4人で任務 ブリーフィングコノエが隊長を任された作戦の開始日時まであと3日と迫っているこの日、ミレニアムはマリュー・ラミアス大佐を艦長とし宇宙へ上がる。
今回の作戦で使われる艦は地球軌道上に上がったミレニアムから光学迷彩をまとって発艦予定であるためコノエは今ミレニアムの副艦長として乗船している。
最終的な引き継ぎ、そして艦を実際に指揮してみてどうかという確認のためだけであり、明日には副艦長も留守を任せる隊員に任せることとなる。
コノエは軌道上で艦が安定したところでお伺いをたてた。
「ラミアス艦長、件の作戦のブリーフィングを行ないたいので席を外させて頂いても?」
「ええ、大丈夫です。ノイマン大尉の事宜しくお願い致します」
心配そうな表情の彼女に敬礼をし副艦長席を離れる。アーサーとアルバートに声をかけ、ノイマン大尉を探すと操舵席付近で操舵手の面々と話をしていた。耳を傾けるとどうやら質問に答えたりアドバイスをしている様である。
質問には的確に嫌な顔もせず答えているし、冗談でも言っているのか笑い声も上がる。ノイマン大尉の顔も楽しそうだ。面倒見の良い兄のようだとコノエは感じた。
少し観察していると不意にノイマン大尉がこちらに気づいた。表情を引き締めすぐに敬礼する。それに操舵手達も続く。
「ノイマン大尉、今よろしいかな?」
「はっ、問題ありません」
「件の作戦のブリーフィング今からやろうと思うんだが、ついて来てくれるかい?」
「了解いたしました」
ノイマン大尉は軍人らしい短く端的な言葉で返事をした。表情は引き締めたまま、先ほどの面倒見の良い兄のような雰囲気は霧散している。
「それでは行こうか」
そう言って床を蹴る。
ノイマン大尉は操舵手達に一言声をかけコノエの後を追って来た。
艦橋をでてブリーフィングルームに向かう。
同じコンパスという組織に所属はしているがアークエンジェルとミレニアム、2つの艦に分かれての活動だったため、ノイマン大尉の人となりは把握しきれてはいないが、
(自分より下の階級のものにリーダーシップがとれ、上官には従順。理想的な軍人の様だ)
上官に従順だからこそラミアス大佐の無理とも言える指示に従えたのかもしれない。そこにはもちろん自分が操舵している艦のクルーは自分の手で守り抜くという気概もあったのだろう。
彼のそういう気質がアークエンジェルを不沈艦たらしめた一因なのか。
そんな事を考えながら進めばブリーフィングルームは目の前である。
扉を開ければすでにアーサーとアルバートは部屋の中で待機していた。
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部屋に入り皆が大体テーブルの周りに集まる
「さて、僕たち3人は既知であるし、4人全員が同じコンパス所属だ。皆んな名前は知ってると思うけれど、」
とノイマン大尉に目をやれば彼は姿勢を正して敬礼をし挨拶をした。
「はい、アーノルド・ノイマン大尉です。今回の作戦で操舵手を務めます。宜しくお願い致します」
きっちりとした自己紹介である。
(やっぱりちと硬いなぁ)
これから2週間、小さな艦に4人で缶詰である。
いくら上官や年上ばかりと言っても気を張り続けるのは疲れるだろう。
もう少し肩の力を抜いて欲しいところだが。
(…どうしたものかなぁ。とりあえずは…)
「ありがとう、僕が今回の作戦で隊長を務めるアレクセイ・コノエ大佐だ。そして、探知機の設定設置をするアルバート・ハインライン大尉。あと色々する予定のアーサー・トライン少佐」
2人とも紹介に合わせて敬礼をしている。
「色々って!?僕に何させる予定なんですか!?」なんて言っているアーサーにアルバートが「少し黙って下さい」と返している。
ノイマン大尉を伺えば少し驚いた表情をしている。
ミレニアムではいつもの事だが上官であるアーサーにアルバートがかなり上からものを言うので驚いているのだろう。まぁ、アーサーでなければアルバートもここまで上官に無礼ではない。
(掴みは上々といったところかな)
「ところでノイマン大尉、お願いがあるのだけど、」
「なんでしょうか?」
気を取り直したのか表情は戻っている。
「君のこと、アーノルドと呼びたいのだけれど大丈夫かな?」
「えっ!?」
思っても見なかったお願いだったのだろう。驚きからかノイマン大尉から声が漏れた。
「あ、いいですねそれ!僕もアーノルド君って呼んでもいい?」
コノエの言葉にアーサーが続いた。
ここまで織り込み済みなので、アルバートに目配せをすれば、心得たとばかりにうなづき
「仲間はずれは嫌なので、私もアーノルドで宜しいですね?」
ノイマン大尉は驚愕の表情を浮かべている。
何か返事をしようとしているのか口は開いたり閉まったりを繰り返す。畳み掛ける様にコノエは話を続けた。
「ミレニアム艦内だと割とファーストネーム呼びが主流なんだよ。まぁ、ザフトからの人材が多いと言うのもあるんだが…、どうだろう、駄目かな?」
ノイマン大尉の性格からして上官からのお願いというのは断れないだろう。その言葉を受け、ノイマン大尉はそういうことならと了承の意を見せた。
「良かったよ。そうしたらこれから宜しくね
、アーノルド」
「…っ、こちらこそ宜しくお願いします」
アーノルドの頬は少し紅潮している。
「アーノルド君、ほっぺ紅くなってるよ?大丈夫?」アーサーが声を掛ければ、「いや、なんでもありませんから」と言いながらもアーノルドの頬はさらに紅くなる。「おおかたファーストネーム呼びが恥ずかしいんでしょう」とアルバートが言えば「辞めてください、ハインライン大尉!」と
焦った様なアーノルドの声が聞こえる。
これでアーノルドの肩の力は少し抜けるだろうか、この様子であればあまり心配せず良さそうである。
「さ、ブリーフィング始めるよ」
コノエが声を掛ければ3人はこちらを向いて仲良く返事をした。
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