テスト 山を抜けるつもりが、すっかりと迷ってしまったらしい。いつの間にか獣道に入り込み、えっちらおっちらと男は歩くのだが、いつまで経っても道は拓けない。遠くからは鳥の鳴く声や狼の遠吠え。太陽までも隠れようとしていたので、男は泣きたい気持ちになった。
やはり、変な猪頭の言葉を信じるべきではなかった。
男は思った。
——山の中腹で出会ったのは猪の皮を被った風変わりな人であった。
上半身は裸で、下は股引きを履いていた。やけに鍛えているので山賊かと恐れたが、違ったらしい。怪しい。関わらないでおこう。そう思ったのだが、猪頭は男が持っていたシベリアを見つけては奪い取り、そうして聞いてもいない街への近道とやらを教えて来たのだ。
「俺様はこの山の主だ! この菓子の褒美にいいことを教えてやる! この百日紅のなっている木を辿っていけば近道だせ! ガハハハハ!」
高笑いを響かせる。猪頭は、それから男の来た道を大股で歩いてどこかへ行ってしまった。
なんだったのだろうか。
男は呆気に取られた。猪頭が去った道をぼんやりと眺めてから、また正面を見る。
猪頭が言ったように、百日紅のなっている木がてんてんと奥へ続いていた。先は鬱蒼とした木々に囲まれていて、何処かへ迷ってしまいそうな雰囲気。普段の慎重な男だったら、進まなかっただろう。しかし、その時は好奇心が湧いてきたのだ。
近道というのは、きっと麓への近道だろう。