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    sibapu_TRPG

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    sibapu_TRPG

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    これをこうして、手を出させるんじゃ

    千藤さんが送ってたIF ダメなとき、大石夜光はとことんダメになる。

     この男は自らの恥を晒すのが下手くそというか、吹っ切るのが致命的に遅いというか、弱みを隠そうと必死になるきらいがある。そんな恥を晒すぐらいなら死ぬと言い出すのが昔からの常だった。千藤に言わせれば、それぐらいで死ななければいけないなら警察はいらない、ぐらいの話なのに。

     とにかくそういうとき、何故か千藤にお鉢が回ってくるのもまた常だった。腑抜けたあの男をひとに任せっきりにするのも悪い、という千藤の生真面目さが裏目に出ていたこともある。

    「私が送っておきます。慣れてますから」

     千藤が手を引いて歩き出せば、夜光は抗うことなく従った。そのままトボトボとついてくる。「しゃきしゃき歩いて」と注意しても、やはり夜光の歩みは生まれたての子鹿みたいにふらふらしていた。重症だ、と千藤は溜め息をつく。



    ***



    「ほら、着いたよ」

     返し損ねていた鍵を使って、大石家のドアを開ける。中に入るよう促しても動かないので、仕方なく千藤が引っ張っていった。

     ほとんど投げるように夜光をベッドに寝かせる。ぼすん、と彼が顔面からシーツに沈み込む。これで仕事は終わり、あとは帰るだけのはずだった。

    「……離しなさい」

     夜光に服の裾を掴まれなければ。

    「まだ何か用?」

     無言。

    「話さないと分からない」

     無言。

    「大石」

     無言。

     千藤は深く、長い溜め息をついた。

    「夜光」

     ピクリ、と節くれだった指先が動く。

    「…………」

     夜光はシーツに顔を埋もれたまま、ボソボソと何かを言ったようだった。しかし声が小さ過ぎて聞こえない。千藤は仕方なく顔を寄せた。

    「っうわ!」

     それが間違いだった。

     服の裾を掴んでいた手が千藤の胴体に位置を変えて、そのまま夜光の懐まで持っていった。引き寄せられたのだと理解し、慌てて脱出を図る頃には男の両手が巻き付いて離れなくなっていた。うなじに当たる相手の呼吸が生々しい。

    「っ離し、なさい」

    「…………たない」

    「はあ?」

    「なんも考えたない」

     腰に回された手にグッと力が込められた。

    「……人肌が恋しいだけなら誰か呼べば。アンタ、こうなってるときは誰でもいいんでしょ」

    「誰でもええわけやない」

    「私じゃなきゃダメなわけもない」

     背後の夜光が押し黙る。図星だ。

    「……じゃあ何」

     やがて夜光が苛立ったように言った。

    「千藤さんしかアカンかったら許してくれんの」

    「え……や、それは、」

    「こんなん千藤さんにしかせん。千藤さんにしかできん。千藤さん以外に見せたことない」

     耳元で吹き込まれる熱の入った懇願に、千藤の思考が混乱する。夜光は普段「榊原さん」と呼ぶのだ。彼が千藤を下の名前で呼ぶのは、たしか、

    「助けてよ、千藤さん」

     明らかな意図を持って肌に触れるときだけなのだ。
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