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    三点リーダ

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    マリオンと第13期の『ヒーロー』たちが対話をする雰囲気小話。

    14 キース・マックス「お、もういるのか。早いな~」


     暫く音沙汰の無かったドアが開く。やけに間延びした口調をしながら現れた人物――キース・マックスに、マリオンは厳しい視線を送った。


    「……遅刻だ」
    「あれ? そうだったか?」


     低い声で告げられた事実も、キースにとっては日常茶飯事であるらしい。特に気にした様子もなく、大げさなかけ声をかけながら椅子にだらりと腰掛けた。

     
    「オマエというヤツは……。どうして『ヒーロー』になれたのかが分からない」
    「そいつはよく言われるよ」
    「やる気はあるのか」
    「ある時にはある。ほら、能ある鷹は爪を隠すっていうだろ?」


     蔑んだ眼差しを向けるマリオンをものともせず、キースはへらへらとした態度でそう返す。

     
    「まぁ、そうだろうな」


     彼の態度に眉を寄せたものの、マリオンは自身を落ち着けるように息を吐き、不承不承といった表情で肯定を返した。するとへらへらしていた彼の態度が一変し、愕然とした表情でマリオンを凝視し始める。

     
    「いや、素直に認められるとそれはそれで困るんだけど……どんな風の吹き回しだ?」
    「最近、オマエの執着を見せつけられたばかりだからな。あの時のオマエを見れば、やる気がゼロではないと理解できないこともない」
    「執着?」


     本気で意味が分からないとばかりに呆けた表情を浮かべるキースに視線を向けたまま、マリオンが口を開く。
     
     
    「ディノ・アルバーニ」
    「……」


     無機質に告げられたその名前に、キースの表情から感情が消える。髪の隙間から覗く瞳は、剣呑な光を帯びてマリオンに向けられていた。


    「メンターとしての職務を放棄し、ルーキーを巻き込み、単独行動を幾度となく行った。アイツに関するオマエの言動は、正直理解が出来ない。家族でも何でもない人物に、あそこまで執着できるものなのか」
    「……俺には比較出来るような家族がいねぇから分からねぇな」
    「なら言葉を換える。――ただの同僚に何故そこまで出来た」

     
     茶化すように言葉を放り投げるキースを許さないとばかりにマリオンが追及する。互いの出方を窺うように沈黙したまま視線を交わしていた2人だったが、耐えきれなくなったのはキースの方だった。
     

    「確信してたからだよ」
    「確信だと?」


     復唱するマリオンに「そうだ」と頷くと、キースは視線を外し虚空を見つめながら話し始める。

     
    「アイツは黙って死んじまうなんてことはしないし、自らの意思で【HELIOS】を裏切るなんてことはしない。それが分かってたから、俺は探して連れ戻した。ただそれだけだ」
    「……」
    「な? 単純だろ?」


     そう告げたキースの口角は笑みを形作るように持ち上がっているものの、マリオンを捉えた右目は少しも細められることなく、彼を射貫いている。

     
    「オマエとアイツはアカデミーからの仲だろう。しかも、アイツは失踪していた時期もあった。そんな短期間でどうしてそんな確信が得られる」


     そんな彼の態度など目もくれず、マリオンは納得していない様子で質問を重ねた。追撃されるとは思っていなかったのだろう。彼の問いにキースは「うげ」と口にするとあからさまに面倒くさそうな表情を浮かべた。


    「質問が多いな……」
    「相互理解を深めるためだ。趣旨には合っている」
    「何だ、ブラッドみてぇな言い方するじゃねぇか」
    「……」


     キースの指摘はマリオンの地雷だったらしい。その言葉を耳にした瞬間、マリオンはきっとキースを睨み付けた。何も言葉を返さないものの、その沈黙がマリオンの怒りを如実に表していて。

     
    「あ~、そんな怖い顔すんなって……」


     彼の変化に気がついたキースがお手上げだといわんばかりに両手を上げる。ふんと鼻を鳴らすマリオンに息を吐くと、手を下げて再び椅子に体重を預けた。

     
    「アイツは、俺を掃きだめみたいな暗い場所から引き上げた。そんで、それから俺の人生は変わった」


     当時のことを思い出しているのか、キースの口元に笑みが浮かぶ。それは先程とは異なる、幸福感に満ちたような笑みだった。
     

    「激変ってどころじゃねぇよ。一気に光の元へ引きずり込まれちまって、消し飛んじまうかと思った」


     口にした言葉とは裏腹に、彼の声は明るい。

     
    「だから、俺は信じている。ディノも、勿論ブラッドも」


     そのままの調子で語られたはずの言葉は、とても重たく響いた。それは彼にとって揺るがない信念のようなものなのだろう。

     
    「話が飛躍しすぎて分からない」
    「別に分かっても得しねぇよ。つーか、雰囲気に流されて薄ら寒いことを言っちまった気が……」


     意味がわからないとばかりに顔を顰めるマリオンに、キースは寒気を感じたようにぶるりと身体を震わせた。
     

    「さっき話したこと、アイツらには内緒だからな」
    「話す機会なんて存在しないから安心しろ」
    「そうかい。それは良かった。……で、そんな顔をして俺を見ているのは何でだ?」


     マリオンの答えにほっと胸を撫で下ろしていたキースが、疑問の言葉を投げ掛ける。マリオンは「別に……」と呟いたものの、どこか苦々しげな表情を浮かべながら自らの思いを口にした。



    「オマエの『それ』は信頼というより、信仰という言葉が似合うと思っただけだ」


     その言葉にキースは瞠目する。

     
    「信仰、か。そう表現されたのは初めてだけど、当たらずとも遠からずってところかもしれないな」


     そう言うと、彼はとても楽しそうに笑った。

     
    「ははっ。……そうか、俺は既にラブアンドピース教に入信してたのか」
    「は? 何だその巫山戯た名前は……」
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