼至極組組長、至極玄の自宅にして、その直属、少数精鋭隠密部隊の本拠地。
    諜報活動取引仲介スパイ行為から暗殺ライバル潰しまで、ボスである玄さん独自のコネや交渉技術をもって、近年「情報」を商品兼武器に裏社会で勢力を増している、「芝翫組」にも「至極組」にも直接属さない、謎が多く孤立した不思議な集団。
    血腥い仕事も珍しくない。若手メンバーを中心に活動しているにも関わらず、格上相手のピリついた商談や、銃弾が飛び交う危険な空間にも慣れっこで、既に裏社会のダークな部分に浸り切り、皆もう一般的な「普通の生活」とやらを諦めている。
    そんな人間が集まる場所。一見ただの家に見せかけた、恐ろしい人間達の巣窟…。

    薄暗い廊下を進み、ゆっくりとリビングの扉を開ける。

    「おつかれさま」

    「来たな!!ひわちゃん、ちょうどよかった!!いまお昼できたとこだ!!食べるよな!!?」

    「いただこうかな」

    鮮やかな茜色が元気一杯に跳ね回る。辺りにはごま油の香ばしい匂いが漂い、とんでもない量炒められたチャーハンが大皿に盛られて食卓に運ばれていた。
    いくつかの取り皿が椅子の前に並べられ、リビングにて待機していた子や二階から降りてきた子がそれぞれの席に座る。

    「ちゃんとご飯食べるんだぞ!!!」

    明るい色味のふわふわの髪に、愛嬌のある笑顔と鼻頭のそばかす。そしてそのかわいらしい印象にそぐわない大きな体格。この家に家主と共に暮らしている古株で、玄さんが戦闘力において最も信頼を置くボディガード。
    彼女が女性であることを知る人間は少ない。何故ならトキちゃんは仕事中、それをひた隠すように顔と身体を隠し、一言も喋らず、ただ玄さんの横で威圧的に周囲の様子を窺って、「番犬」の役割を全うしているからだ。
    玄さんを絶対的に信じ、あの人のために尽くすことが自分の使命だと言い切って、本当に全てを至極玄ただひとりに捧げ、委ねる、半ば狂信者のようなその姿。
    ひとたび玄さんに「やれ」と言われれば彼女は充分過ぎるほどにその力を発揮して、標的にされたが最後、ソレは人の形も残らない。
    「至極の番犬」赤根鴇。過去一度でもその戦いぶりを目にした者は言う。「番犬に食われて原型を保てると思うな」…。

    しかし僕から見たトキちゃんは、お菓子作りが好きで身体を動かすのが得意なかわいらしい後輩だ。彼女が戦った後の片付けは少しばかり大変だし、怪我をすることも多くて心配になることは多いけど、こうしてお昼時においしいご飯を振舞ってくれたり、こんな僕にも懐いてくれる、無邪気で純粋な良い子なのである。

    「………」

    そして、そのトキちゃんに山盛りのチャーハンを渡されてそっとお皿の中身の五分の四を大皿に戻す寡黙な彼。色白、少食、不健康そうな目元の隈。シャツの余った袖から覗いた血色の薄く白い手首は、少々心配になってしまう程に細い。気だるげに首を傾げる度にさらりと揺れる真っ黒な髪や、長い睫毛が影を落とす青い瞳、そして、丁寧に手入れされた古い銀縁眼鏡。整ったビジュアルに哀愁やほの暗さを魅力的に纏う、彼は玄さんの右腕だ。
    にびくんは非常に有能で、得意分野の心理学のことだけでなく、幅広い知識を持っている。記憶力も良く、玄さんが交渉や対談等に向かう際は必ず彼が横に控えて、相手に怪しい挙動がないかをその鋭い眼差しで監視している。時には玄さんの代理としてそういった場へ赴いたり、重要な議題でも結論を彼の判断に委ねることを許されたりする程信頼を置かれている。
    いつ見ても仕事、仕事。そうでなくても何やら分厚い本を片手に心理学等のお勉強。皆彼が眠っている姿をほとんど見たことがない。どうやら過去のトラウマが原因で不眠症を患っているらしい。詳しいことは知らないけど、ここにいるような人間は皆訳ありなのだ。

    無口で無愛想、冷たく他人を寄せ付けない雰囲気を醸す彼。しかし僕は彼が冷酷な人間などではなく、不器用でかわいらしい一面があることも、案外世話焼きで面倒見がいいことも、度を越して優しい人であることも知っている。
    仲間達は皆、彼にもっと自分自身を大切にして欲しいと思っている。気遣いの鬼である彼が低く穏やかな声で口にする、心の底に溜まった澱をゆっくりと汲んでくれるような飾り気のない真っ直ぐな言葉に救われた仲間は沢山いるのだ。彼は皆に愛されている。残念ながら、にびくんはそういった自分への好意にだけは疎いようだが。

    バタン、どたどた、ガチャ

    「オァ!?いい匂いだと思ったら…ッくぁ〜こいつァナイスタイミングだったんじゃないの、オレちゃんもいただいていいかね??」

    うるさいのが来た。

    椅子を引いて座ろうという時もトキちゃんから取り皿を受け取ろうという時も全く途切れる気配すら見せないお喋りの権化。人間スピーカー、一方的無限ラジオ放送。その口の回りようといったら、例える言葉に事欠かない。黙ったら死ぬタイプのマグロなのかな。
    小柄な体躯を中性的な黒服で包み、派手な金髪を結い上げて、今日もバッチリのメイクで顔面をバチバチに整えた…マグロ系スピーカー。
    傍らにはギターのケースが置かれているが、中身は無論楽器等ではなく、恐らくライフル等の銃火器がしまわれている。
    知名度は低いものの、独自のルートで唯一無二かつ質の高いマニアックな武器を取り扱う、一部では人気の高い武器屋、仲介屋。ハゼは長年続くその店を継いだ当代店主であり、同時に暗殺業も請け負うスナイパーだ。一応、僕らの部隊に所属してはいるものの、基本単独行動で仕事も自分で取ってくる。玄さんと旧知の仲らしいが…どう見てもビジュアル的には良くて20代、下手すれば中学生にも見えなくはないため、ハゼの言うことがどこまで本当なのかは常に謎だ。
    しかし裏社会に長く関わっているのは事実なようで、僕がここに来た当時からベテラン面してこの家にいた。
    こういう世界に長くいると、誰でも擦れて曇るものだ。他人を損得勘定で見る癖がついて、物事を穿った視点でしか捉えられなくなる。「立場」というものの重要性が嫌でも身体に伸し掛るのだ。そしてその重みに耐えられなくなった人間から消えていく。
    しかしハゼはいつも軽やかで、何のしがらみも感じさせないいつものお喋りマシーンのままいとも簡単に他人に絡みに行く。そしていつの間にか仲良くなって、そして相手を「友達」と呼ぶ。それも表面的なものではない。「友達」なら大切にしないと、なんて、ごく普通の価値観をもって、先程出会ったばかりの人間のためだけに、損得抜きに走り出していく。

    ハゼのような人は、本人も知らず知らずのうちに、この世界に染まって疑心暗鬼の住み着いてしまった人間の心を少しばかり軽くしてくれる。
    ハゼの素性は玄さん以外誰も知らない。ハゼが本当は何を考えているかなど知る由もない。
    しかしそれでいい。そのままでいてくれればいい。
    不言櫨とはそういう人物なのである。

    「ンー、トキ、俺の分とっといてくれ。ちょっと出かける」

    「えっ!?!?玄さん、一人か??おれも…」

    「一人で十分だ。すぐ戻る」

    …玄さん。
    僕らが所属する部隊の直属の上司。我らがボス。
    背が高い上に体格も良く、長く伸ばした黒髪を緩くお団子にまとめていて、顔には傷跡があり、背中にはバッチリ墨が入っている。見た目からしてカタギじゃない。
    この部隊にいる子たちはその多くが玄さんに憧れていて、トキちゃんのようにほとんど盲信しているような子も少なからず存在する。確かにあの人には有無を言わせぬカリスマ性のようなものがあるし、言っていることもやっていることも革新的で、僕らへ割り振る仕事も完璧だ。何故この世界にいるのか分からないくらい頭が良くて優秀な人。立ち姿から魅力的で、何故か目を離せない人。

    でも僕はあの人が嫌いだ。

    個人的な恨みもある。しかしそれ以上に、あの人からは得体の知れない気持ち悪さを感じる。言語化できない違和感は、長く関わるほどよりその輪郭を暈していく。
    僕にはあの人が理解できない。もう考えるのも諦めている。きっとあの人は僕と同じ生き物じゃないんだと思う。もしあの人が僕と同じ人間だとしたら、それこそ寒気がするほどおぞましい。

    だから嫌いだ。何も分からないあの人に、まんまと憧れを抱きかけた自分のことも。

    僕は松葉鶸。この部隊の清掃班、医療班チーフ。ここに来てもう八年になる。
    ちなみにこの名前は偽名だ。本名はもうない。自分のせいで過去の全てを失った。

    自業自得だ。僕の全部、自分で投げ捨ててなくしてしまった。
    僕は愚かだ。

    「ひわちゃん?お腹すいてなかったか??」

    …この、僕を覗き込む綺麗な茜色が、狂気に染まって濁る瞬間を知っている。

    「………」

    静かに僕の表情から揺れる感情を見抜く彼が、激しい後悔と執念に生かされていることも。

    「ぁンだァ〜!?まぁた嫌いな野菜でも入ってたんか!!ガキじゃねんだからさァ〜」

    裏社会を一筋照らす小柄な光にだって、死ぬほど隠したい過去があるのだということも。

    僕は知っている。ここにいるような人間は皆訳ありなのだ。そう、かく言う僕自身も含めて。

    僕は知らない。「訳あり」な彼らが、こうして仮初の日常を過ごすために、笑顔、無表情、よく回る言葉で覆い隠した、その深淵を。


    「ん、ごめんね。考え事してた」



    どうか、もう誰も傷つきませんように。


    次の犠牲者が僕でありますように。





    終。
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