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    reika_julius

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    reika_julius

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    前回の続き
    まだまだ終わらない

    海ハミルツ第一章(2)「これとこれは価値のない石で、こっちは商人に見せたら高く売れると思うよ。」
    「よくそんなの分かりますね〜!」
    「まぁ僕の生まれた国では皆価値のある宝石を身にまといたがっていたからね。なんとなく分かるだけだよ。」

     日が落ちて明かりは手元のランプしかない状況の中ルイは宝石を判別し価値のない石を麻袋の中へ放り込む。出身の国では見たことの無いような石だからとりあえず価値が無いとしたがだからといって処分するのは早計である。変化する時代の中で綺麗なだけの石ころがとんでもない価値を持ち始めるようになるのをルイは幾度となく目にした。
     売れると判断した宝石は航海士が預かった。ルイ以上に商人と交渉するのがなかなか上手なのだ。

    「じゃああとは任せたよ。」
    「ええ、任されました!」

     舵を握りながら笑顔で返事をする彼は預かった宝石をポケットの中へと入れる。ある時まではルイが自ら商人と交渉していたのだが、何かとトラブルが多く交代した。ちなみにそのトラブルの果てについたあだ名が『水上のペテン師』である。

    「そういえば君は鳥のことは分かるかな?」
    「……え?あぁ、ハミングバードのことですか?すみません、僕はあいにく分からないですね……」
    「じゃあ鳥について詳しそうな人はこの船に乗っていたかな?」
    「えーと、そうですね……。」

     ルイがこの航海士を信頼しているのは四つ理由がある。
     まずひとつ目は教養のある人間だということだ。ルイとは異なる地域の出身である彼は商家の次男坊だったという。大学にも通っていたらしくそこそこ大きな家だったらしいが時代の波に攫われ没落し他国で路頭に迷っていたところでルイと出会った。
     二つ目は先述した交渉上手なことだ。商家出身ということもあり様々な国の言語を知っている上に商人に対する駆け引きが上手い。
     三つ目は航海士を任せられるということ。初めこそルイが航海士の立場を取っていたが彼はその知識にも精通していた為に自らの代わりを頼んだ。
     最後は人柄が良い事だ。温和な性格で不正などを進んで行わない。多くの船員とコミュニケーションを取り船員一人一人のことをよく知っている。ルイは個々の船員に対して有効な指揮を取ることは得意だがその人そのものを理解するというのは苦手だった故に航海士のそれには大変助けられている。

    「確かコックの……ほら船長と出身が同じだった人がいるでしょう?」
    「いやぁ相変わらず早いねぇ。」
    「彼の家は鳥を飼っていたと聞きましたよ。……あと樽職人の一人に鷹を飼っていたとか……それくらいですかね。」
    「そうかい、ありがとう。」

     このように船員のことを聞けば詳しく答えてくれるのだ。流石に入れ替わりの激しいただの水夫に関しては分からないとは言うが重要なポストについている者に関しては即座に答えを出す。ルイは航海士に礼を述べるとその場から離れて倉庫へ向かった。すっかり日が落ちて質素な夕食を済ませたこの時間帯だとコックも樽職人も倉庫に居ることが多いのだ。
     倉庫の扉を開けると案の定目的の二人が揃っていた。早速ルイは二人に声をかける。

    「やぁ、いきなりだけど君たちは鳥に詳しいんだってね?」
    「……いや、詳しいというわけではないんですが……」
    「誰から聞いたんですかそれ?」

     船長からの突然の質問に二人は困惑を示したがルイは気にすることなく本題に入る。

    「昼に保護したハミングバードがいるだろう?彼がどうやら翼を痛めてしまったみたいなんだ。こういう時どうしたら良いのか分からなくてね。船医だってハミングバードのことは分からないだろうし……」
    「はぁ……」

     コックは少し悩んだ後に分からないと答えたがどうやら樽職人の方は違うようで診てみないことには分からないという。ルイは改めて明日ハミングバードが目覚めた後に診て欲しいと頼み倉庫を後にした。今すぐにでも良いのだが熱を下げるために寝ているだろう、無理に起こすのは躊躇われた。
     それにしても、とデッキの上でルイは独りごちる。元々熱が下がれば逃がすつもりだったというのに翼を痛めて飛べないというのは本人には悪いが幸運だった。この船に長く置いておく大義名分が出来たのである。もっとも船に居続けて欲しいのならば手っ取り早いのは翼を治さない方法を探すことなのだろうがそれは空を知る彼にとって酷だろう。ルイは彼に嫌われたいわけではないのだ。

    「それに、きっと空を舞うツカサくんは凄く綺麗だろうしね……」

     吐き出した言葉は誰にともないルイ自身へのものだ。まだ一度も彼が飛ぶ姿を目にしていない。きっと初めて見るのが最後になるだろう。ため息をついた瞬間船が大きく揺れる。高波だった。この季節の海は荒れる。嵐に見舞われればどんな大きな船も木っ端微塵になってしまう。早く陸に戻った方が良いかもしれないな、と呟くとルイは近くにいた見張り番に嵐が近づいているかもしれないことを忠告し、後に航海士に伝えて欲しいと残してハミングバードが眠る自室へ戻った。

    ───────

     硬い床の上で目を覚ましベッドの上を確認するとツカサは健やかな寝息を立てていた。額に手を当てるとまだ熱は下がっていないようだ。それでも昨日まで荒かった呼吸は落ち着いており苦しそうな表情もないのでひとまずは安心だろうとルイは穏やかな笑みをツカサへ向けた。そのまま何も言わず部屋を出て見上げるとほどほどに雲が広がる空が目に入った。昨晩の波が気にかかるが空気も風も空もあまり変化は無い。船内も大きな変化はなく朝食として異常に硬いパンを胃に流し航海士と一言二言言葉を交わし航海図に手を加えた。

    「嵐が近づいているかもしれないんですね?」
    「うん、早めに陸に戻りたいところかな。まぁ停泊しているところに嵐が直撃することも大いに有り得るけれど……でも今日の天気を見ると杞憂に済むか……」

     嵐というのは恐ろしい。どんな船からも畏れられるルイであってもなるべくならば会いたくのない存在だ。一度遭遇すれば無事で済むことはほとんど無い上にいつ来るか完璧に予測するのは不可能に近い。

    「いや今の季節です、船長の予測はよく当たりますから……。このまま上手く風に乗っていけば5日で新大陸に着港出来ますよ。」
    「なら嵐とかち合う可能性は低いと思いたいね。」
    「いえ、そこで考えたんですがもうあの港で停泊してしまった方がいいんじゃないですかね?」

     航海士の提案にルイは目を瞠った。なるべくなら寄りたくない、それが次の港だ。だというのに何を言い出しているのか。

    「でもあの港は──」
    「船長の予測は外れたことは殆どありません。嵐の中航海を続けるかもしれないことを考えると先に停泊した方がいいと思いますね。交渉は僕が全てやりますから。」

      確かに。今までルイはなんとなく嵐の予報を当ててきた。それに今回のが外れていたとしてももうじき嵐が多発する季節なのには変わらない。船長としてどう判断するべきか。

    「…………うーーーーん、分かった、じゃあ次の港で一旦航海を終えよう。」

     珍しくルイが折れた。新しく線の引かれた航海図を彼に託し甲板で悩む。予定が狂ってしまった。次の港には少し立ち寄るだけで停泊するつもりは全くなかったというのに。陸に上がったらまずは商人との取り引きだ。その後稼いだ金を分配しこれからの航海の準備をする。次回の航海は新大陸からルイの生まれ故郷がある大陸までである。上手く風に乗れれば100日と少しで着くはずだ。100日分の食料、酒、人員、そして戦闘の為の火薬を用意するとなると幾ら必要だろうか。予定がズレた分どうしていくのが良いのだろうか。特にハミングバード─彼をどうするか決めなければならない。そうして潮風を頬に受けながら考え込んでいると甲板の上で急にどよめきが起こった。この場合大抵は大国所属の軍艦が現れた際の反応であることが多くルイは意識を船員に向けるが船員の目線は船の中にあった。はて、とルイは一瞬呆ける。軍艦ならばいつも船員は海の向こうを覗いているはずだ。しかし今回は船の上で何か異変があったらしい。皆より数秒遅れて視線を合わせるとルイはようやくその異変を理解したと同時に駆け出した。

    「ツカサくん、起きてたんだね!熱が下がっていないのに無理をしてはダメだよ!ほら僕に掴まって……」
    「る、ルイ…………!」

     異変の正体はハミングバードだった。痛むという羽を小さく動かしながらよろよろと壁を伝い歩いている彼にルイは両腕を差し出して受け止めた。船員達が珍しいルイの姿に意外そうな声をあげるが黙殺する。ルイの自室からそこまで遠い場所ではないが腕の中の彼は疲れたようで息が上がっていた。

    「すまない、その、お手洗いはどこか聞こうとしたんだが……」
    「僕が案内するよ、足は動かせるかい?」
    「……1人でも行けるぞ?」
    「ダメだって、船の上は揺れて危ないだろう。」

     1人でも行けるというのは強がりだろう。案内の間はひたすらにルイの腕に強くしがみついていて上手く歩けていなかった。こんな状態の彼を1人で行かせられる人がいるわけがないとルイはひっそりため息をつき遠巻きに眺める船員に持ち場に戻るよう指示を飛ばした。

    「ありがとう、ルイ。部屋に戻るまでは別に……」
    「ほら掴まって。僕の部屋に戻るなら尚更1人では危険だよ。ああ、そうだ、とりあえず起きたのなら翼を診てもらおうか。」

     ゆっくり負担をかけぬよう甲板へ戻り座らせてルイは近くにいるだろう樽職人を呼びに行く。案の定倉庫の傍で彼はのんびりと樽を作っていた。ルイがハミングバードの翼を診て欲しいと声をかけると彼は手元の作業を止めて立ち上がる。そのまま彼を連れてツカサの元へ戻っていると航海士がツカサに何かを話しかけているのが見えた。

    「どこに住んでいたんですか?他のハミングバードとか、居ました?」
    「え、えぇと……ここより南の方で、オレの他にも一応ハミングバードは居たが……」

     ツカサがただの船乗りだったらならばいつもの風景だった。航海士は必ず新入りには親しげに出身地などを聞く。いつもならばなんとも思うことのなかったその光景にルイは胸がざわつき無意識に足を動かして、

    「へぇ、どの辺か地図は分か──「ツカサくん、翼を診てくれる人を連れてきたよ。」

     あまりにも子供じみている─ルイはそう思いながら二人の間へ割り込んで会話を中断させた。あくまで己の醜い感情を悟らせぬよう満面の笑みで違和感のないように。航海士は何を思ったのかは分からないがルイに短く笑うと自らの持ち場へ戻って行った。

    「さぁツカサくん、翼を見せてくれるかな?」
    「え、ああ、あの、さっきの人は……」
    「彼かい?気にしなくていいよ。」
    「あのー、じゃあ診ますよ。」
    「右の翼がおかしいらしいんだ。」
    「分かりました、右ですね。」
    「……よろしく頼む。」

     樽職人が慎重に彼の右翼を触診すると昨日彼自身が痛みを訴えていた場所でやはり同じように痛みを訴えた。ルイは詳しいことが分からないのでただ眺めているだけだ。それから数分して樽職人は翼から手を離し簡潔に

    「折れてはいないようですが痛んでいるということは骨が歪んでいるのかもしれないですが多分すぐ治りますよ。心配なら添え木をしてあげるのがいいんじゃないんですか?」
    「添え木?君はそれが出来るのかい?」
    「大きさは違いますがまぁ鷹で慣れてはいますし、普段木を使ってますから器用さには自信がありますよ。」

     木ならこの船にあると樽職人はそう言って倉庫の方へ消えていった。されるがままでそれまで一言も話さなかったツカサは彼が視界から居なくなったあとに「凄いな」と呟く。ルイ自身も素直に感心していた。そもそも樽職人でありながら何故彼は鷹のことをよく知っているのだろうか。その答えを出す前に樽職人は細長い木材とロープのようなものを持って戻ってきた。

    「これで添え木を作って羽を固定すればそれ以上悪くなることは、多分ありませんよ。」

     早速ツカサの右翼に木材を当てて手際よく添え木を作る。慣れているというのは事実だったらしい。樽職人という仕事柄彼がいうように手先は器用だ。そんな中ルイは彼にようやく疑問をぶつけた。やはり気になって仕方ないのだ。

    「君はどうして鷹のことをよく知っているんだい?鷹狩りでもしていたのかな?」
    「そうなんですよ、よく分かりましたね。鷹狩りによく連れていかれまして、鷹の世話も自分でやってたんです。」

     ということは、とルイは驚きの声をあげた。何故なら鷹狩りというのは一般的に貴族が嗜むものだからだ。つまりこの樽職人は貴族出身という可能性が濃厚だということになる。そんなルイの思考を読んだように樽職人は「そうですよ。」と笑いながら言う。

    「訛りで分かると思いますが、俺はかの島国の出身でそこの伯爵家の三男坊ですよ。これで兄が優秀じゃなかったら俺にもチャンスがあったんでしょうけれど兄が2人ともこれまたすげぇ出来た人で……」
    「なんでこの海賊船に乗ったんだい?貴族出身ならいくらでも……」
    「俺は変わり者なんで。軍人や聖職者になるくらいならこっちの方が面白そうじゃないですか。」

     なるほど確かに変わり者だとルイは笑った。
     例え家が継げずとも貴族出身であれば下町の人間よりよっぽど楽に生きていける。だと言うのにその道を外れてしがない無国籍の海賊船に乗るというのは大変な変わり者であることに違いないのだ。ただし、ルイもその変わり者の1人であることを彼は知る由もない。

    「終わりましたよ。もし外れたりしたらすぐ治しますんで。」
    「ありがとう。助かったよ。」
    「すまなかった!!ありがとう!」
    「報酬は港に着いてからでいいですよ。」
    「そういえば、次の港で停泊することがさっき決まったんだ。その時上乗せするよ。」
    「ああ、わかりました。」

     無事に添え木が完成しちゃっかりと報酬の要求を済ませると樽職人はまた作りかけの樽へ戻っていく。一方翼が木で固定されたツカサは興味津々に添え木を触り感嘆の声をあげていた。

    「さて、ツカサくんは部屋に戻ろうか。僕の部屋は戻る時が1番危ないから必ず僕に一声かけてね?」
    「?どういうことだ?」
    「色々な仕掛けがあるんだよ。何せ船長室だからね。大切な物が盗られないように色々工夫してあるんだ。」

     ルイの部屋はとんでもない罠が張り巡らされている。あまりにも危険すぎるその部屋はこの船の幹部からの通称が伏魔殿になるほどのものだ。ツカサを寝かせておく以上彼が触れそうな場所の罠は片付けたが扉の罠は解除していなかった。もし何かあった時部屋から出るのには別の隠し扉を使うように書き置きを残したがもし気づかなかったりしていたら命の危機を引き起こしていたかもしれない。

    「と、いうわけでこれから入り方を教えるからね。一歩間違えると死ぬかもしれないからちゃんと覚えてね?」
    「えっ、し、死ぬのか?!」
    「手順を覚えたら大丈夫だよ。わからなくなったら何度でも教えるからね。」

     扉の前まで彼を連れるとゆっくり怪我をしないように扉の開け方を教えた。熱を出しているにも関わらず彼は飲み込みが早く1回教えるとすぐ覚えてしまった。そこまで容易な解除方法では無いのだが頭の回転が早い方なのかもしれないとルイは感心した。
     無事に解除出来た扉を開けて彼がベッドに入るのを見届ける。昨日よりは熱が下がり余裕が出てきたのだろう。彼は元気よくルイに色々と話しかけてきた。正直その話をずっと聞いていたい。そうは思うが彼はまだ本調子ではないのだ。ルイは彼にゆっくり寝るように言い聞かせる。

    「もう大分楽になったぞ?話すくらいなら平気だ。」
    「ダメだよ、ちゃんと熱を下げなきゃ。治ったら沢山話をしよう?」
    「むぅ……」

     ツカサは口を尖らせて不満の意を示すがルイは首を振る。眠くないといえども寝てもらわねば困る。そんな両者共に一歩も引かない中ツカサが何かを閃いたように目を輝かせながら「良いことを思いついたぞ」と状況の打破を試みる。当然ルイはそのツカサの閃きの詳細を訊ねた。

    「ツカサくん、何を思いついたんだい?」
    「うむ、それはだな!オレがちゃんと寝たら何かご褒美が欲しい!!」
    「ご褒美……」
    「あぁ!!」

     それは予想外の提案だった。ご褒美とは、とルイは考えを巡らせる。つまり報酬だ。ということは金銀財宝のたぐいにあたる。しかしこれまで働きに応じて分け前の量を色々変えたりしていたが寝るという行為にボーナスをつけたことはなかった。この場合は一体相場はどのくらいになるのだろう。

    「…………………………」
    「あの、例えばだな!ちゃんと寝たら明日羽を撫でてくれる、とか……」
    「……………………ん?」
    「そ、添い寝、してくれるとか……」
    「んん?」
    「そういう、ご褒美が欲しい!」

     ルイは唖然としたまま何も言わなかった。ご褒美になるのだろうか、それが。確かに幼少期は親から頭を撫でられたり添い寝をしてたりしていたが特にそれをご褒美だと思ったことは一度もない。しかしツカサを撫でたり添い寝したりはどちらかといえばむしろこちらのご褒美といってもいい。それは果たして彼に対するご褒美と純粋な気持ちで言えるのだろうか。
     無言のルイにツカサは不安そうに顔を歪める。

    「あ、あのすまん……!ちが、えーーとだな!そういうことではなく!」
    「違うのかい?」
    「えっと、すまん冗談だ……。悩ませて悪かった。」
    「待って!!…………僕は全然悩んでいないよ?君の翼を撫でるのも添い寝も出来る。」

     すごすごと翼を小さく折り畳んで布を被ろうとするツカサの腕を鷲掴みルイは必死に引き止める。海賊という職業はチャンスを確実にものにするのが重要だ。おそらくそれは海賊に限らないだろうが。とにかくルイはこの機会を逃せば後悔をすると本能のままにご褒美を約束した。

    「してあげるよ!寝て君が起きたあと!幾らでも!!」
    「い、いやオレ今のはちが……」
    「じゃあしっかり寝るんだよ!!熱を下げる為に!!」
    「あ、る、ルイ……!」

     ツカサの言葉を最後まで聞かずにルイは出口専用の隠し扉から飛び出した。壁に背をつけたまま長い息を吐く。まさかこんなことになろうとは、というのが今の心境だった。翼を撫でるのも添い寝もしてもいいというならいくらでもしたい。赤くなった顔を見られていないだろうか。きっと彼は奴隷船でのことや熱による体調不良でつい甘えてしまっただけなのだろう。そこに特別な感情は無いはずだ。自分だけがこんな邪な思いを抱えてる。

    「逃がせなくなりそうだ……」

     声は宙をさまよって木材の中に消えてゆく。あくまで彼は保護しているだけ。何度も自分に言い聞かせてきたというのに。
     甲板の方向から船長と呼ぶ声が聞こえる。さて航海の終了が早まったことは航海士が船員に伝えているだろう。ルイは呼び声を認識した後表情を一変させて甲板へ出ていく。ハミングバードに感情を振り回されようともこの海賊船の主はルイなのだと数分前の出来事を感じさせない態度はありありとそれを物語っていた。
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