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    tada_00_

    @tada_00_
    自分用書きかけ倉庫。何の手直しもしていない、いつか書けたらいいなの健忘録。ぶつ切り。その他。

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    けっせーせきのやつ設定好きだから書きたいんだよなぁ。
    脹虎。

    いつでも側に「ああ、またやったか。焦ると駄目だな」
     小さな部屋の片隅から小さく声が聞こえる。ただでさえ狭いその部屋は物に溢れ乱雑極まりない。ピンセットや虫眼鏡、ヤットコにニッパーや目打ちから始まり何に使うか分からない物まで。我が物顔で狭い部屋の三分の一は占拠する広い机の上にはそういった物が縦横無尽に散らばっていた。
     辺りを見回すと、壁には幾重かの装飾品が飾られている。イヤリング、イヤーカフ、ネックレス、チョーカー、ブレスレット、アンクレット、ブローチからネクタイピンと時計に至るまで。その全てには大小の差はあれど、鮮やかに深い色をした赤い石が埋め込まれていた。何処か目が惹かれて離せなくなる、そんな不思議な力を持った石だった。そして、それが使われるのは唯一この男の作品にのみ。どこで採れ何で出来ているのかも不明な美しい、その瞬く間の閃光のような輝きに傾倒する者も少なくなかった。その妖しいまでに美しく人を魅了する赤い石は、作者が密かに漏らした言葉を仄聞した誰かしらから取り上げられ血星磊と呼ばれるようになった。血のように赤く星のような煌めきの美しい石だと。
     それが繊細に組み込まれた嫋やかな細工に目を奪われる物もあれば、無骨なデザインがかえって素材の魅力を引き出している物、幾何学模様のように複雑に計算された物などその作風は多岐に渡る。一つ一つを分けて見ると同じ人間が作ったとは思えないような作りだが、何れにしても異彩を放つ唯一無二の赤い宝玉が同一人物の作である事を物語っていた。その作品全ては今この部屋に居るこの男一人の作で、他人に興味がなく気紛れな製作者のこの品々は高い評価を得ているが入手は極めて困難。本当に極稀に人の手に渡るそれが益々その価値を高めていた。
     そして今、男の手元には無惨に散った欠片がぱらぱらと散り、所々からさらりとした赤い液体が流れていた。
     その破片を拾い集め、適当な容器に雑に入れる。目的を果たせなかったそれも、練習がてら試作品の一部に使われる。その、脹相から言ってしまえば粗悪品が唯一世に出回るのだという事を知る者は少ない。
     元々脹相が装飾品の類を制作するようになったのは悠仁に起因した。自分の一部とも言えるものを悠仁が身に付けてくれたら。それで悠仁を着飾れたらなんとそれは幸福な事だろうかと。そう一度でも思ってしまったらあとは早かった。全くの未知の領域ではあったが独学で調べ上げ試行錯誤し、何とか形になる頃にはいつの間にか評価を得ていた。悠仁に贈るには満たないそれを、軽い資金稼ぎのつもりで売ったら思いの外好評で、手放したそれは数える程しかなかったが十分な稼ぎにはなった。経験を積む為に石を埋め込まない物も何点か作り売った。やはり多少値は落ちるものの、そこそこの需要はあった。これならば在宅で出来ることもありそれを仕事にした。仲介は信用は置けるが信頼はしていない、胡散臭い笑みが良く似合う長い髪を団子に括った男に任せている。一度懐に入ってしまえば至極面倒見のいいその男に、何を気に入られたのか分からないが脹相は目をかけられていた。そこだけが唯一、世間と脹相を繋ぐ細い糸だった。
     悠仁に贈る最高傑作を作る為、脹相は長年をかけて血を込め、圧縮を繰り返し密度の高い血星磊を幾つか作っていた。最初は失敗も多く、保険の為十数個はあったそれも形が歪だったり色が気に入らなかったり、圧をかけ過ぎて砕いてしまったりで数を減らしていた。昔から長い時を掛け濃縮を繰り返してきた粒の一つも先程砕いてしまった為、残りあと五つ程になっていた。
     未だに納得のいく出来に達していないそれらも、いよいよ後がなくなってきた。今後はもっと慎重に扱わなければと溜息を吐いたところで、気分転換を兼ね作りかけだったカフリンクスに手を付ける。形は半球とシンプルだが、天体をイメージして星を散りばめ所々に先程砕けた極小の血星磊を埋め込む。赤い天体は珍しく、星が耀くそれは小振りながらも印象的で人目を引くだろう。指で摘み上げ、目の前で転がすとこんな物かとひと息吐いて興味を失う。仲介の男が何処からか集めては重ねられる箱の中から良さげな物を見繕い仕舞い、売却用スペースへ放る。
     細かい作業続きで凝り固まった体を伸ばし脱力する。真横にある大きな窓のカーテンをずらすと、すっかり日が暮れていた。半分以上隠れた太陽が放つ赤に近い濃いオレンジの光が眩しく目を細める。もうじきに悠仁が帰ってくるだろうと先程まで重かった腰を上げ、出迎えの準備を始めた。

    「兄ちゃーん、ただいまー」
     悠仁の元気に帰宅を主張する声に俯いていた顔を上げ玄関へと向かう。丁度中に入って来た所で、お帰りと頭を撫でる。もうガキじゃないんだからとは言いつつ、決して振り払ったりはしない。内心では満更でもないことを脹相は知っていた。
    「目当ての物は見つかったか?」
    「それが中々いいのなくて。急ぐもんでもないし、また気長に探すよ」
     そう言って左肩にさげたリュックを下ろした。
     今日は古くなった財布を新調する為に友人らと出かけたらしいのだが、生憎気に入った物が無かったらしい。まだ使えないという訳ではないからピンとくる物が見つかるまでは今のを使う事にしたと、さして気にした風もなく話していた。ふと、髪を掻き上げるように頭を素通りする腕に珍しい物を見付けて脹相は軽く眉間に皺を寄せる。
    「悠仁、それは…」
    「ん?」
     険しい表情の脹相に首を傾げ、その視線の先を辿る。じっと怖いくらい固定された目線の先には悠仁の腕に巻き付いた一つのミサンガがあった。
    「ああ、これ?折角行ったのに何も買わんのも勿体ないしお揃いで買ったんだ」
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    recommended works

    tada_00_

    DONE #お兄ちゃんワンドロ

    お題『吸血鬼』
    心持ち脹虎。
    吸血表現あり。
    生まれ変わり。
    吸血鬼だけど日本。あと、勝手に血の代用品捏造。
    心が広く、なんでも受け入れたるぜ!という頼もしい方のみお進みください。

    ここを使って投稿するの初めてなので何か不作法してたら申し訳ありません。
    芳しき血の香り 町外れと言うよりは、もはや森の入り口というような所に薔薇の花に囲まれた一軒の日本家屋があった。それは大層立派な屋敷で、広い平家に広大な庭まであるいつからそこにあるのかもわからないほど古い家だった。家の周りには生垣の代わりに真っ赤な無数の薔薇が、まるで侵入を拒むように密に植えられている。日本家屋と言ったら桜やら松やら椿やらそういったものの方が似合うのではないかとは思うものの、不思議としっくりとその場に馴染んでいた。
     そこにはその屋敷に見合うように旧華族だから武家だかの由緒正しき末裔が住んでいるとかで有名だったが、住人の姿を見た者は誰一人として居なかった。そんな曰く付き、みたいな立派で古い屋敷など好奇心旺盛な子供や若者には格好のアトラクションで。よくはないことだと分かってはいても不法侵入を果たす者はぽつりぽつりと後を絶たなかった。そうすると決まって行方不明になったり、運のいい者は帰ってきたりもしたものの記憶をなくしたりと不可解なことが起こるので次第に誰も近寄らなくなっていた。確か、帰って来られた者の共通点は家の長子ではない。とかであった気がするがあまり関係もなさそうだと、人々は無事とは言えなくとも怪我もなく戻って来た者の所以に首を傾げていたが。それでもいつしか長男長女は特に近寄ってはならないとその地域では伝え聞かされるようになった。
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