シャワーを浴びて、寝具の上に座らされた。
その隣にはルークが座っていて、ああとうとうこの時が来たのだなと、無意識にシーツをぎゅっと握る。
心臓が早鐘のように鳴る。身体がカッと熱くなったような、それでいて緊張のあまり手先から体温がなくなっていくかのようで、訳が分からなくなってくる。
ここまで、ルークがリードするまま着いてきた。ボクたちは手を繋ぐようになり、唇も重ねるようになり、そして、今。
この後どうなるか、経験はないけれど知識としては知っている。そのはずなのだけれど、事前に仕入れた様々な情報が頭の中でぐるぐる回って、回路が一向に繋がらない。
「緊張しなくていいよ」
ルークがくすくす笑って、強ばりきっているボクの頬を撫でる。
その手つきに少しの違和感。
「ね、ねえ……ルーク」
「ん?」
名前を呼ぶとボクを優しく見つめてくる緑の瞳と目が合う。愛おしげなその眼差しに自分の頬が更に熱くなる気がした。
「あ、の……気のせいだったらごめんなさい。その……ルークも、もしかして緊張してる……?」
ボクの問いかけに、ルークは先ほどからの優しい顔のまま。微動だにしない。
「えっと、手が……震えてる気がして」
ボクの言葉に反応がない。見当違いのことを言っているのかもしれない気がしてきた。謝ろうかと思ったその時、優しげな顔のまま固まっていたルークの眉が急に寄せられ、大きくため息をついた。
「……ダメかぁ……!!悟られないようにしなきゃって思ってたんだけどなぁ……」
そう言ってルークはヘナヘナとうなだれた。
「そう、カッコつけてたけど実はめちゃくちゃに緊張してる!ごめん!!初めてだからって僕の方がガチガチに固まってたら、シキはもっとやりづらいだろうなって思って隠してたつもりなんだけど、はぁ……。近くで見るとシキは本当に美人だよなとか、まつ毛が長いなとか色々考えちゃうとどんどん緊張してきて」
先程までの余裕ありげな雰囲気はどこへやら、ルークはいまや頭まで抱えてしまっている。
ボクはといえばそんな姿に驚くと共に、なんだか微笑ましいような気持ちが湧いてきた。
「気にしないで、ルーク。ボクも……さっきから生きた心地がしない位だったけど……ル、ルークも同じなんだって思ったら、安心したよ」
「シキ……」
ボクの言葉にルークは驚いたように顔を上げた。やがて、顔がだんだん緩んできて、笑みを浮かべた。
「そうだよな。お互い初めてなんだから、緊張するのも当然だよな。どうしてもカッコつけたくなっちゃって……。でも、もうやめておくよ。シキ。」
改めてルークはボクの名前を呼んで、ボクの頬に手を添える。先ほどよりは幾分か震えがおさまっているその手は、とても暖かかった。
キスしていいかと問われたので、頷くと唇を重ねられた。ちゅ、ちゅと軽く音を立てた後、いつものように離れるかと思ったけど、そのままぬるりと舌が侵入してきた。思わず驚いて肩をすくめてしまう。
驚いて顔を離すと、ルークはいたずらっぽく笑っていた。
「シキ。今日は僕も情けない姿とか色々見せてしまうかもしれないけど、シキの色んな姿も、僕に見せて欲しい。……いいかな?」
「ぁ……う、うん……。」
思わず頷く。ルークの瞳に、いつもと違った、獲物を見つけた狼めいた鋭く怪しい光が宿っている気がした。
ボクの返事にルークは満足そうな笑みを浮かべ、再びボクの唇を塞いだ。そのまま寝具に押し倒されながら、果たして今夜のボクはどんな顔をしてしまうのか、ルークはどんな表情を見せてくれるのか、期待や不安がない混ぜになった思考がぐるぐる巡る。ルークの初めて見る表情を見つめながら、ボクは寝具に沈んだ。