教習所 十八になる春休み。自動車教習所に通い始めた。
交通の便が良くなったとは言え、やはり車移動の方が何かと便利だし、爺ちゃんとも遠くまで行ける。
バイトで貯めた三十万を納金して、今日から呪術自動車教習所に通うことになった。
「5番の人〜」
座学を終えて早速実技。
ファイルに挟まれた車体番号が呼ばれて「はい!」と返事をして車へ向かった。
銀髪に真っ黒なサングラスをかけた教官が担当だ。
「虎杖悠仁くんね。僕は、五条悟。よろしくね」
「よろしくおなしゃっしす!」
「へぇ〜九十度のお辞儀なんて礼儀正しいね。嫌いじゃないよ、そういう子」
見るからに軽そうで、上から目線なその教官は不思議な雰囲気がある。
なんだか初めて会った気はしない。人の顔は覚える方だし、こんな目立つ人忘れるはずないんだけどな。
じーっと見つめていると、口の端が上がりニコッと微笑まれる。やっぱり、会ったことねーか。
「まずはタイヤは空気が漏れていないか、ライトは付くかの車の確認からね」
「うすっ!」
タイヤもライトも確認して、車に乗り込む。
「そしたら、座席、ハンドルの位置を直して、ミラーを確認。あと、シートベルトも忘れないでね」
「うす!」
「左がブレーキ、右がアクセル。ブレーキ踏みながら、シフトレバーをDにする。そしてハンドブレーキを下ろす」
「うす!」
「よし、走ってみようか。場内は20キロ制限だから、制限時速は守る様に心がけてね。もしもの時は、僕がブレーキ踏むから安心して」
ちゃらちゃらした人かと思えば、ちゃんと教官だ。分かりやすいし、親しみやすい。
場内を一周して、時間はあっという間だった。実技も終わりの頃、五条教官が変なことを聞いてきた。
「悠仁はさ、彼女いるの?」
「俺?いねーけど。教官は?」
「僕もいないよ」
シフトレバーをPに入れ、ハンドブレーキも持ち上げて、この会話は終わった。
車を降りてから「じゃあ、悠仁。また実技出会えたら良いね」と声をかけられたけど、次回が誰かなんて俺は決められない。そりゃ教習所にいる限りはいつか会うだろうと「また、五条教官だと良いな!」と返した。
◻︎◻︎◻︎
実技2回目。
早く卒業できるようにと、座学はまとまった日を作って全て終えた。残るは実技のみ。
実技も連続でコマ取ってすぐに終わらせよう。この調子なら、予定より早く卒業できそうだ。
今日の車体は5番。前回も5番だったな。
(もしかして、五条教官だったりして)
とか考えたら口角が上がった。
「5番の人〜」
「はーい!」
と向かった先には、白髪のサングラス男性。
「あ、」
「あぁ〜悠仁〜!」
実技は久しぶりだし、教習所生も分からんくらいいるのに、五条教官は俺を覚えていた。
「また会えたね、悠仁」
「うす!今日もおなしゃす!」
俺の顔を見てニコニコしてる五条教官は、きっと生徒を覚えるタイプなんだろう。
車のチェックも終え、運転席に座る。シートベルトを伸ばして、ハンドルを握ろうとした時、シュルシュル…とシートベルトが元に戻ってしまった。
(あ、ちゃんと刺さってなかったんだ)
そう思って、再びシートベルトに手を掛けようとすると、教官の手が伸びてきて、自然な流れでバングルにカチャと音を立てて、差し込まれる。
「…ありがとう」
「はい。シートベルトは、後部座席も義務化されてるからね。後ろに乗る時も忘れずにね」
「うす…」
五条教官はやっぱり不思議な人。他人にこんなにも自然にパーソナルスペースを脅かされたことはなかった。
自分でも不思議なくらい、五条教官の隣は落ち着く。安心の間違いかな。
「ミラーも確認したね。そうしたら出発ー!」
「おう!」
講師だけど、フレンドリーだし、接しやすい。今日の実技もうまく行く気がしてきた。
アクセルを踏み込む。
「あ、20キロ制限は守ってね」
「うす!」