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    sakesalmon_sake

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    終末のどあか

    「明日世界が終わるとしたらどうする?なんていう話をした事もあったけれど。まさか本当に世界が終わるなんて思わなかったね」
    「俺達以外の世界が、な」


    それは突然の出来事で、鬼狩りどもが何かをしたのか、それとも別の何かがあったのか。何も分からないままに地が揺れ山が割れ海は荒れ、瞬く間に世界から何もかもが無くなってしまったのだ。
    信者に教えを説いてやっていた俺は、目を一度つむってまた開いた時には目の前の者共が全て息絶えているなんて思いもしなかった。流石に驚いて様子を見にそこらを歩いてまわっていると同じく状況を読み込めていないらしい猗窩座殿と遭遇し、以来行動を共にしているがここ数日で生きている者は1人として目にしていない。
    俺達が存在出来ているのだから、無惨様はまだ生きていらっしゃるのだろう。けれど、脳内に御声は届かず、琵琶の音が響く事も無い。他の鬼はどうなってしまったのか、下位の者への対話に返事が無いというのはまあきっと死んだのだろうとしても黒死牟殿はどうだろうか。俺達よりも力のある黒死牟殿がそう簡単に死ぬとも思えない。無惨様と共におられるのか、それとも。いくら思考を巡らせようとも見渡す限りの荒地に死骸。答えなど見つかるはずもない。

    「俺達もそう長くは持たないだろうね、無惨様の状況がわからないうえに生きている人間に全く遭遇しないのだから」
    「確かに腐りかけた死骸の血を啜りたくは無いな」
    「……たしか鬼狩りの中に人を食わない鬼がいたのだっけ。俺達もそれになれれば、というか」
    「生きるには、それしか無い。ということだ」

    "こう"なってからというもの、猗窩座殿は俺と会話をしてくれるようになった。猗窩座殿もきっとこの状況が不安なのだろう、話せる者がいることに安心しているのかもしれない。会う度に頭を砕かれてきた身としては、まるで野良猫が懐いたかのようなうれしさを感じてしまう。
    ……うれしさを感じる?

    「ねぇ猗窩座殿、嬉しいってどんな感じ?」
    「…………」
    「こう、気分が明るくなって、ほわほわっとするような……自然と口角が上がる感じ?」
    「……まあ、そうなんじゃないか」
    「ふーん、なるほどなるほど、これが。俺、好きとか嫌いとかは何となくあるのだけど、嬉しいとか悲しいとかそういうのは人間の様子や書物で得た知識としてしかわからなかったから」
    「感情が、無いとでも?」

    猗窩座殿の足がぴたりと止まる。そういえば猗窩座殿、いつも裸足だけれど歩きづらくないのだろうか。次どこかの村跡に辿り着いたら履物を渡してみよう。

    「無いのかあるのかもわからないなあ。そもそも感情というものがどういうものかわからないから、それが俺の中に存在しているのかもわからない」
    「そうは見えなかったが」
    「だって感情って当たり前にあるものなのだろう?ならばあるように振る舞わなければ不自然じゃないか。俺、結構頑張ったんだぜ」
    「……今は、もう頑張らなくて良いだろう。お前が真顔でいようが俺はなんとも思わない」

    これは、気遣われているのだろうか。どうやら俺はこの数日で随分と猗窩座殿に懐かれたらしい。それか、今の話で憐れまれたか。もう癖になってしまったから、今は頑張っていないよ。そう告げれば眼に安堵が宿る。本当にどうしてしまったのだろう、俺も、猗窩座殿も。

    「……それでさ、さっき猗窩座殿と一緒にいれて、猗窩座殿とたくさんおしゃべりが出来て、嬉しいと思ったんだ。知識としてしか知らなかったものを実感するって、初めての感覚でゾクゾクしたなぁ」
    「お前、前々から思っていたが……本当に俺の事が好きだな」
    「すき?これが?ふーん、そっか……好きかぁ、猗窩座殿は?俺の事好き?」
    「嫌いだ」
    「即答は酷いぜ、せめてもう少し考えてみても」

    断る、とこちらに背を向けて再度歩き出した猗窩座殿の耳が、血色の悪い青みの強い肌がほんのり赤みが増して不思議な色になっているあたり、きっと"脈あり"ってやつなのだろう。これは。

    「ね、ね、猗窩座殿」
    「なん、……は?」
    「想いを寄せる相手には口吸いをするのだろう?俺もよくされたし、強請られた」
    「だからって、何故俺にする」

    手の甲でゴシゴシと唇を擦られて、心の臓が少し痛くなる。嫌がられるなんていつもの事なのに。

    「俺は猗窩座殿が好き、らしいから。猗窩座殿によれば」
    「好きにも種類があるだろう、何でも色恋沙汰に結びつけるな」
    「でも俺は、きっと猗窩座殿の事をそういう意味で好きだと思うぜ」
    「感情を知らんお前に何がわかる」
    「わかるよ、だって俺、今猗窩座殿を抱きたいもの」

    は、とまんまるのお月様がきゅうと縮まって、一瞬で俺の間合いの外へと逃げられてしまった。どんなに頑張ったって、俺と猗窩座殿しかいない(と思われる)世界で俺から逃げられるはずもないのに。そんなところも、今までであればお馬鹿さんだなあと思う程度だったというのに、何だか無性に可愛らしくて仕方がない。恋は自覚するともう止められない、と言っていたのは誰だったか。もう死んでいるだろうから誰だっていいけれど。

    「おおい猗窩座殿、今すぐは抱かないから戻ってきておくれ。一人は寂しいよ」
    「お前が寂しかろうがなんだろうが知ったことではない、これ以上近付くな」
    「俺じゃなくて、猗窩座殿が寂しいだろう?」
    「俺は!寂しくない!」

    そうはいっても、きっと夜明けには隣に並んでくれるはずだ。猗窩座殿は寂しがりだから。俺の予想が当たるかどうかがわかるのは、あと4時間後。
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