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    ファウストの誕生日直前、建国の魔法使いの聖誕祭にわく中央の市場で買い物をするシノとヒースクリフとネロの話。
    シノ中心で東の魔法使いたちの話、続く予定。
    世界線は箱庭と同じ。時系列が「やわらかな夜に」と「箱庭の星月夜」の間でカプ以前。

    市場に溢れる目移りも鼻移りもする出店の数々に、歩きながらあれもこれもと買い込んでいたらすぐに両手一杯になってしまった。シノの左右にいるヒースクリフとネロに渡すふりをしながら足を止めずに魔法で少しずつ消して、そのうちのひとつは食ってみろと実際にそれぞれ手渡した。ヒースクリフは戸惑った顔をしている。

    「美味しそうだけど···食べ歩きは苦手だから···」
    「何も考えずにかじりつけばいい。おまえなら何をしても様になるから、それだけで周りの連中が振り向くぜ」
    「い、意味がわからない」
    「はは、シノらしいな。ヒースも難しく考えないでさ、作りたてを味わうのも食い歩きの醍醐味だって」

    ほれと手本のようネロがホットドッグにかじりついた。右腕は買い込んだ食材で塞がっており、左手だけで包みを下げている。やっぱり器用なやつだと感心しつつ、ネロに誘われてわたわたと両手で持ったドーナツを食べようとしているヒースクリフはかわいい。

    慣れない食べ歩きに挑戦しているヒースクリフの邪魔をさせまいと、人混みのなか盾になるようにして前に進む。要人警護とやらに慣れているらしいレノックスやカインを参考にしているが、正直それほど上手くできていない自覚はある。
    けれどヒースクリフが人の波に飲まれることはなく、ついでにいえばシノもやけに歩きやすくて、ちらりとネロの方を見る。付かず離れずの位置をさりげなく移動しながら、シノたちを庇っているのだとすでにわかっている。
    感謝はしつつやはりちょっと悔しい。ヒースの食い歩きのようにそのうちオレも上手くなるさと胸を張り、賑やかな中央の市場を見渡した。

    東の国では考えられない活気で満ちている中央の市場は、ここ最近それを更に数倍にしたかと思うぐらいの賑やかさで溢れていた。
    一週間後に迫ったとある祭日、よく知った魔法使いと同じ名称が付けられている。
    売り物にも託つけられているのだ、そこかしこから聞こえるその名にネロが苦笑いした。

    「これじゃあ、先生を誘っても来るわけないわな」
    「うん、絶対落ち着かない」
    「なんで。そこら辺から自分の名前が聞こえてくるなんて面白そうだ」

    その時、タイミングよく右手のほうから歓声が上がった。聖ファウスト様に感謝を!斉唱する中央の人々の明るい声からは、その魔法使いへの敬愛が伝わってきた。
    建国の英雄たる魔法使いの聖誕祭を、中央の国をあげて祝っているのだという。その誕生日は、シノのよく知る同名の魔法使いと同日であった。
    浮かれた中央の国の空気とは程遠い暗い色の眼鏡をかけた陰気な魔法使いは、ただの偶然だと声音を変えることなく言い放つ。だからシノもどうでもいいと思ってやっている、今はまだ。

    だから、シノ自身の身に置き換えて想像する。
    自身の手柄で褒めそやされるのであればシノは間違いなく高揚する。祭日まで作られるなんて、ただただ誇らしいと胸を張るだろう。
    それが自分ではない同じ名前のやつの功績だったならば?劣等感よりも発奮に変えられる気がする。それ以上の手柄をあげて塗り替えてやると。
    つまらないことに、東の連中は揃いも揃って野心というものがない。少なくともヒースクリフにはどうにかして欲しいものだが、それはとりあえず置いておくとして。串に刺さった果物の砂糖掛けに歯を立てながら、シノはうーんと首を傾げた。

    「落ち着かなくても、品揃えが格段によくなっているし気前のいい値下げもしている。この状況を利用すればいいのに」
    「あー···先生ってそういうところあるよな、わかる」
    「俺もその···わからなくはないけれど。でも、強要はするなよ、シノ」
    「しないさ。ただ勿体無いなと思っているだけだ」

    この感覚はシノよりも寧ろファウストの方が持っていると思う。きっちりと実をとる、ファウストの長所のひとつだと認識していた。だからこの祭り騒ぎに辟易としながらもうまいこと活用しそうなものだが···余程この空気との相性が悪いらしい。
    だったら、とシノは夢想する。いや、実現すべき光景として脳裏に描く。にやりと笑った。

    「東の国の祭日なら、ファウストも歩きやすいだろ」
    「ん?そうかもな」
    「ヒースクリフとオレが祭日を定めるほどの手柄をあげればいい話だな」
    「···?!いきなり何を言い出すんだ?!」

    はぁ?!とシノに詰め寄ってきたヒースクリフの美貌にうっとりとし、けれどその手から落としかけた食い物を支える役目を果たせなかった事を悔いた。
    自分のホットドッグをすでに食べ終えていたネロが、慌てているヒースクリフの手ごとドーナツを支えながら、苦笑混じりの笑みをシノに向けた。

    「相変わらず勇ましいなぁ、シノくんは」
    「本気だぜ?」
    「わかってるって。あんたらなら本当に実現出来るんじゃね」
    「ネロまで乗らないで···」

    うぅと小さくなったヒースクリフにむっとする。オレたちの将来の話をしているのだから同調して欲しい。もっと強い主になってほしい。不機嫌になりかけたが、いつもながらネロのタイミングにいなされた。
    ドーナツを支えていた手を離し、そのままヒースクリフの肩をぽんと撫でた。そしていつもながらののんびりとしたどこか食えない口調で言う。

    「ヒースとシノの日が出来るってことか。それぞれってことだよな?いいじゃん、豪勢で」
    「いや?同じ日になると思う」
    「ん?なんで?」
    「オレは誕生日がわからないからな」

    どこぞの建国の英雄と同じように、きっとヒースクリフの誕生日が祭日となるのだろう。それに付随しシノの名が呼ばれればそれでいい。胸を張って歩くことが出来る。
    心からそう思っているが、ヒースクリフはやっぱり複雑そうだった。その顔は困るから止めろといつもなら即座に文句を言っていたが、ネロが戸惑っている気がしてどうしてだかすぐには声にならなかった。
    けれどシノが何か言う前に、すっといつもの緩い雰囲気になったネロが変わらぬ口調で言った。

    「おまえらの名前がついた祭日、雨の街の法典に載ったらいいな」
    「おう、首を洗って待っていろ」
    「なんで洗っちゃうの」

    ははっ!と笑ったネロにつられてか、ヒースクリフも控えめに笑った。その顔を見て、今はそれでいいかとちょっとは思えている自分に気付く。
    賢者の魔法使いの役割を全うすることで、ヒースクリフにも地に足のついた自信がつくことだろう。そのためにオレたちを鍛えろよと、そこかしこから聞こえる英雄の名と同じ響きの先生の名を脳裏に浮かべた。
    まぁ授業料がてらと嘯きつつ、目に入った猫型の食パンを指差し、ネロとヒースクリフを見ながらシノはにやりと笑う。

    「ファウストへの土産にする」
    「お、いいんじゃね?あいつ絶対好きじゃん、こういうの」
    「うん、喜んで貰えそう」

    露店前に移動しハチワレ柄の焼き目が綺麗だと口々に言えば、気をよくした店主が別の柄も見せてくれた。
    サビやらブチやら三毛やら白やら黒やら、絶対作ったやつ猫好きだろうと言う出来の良さであり、自分の目の付け所に満足である。
    全部の柄が欲しいから切り分けて欲しいと交渉すれば、快く引き受けてくれた。パン切り包丁を持った店主の手際の良さに感心しながら、そうだったとネロが今更なことを言った。

    「今は猫を象った売り物が沢山あるし、先生への土産に困らないな」
    「そういえば、建国の魔法使いも猫派だったんだっけ。俺も先生にお土産を選びたいけど、本当にたくさんあるから目移りしそう」
    「ファ、···先生への土産で勝負しようぜ」
    「は?勝負?」
    「おまえらも猫モチーフの土産を選べよ。それで、どの猫が気に入ったかうちの先生に決めて貰おうぜ」
    「め、目移りしそうって言ったばかりなのに」
    「まぁ、土産買っていくのはいいけどさ」

    さっき猫ラベルのワインがあったなぁなんて案外と乗り気なネロに、ちょっと気を抜いたらしいヒースクリフも土産を探すことにしたようだ。念押しのように言われた。

    「勝負なんてなくたって、元々先生にお土産を買っていくつもりだったんだからな」
    「わかってるよ」
    「ファウストにも祭りの賑やかさをちったぁ味わって欲しいもんな」
    「「うん」」

    声を揃えて頷いたシノとヒースクリフの頭を、わしゃわしゃと撫でながらネロが笑った。大きな手のこそばゆさごと楽しくて、ふふんとシノはぐりとその手に頭を押し付けた。

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    REHABILIファウストの誕生日直前、建国の魔法使いの聖誕祭にわく中央の市場で買い物をするシノとヒースクリフとネロの話。
    シノ中心で東の魔法使いたちの話、続く予定。
    世界線は箱庭と同じ。時系列が「やわらかな夜に」と「箱庭の星月夜」の間でカプ以前。
    市場に溢れる目移りも鼻移りもする出店の数々に、歩きながらあれもこれもと買い込んでいたらすぐに両手一杯になってしまった。シノの左右にいるヒースクリフとネロに渡すふりをしながら足を止めずに魔法で少しずつ消して、そのうちのひとつは食ってみろと実際にそれぞれ手渡した。ヒースクリフは戸惑った顔をしている。

    「美味しそうだけど···食べ歩きは苦手だから···」
    「何も考えずにかじりつけばいい。おまえなら何をしても様になるから、それだけで周りの連中が振り向くぜ」
    「い、意味がわからない」
    「はは、シノらしいな。ヒースも難しく考えないでさ、作りたてを味わうのも食い歩きの醍醐味だって」

    ほれと手本のようネロがホットドッグにかじりついた。右腕は買い込んだ食材で塞がっており、左手だけで包みを下げている。やっぱり器用なやつだと感心しつつ、ネロに誘われてわたわたと両手で持ったドーナツを食べようとしているヒースクリフはかわいい。
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