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    三点リーダ

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    三点リーダ

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    マリオンと第13期の『ヒーロー』たちが対話をする雰囲気小話。

    13 ジェイ・キッドマン「お、来たな。先に座っているぞ」


     マリオンがドアを開けると、席に着いていた人物が声を上げる。その人物――ジェイ・キッドマンはマリオンの姿を確認すると、人当たりの良い笑みを浮かべた。マリオンはその言葉を返す素振りも見せず、そのまま正面の席に腰掛ける。

     
    「こうしてマリオンと話す機会があるのは、珍しいな」
    「メンター会議で何度も顔を合わせているだろう」
    「そうなんだが、2人きりということは中々無いだろう?」
    「ボクは忙しいし、そもそも話す内容もないだろ」
    「手厳しいな……」


     とりつく島もないマリオンの応答に、鷹揚な態度は変わらないままジェイが苦笑を漏らした。

     
    「でも、マリオンが忙しいというのは事実だ。今は特に……大変だろう。大丈夫か?」


     気遣うようなジェイの言葉に、マリオンは眉根を寄せて不快感を露わにする。

     
    「は? ボクを誰だと思っているんだ。その言葉はボクに対する侮辱に値する」
    「そんなつもりはなかったんだが……難しいな。やはり年代の差というやつか?」


     困ったように表情を曇らせるジェイに「何でも年齢のせいにするな」とマリオンがぴしゃりと言い放つ。何も言い返すことの出来ないジェイに代わって「それに」と彼が続けて言葉を発した。

     
    「オマエが奥歯に物が挟まったような言い方をするのが原因だろう」
    「え……」 
    「そんな遠回りしなくてもはっきり聞けば良いだろう」


     予期しない彼の言葉にジェイが言葉にならない声を漏らす。当の本人であるマリオンはというと、どこまでも凪いだ瞳でジェイを見つめていて。


    「『お前はヴィクターのことをどう思っているんだ』と」
    「っ!!」


     彼の指摘にジェイは表情と身体を強張らせた。

     
    「当たりか」

     
     少し得意げにマリオンが言いのけたその言葉に、鎌をかけられたのだということを知ったらしい。ジェイは僅かに脱力して椅子に深く腰掛けた。

     
    「……はは、まさか鎌をかけられるとはな」
    「オマエは人一倍ヴィクターに対して執着していた。だから、同じセクターかつメンターのボクに話を聞きたいだろうと予想したまでだ」
    「鋭い推理だな。……それで、答えてくれるのか?」


     朗らかに語っていた彼の声音が、ぱちりとスイッチを切り替えたように真剣味を帯びる。真意を見抜こうとじっと見つめる視線を気にする様子もなく「そうだな……」とマリオンは口を開いた。

      
    「薬やアイツの行動に関して思うところはある。そもそもアイツといると碌なことが起きないし、メンターとしての自覚もないし、アイツさえいなければって思ったことは数え切れないほどある」
    「さ、散々だな……」


     不機嫌そうに好き勝手なことを言うマリオンにジェイは戸惑いの声を上げる。しかしマリオンはきゅっと表情を変化させると、続きの言葉を口にした。
     

     
    「けど――本気でアイツを憎むことは出来ないのだろうな、と思っている」
    「!!」


     そう語った彼の表情は、様々な感情を押し殺したようだった。何かを堪えるような彼の表情に、ジェイは息を呑んで彼の言葉を待つ。

     
    「何故、という問いが出たとしてもボクは答えないからな」


     彼の真意に気付いたのだろう。そう口にした時には、マリオンは不機嫌そうな表情へと戻っていた。

     
    「ただ『オマエと同じだ』ということを言いたかった」
    「俺と……?」
    「オマエもそうなのだろう? ――アイツの所業を憎みつつも、アイツ自体を憎むことは出来ていない」
    「……」


     彼の指摘に、今度は表情1つ変えることなくジェイは黙り込む。
     

    「沈黙は肯定と見なすぞ」
    「肯定も否定もしない」
    「なっ……んだそれは!」


     きっぱりとした、しかし曖昧な答えにマリオンは抗議の声を上げた。狡い、という感情をありありと顔いっぱいに浮かべるマリオンに、ジェイはからからと笑う。

     
    「ははっ。格好良く言ってしまったが、実のところ自分でも分かっていないんだ」


     そう口にすると、ジェイはテーブルの上で指を組んだ。自分の考えを整理しているのだろうか、親指同士が幾度となく摺り合わされる。

     
    「『ヒーロー』であり研究者であるという身分を隠れ蓑にして、ルーキーたちに好き勝手していたことは到底許せることではない。だが――」


     組まれた指にぐっと力が籠もる。

     
    「【HELIOS】が【イクリプス】に襲われた時。『ヒーロー』として出撃する彼を見て『心強い』と安心したことも確かなんだ」


     そう語るジェイは、あまり目にすることのない険しい表情をしていた。独り言に近い心境だったのだろう。しばらくすると現実に戻ったらしくはっとした表情を浮かべると、困ったように笑みを浮かべた。

     
    「いずれ自分なりの答えは出すつもりでいたんだが……。まさかマリオンに見破られてしまうとはな」
    「オマエが分かりやすいだけだ」
    「そうか……」


     つんとした態度を変えることのないマリオンに、ジェイは優しい瞳を向ける。

     
    「マリオンも、その感情の答えが出ると良いな」
    「……」


     マリオンは何を答えず、ただそっと目を伏せた。
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