薄くなったアイスコーヒーの理由【黒夜久】『仕事何時に終わる?』
ぽこんと間の抜けた通知音に慣れた手つきでスマホを操作すれば、恋人からのメッセージだった。親善試合前の合宿中のはずの夜久から連絡が来るのは珍しい。つい数時間前、練習場に顔を出した際練習中の姿を見かけたけれど、声をかけることも出来なかった。何かあっただろうか? と一瞬不安がよぎったけれど、怪我などの情報ならいち早く届くような職場にいる。そういう話は聞いていないから怪我などではないとホッと息を吐いた。
声でも聞きたいとか? だったらいいなと思ったものの、夜久に限ってそれはないかぁと肩を竦める。とりあえず、仕事を早めに片付けて、今会社出たとこって返事を入れた。
今日は車で来ていたので、眠気覚ましに乗り込む前にコーヒーでも買うかとふらりと駅前に向かう。目的のカフェの手前で返事をしたきりうんともすんとも言わなくなったスマホを手に信号待ちをしていたら、突然震え出した。液晶に映し出される名前は『夜久』。それを確認して、すぐに通話ボタンをタップしそうになった自分に待てをして、ゆっくり一呼吸。緩みそうになる口元に力を入れて、通話ボタンをタップした。
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