「シノ」
授業終わり、教室から出ていこうとしていた時の事だ。終わった終わったと頭上に上げていた両腕をそのままに、シノは教壇を振り返る。
最後尾だったシノ以外にはファウストの声が聞こえなかったのか、ネロとヒースクリフはそのまま出ていってしまう。失敗したと踵をじりと出口へと向けながら、シノは最上級にも近い警戒心で先生を睨み付けた。
「なんだよ、今日のテストはそこまで悪い点数じゃなかっただろ」
「威張れるほどではないがな」
「補習とかいうなよ?逃げるからな」
「堂々と宣言するんじゃない」
全くと呆れた様子のファウストは、しかしどこか可笑しそうでもあった。補習の気配はなさそうだとちょっとだけ警戒をとけば、ファウストは口許を妙な具合に歪ませる。誤魔化すように眼鏡を押し上げ、いつもどおりの口調で言った。
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